元勇者の秘密
再び石像となった元勇者サトレイに斬りかかるヘンリ。
明らかに疲労している様子が見られた。
それもそのはず、彼は命を削って今戦っているのだった。
安全に戦っていては元勇者サトレイにはまるで敵うことができない。
そう理解するやいなや、なんの躊躇もなく戦い方を切り替えたヘンリだった。
彼は、自分の体を通って精霊術を現出する 地力の出力を上げたのだった。
もしかして、制御を少し間違ったならば、彼の体が破壊されないくらいに……
しかし、
「変ですよね……地力から出せる力は限界があるって僕は習いました」
ヘンリは剣先を元勇者サトレイに向けながら言う。
「……」
石像と化した元勇者は、相変わらずひと言も発しないが、少し動揺したのか、一瞬動きを止めた。
「なので、強さはいかに地力をうまく扱うかの問題になるとなり、我が家はずっとその研究を続けてきました。さっきグリュ王の攻撃を防げたのもそのおかげです」
ローゼから現勇者アウラ以上の力と評されたヘンリ。
先程、邪竜以上といわれたグリュ=ガルパネンの攻撃をしのげたのも、大地から得た力をうまく使った事による。
地力以上の力を奮う相手に対して、力を集中させて、タイミングよく使うことにより対抗したのだ。
「むやみに地力を出しすぎても意味がない。その精密な制御と集中が大事。ご先祖様……あなたが編み出した技をわが家はずっとつたえてきています。けれど……」
「——!」
まるでヘンリを黙らせるかのようにサトレイの斧が振り下ろされる。
「……わかっていますよ。それを知ってはいけないのでしょう」
「……」
ヘンリは斧を避けながら言う。
「自分の子孫を殺してでも守らなければならない秘密なのでしょう」
「——!」
サトレイの斧がヘンリの胴に向かって振られる。
ヘンリは剣で受けるが、衝撃で数歩後ろに下がる。
しかし、彼は、全く怯えた様子もなく言うのであった。
「ご先祖様、あなたが抱えた業を、僕にも背負わすきはないのでしょうか」