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(元)勇者と戦闘

 で、魔物の正体を聞いて、


「ええええええ! 勇者様が相手ですか!」


 やっと事態を理解したセラフィーナが大慌てになっていた。


 それはそうだ。神々の跋扈したと言われる、伝説の時代は抜きにして、史上もっと強かったと言われるサトレイが敵になったのだ。


 今まで、古城の魔物=操られた死体たちを、まるで相手にせずにばたばたとなぎ倒してきたヘンリであった。それを余裕を持って眺めて、素敵とかかっこよいとか言っていれたセラフィーナであった。


 しかし、今度の相手は勇者である。それも勇者の中の勇者と言われるサトレイである。敵が史上最強となれば、流石にビビりまくったセラフィーナであった。


 正直、ヘンリが勝負になる相手とは思えなかった。このまま、ふたりとも、死体となって、城の魔物の仲間となる光景が瞬時に頭の中を駆け巡った。


 怖くて逃げ出してしまいたかった。

 いや、今までのセラフィーナであれば、きっとそうしていたのだが、


「ご武運を……」


 逃げも隠れもせず、ヘンリの後ろに立つセラフィーナ。

 ヘンリが勝てると思っているのではない。

 でも、彼と一緒にこのままここで運命をともにしたいとしか考えられなくなっていたのだった。


 ヘンリにも、そのセラフィーナの心が伝わり、


「任せてください」 


 彼の顔つきが、より強く、美しく変わるのだった。


  *


 さて妖気の出ている元となる、扉の奥に入っていくヘンリとセラフィーナであった。


 そこは、もとのグリュ王の謁見の間。王座のある大きなホールであった。


 随分と豪華な場所であった。

 当時、随分と手間がかかっているだろう複雑な装飾がなされた壁一面には金箔が貼られ、高い天井にはグリュ王の肖像画が描かれている。

 暴政を引いた王があちこちから略奪した彫刻や置物に囲まれて、宝石が散りばめられた玉座があった。

 その上に石と化した勇者サトレイがいた。

 かつて暴王が鎮座した台の上に、人々を救った高潔な男が立っているのだった。


「動き出しました」


 その勇者が少しづつ動き出したのがわかった。

 最初は、ジリジリと、ぎこちなく動き出すだけであったのが、石化が少し溶けてきたのか段々と柔らかみをまし、ついには動き出した。


 とはいえ、石像は元の勇者の姿に戻ることはなかった。

 石というよりも、金属のような光沢を帯びた姿のまま、ゆっくりと歩き、持っていた斧を振り上げて、


「——!」


 咄嗟に剣でなんとか受け止めたヘンリであったが、


「「うああああああああ!(きゃああああああ!」」


 次の瞬間、後ろに立っていたセラフィーナともどもずっと後ろの壁近くまで吹き飛ばされる。


「……セラフィーナ。ここにいてください」


 剣を構え、立ち上がりながらヘンリが言う。

 こくりと頷くセラフィーナ。

 勇者の圧倒的な力を見せつけられても、彼女の顔には恐怖も後悔の表情も浮かんでいない。

 あるのは、ただ、ヘンリへの信頼だが、


「魔法と精霊の力を纏わせた剣でもこれですか……なら……」


 その信頼が彼の覚悟(強さ)になる。


「安全に戦っていては、ご先祖様に、まったく相手にならないようです……」


 先ほど、ローゼが邪竜以上と評した、グリュ=ガルパネンの鎌を耐え切ったヘンリであったが、伝説の勇者は、あきらかにそれ以上の存在だったが、


「それでも、命をかけても……守りたいものがありますから」


 後のセラフィーナをチラリと見ながらヘンリは言うのだった。



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