ローゼ VS グリュ=ガルパネン
さて、セラフィーナがローゼのやり過ぎを心配している頃、
「この国ごととは言わんのじゃが……せめて街ごと消滅させられたら簡単なのじゃが」
物騒なことを言いながら、グリュ王と悪魔ガルパネン融合体と向きあうローゼであった。
「これは、多分、こやつらが健在な時よりも強いに違いないのじゃ」
かつて勇者サトレイに倒されたキメラ。悪魔に虚栄心を見抜かれ取り憑かれた人間の成れの果てであった。
それは、残留した魂もがない、ただ枯れ干からびた亡骸であった。
何者かに操られているだけの怪物であった。
しかし、
「あのトカゲと同じことはできているのじゃ」
光よりも多く宇宙に存在する、暗黒から力を得る。
邪竜が勇者たちを超越した存在となったのは、それが理由であった。
勇アウラでさえ、この惑星の地力から得るエネルギーが限界となっていたのだが、邪竜はそれを超える力を獲得していた。
つまり、同じことができていたとローゼが言ったということは、この死骸もそれを使う術を得ているということなのだが、
「この死体を操る者も、それができる……もしかしたら、前からできていたと——いうことじゃな。おっと!」
ローゼがブツブツ言っている間に、振り降ろされるグリュ=ガルパネンの手刀。
それは時空を切り裂きながらローゼごと地を割ろうとするが、
「……とはいえ、まだまだ未熟じゃな」
ローゼが、さっと攻撃を避けながら、少し口角をあげると、時空は瞬く間に修復され、地にはそよ風が吹くばかり。
グリュ=ガルパネンは、そのまま、今度は横殴りにローゼを薙ぎ払おうとするが、
「……無駄じゃよ」
飛び上がり、敵の拳の上に立ったローゼが言う。
「これでどうじゃ」
ローゼの持つ杖から赤い消滅の光が出る。
消滅する怪物の頭。
しかし、すぐに新しい頭が生えてくる。
「原初への第一レベルはクリアしているようじゃの……ではこれではどうじゃ」
空中にふわりと浮かんだローゼは、
「廃呪……じゃ」
怪物の体がどす黒い煙に包まれて、どんどんと爛れていく。
体中がボロボロとなって崩れ、灰となって地面に散らばるが……
灰はいつの間にか集まり、再び元のグリュ=ガルパネンの姿にもどる。
「第二レベルもクリアじゃな……あの糞トカゲより上じゃ。なら、少しくらい城を壊すのは許してもらうのじゃ……包囲!」
魔法結界が怪物の周りを囲む。
「超圧」
結界の中で強烈な爆発が起き、何回も反射することで威力を高める。
しかし、爆発のエネルギーはすさまじく、ローゼの結界でも防ぎ切れな
い。
周りの城の建物がゴロゴロと崩れ落ちる。
しかし、結界を解いた後の地面に転がる怪物の残骸は、またもや集まり元の姿に戻り、
「さて……第三レベルをクリアした奴は久しぶりなのじゃ……これはいよいよ街ごと潰してしまうのか……それとも城ごと宇宙にでも転移させてそこで潰すのか……セラフィーナと貴公子のイチャコラカップルにはなんとかしてもらうとして……なのじゃ」
と、物騒なことを言い始めた、
「そ……の……必要はな……い」
ローゼが振り返ると、
「セリナか……なのじゃ」
宇宙から戻って合流した時の魔女セリナであった。
ローゼに合流すると言っていた彼女はタイミングよく現れて、
「時を……止める」
そう言うと、グリュ=ガルパネンの怪物も、崩れ続けていた城もピタリと止まる。
「おお、これで全力で行ける……なのじゃ」
セリナが時を止めた。つまり物理現象が発現するのに必要な時間というものがない世界だ。
なので、どんな激しい攻撃をしたところで、その結果が生じる時間がないのであたりは無傷となる。
しかし、それはもちろん時が止まってしまった世界にいる怪物も同じ。ローゼの攻撃も同じだとなってしまうのだが……
「動き出したのじゃ」
グリュ=ガルパネンの怪物は止まった時間の中で動き出す。
「このく……らいの時……間停止じゃ……当たり前。あいつは……推……定……」
「……レベル5じゃな」
頷くセリナ。
「ならばじゃ。これでどうじゃ……超越火炎!」
ローゼが叫ぶやいなや、杖の周りに魔法陣が大きく広がり、天まで火炎が上がった後に、よたよたと動き始めた怪物に降り注ぐ。
火は、怪物だけでなく、周りの街全体を包みこむが、時間が停止しているので「燃える」という物理現象が起きるということはない。
しかし……
「意外と耐えおるが……もうちょっとじゃな」
この世に見える四次元以上の余剰次元ごと燃やし尽くす超越な火炎は、
——ぅぐぐぐぅるるるるるる……
怪物を完全に燃やし尽くしてしまうのであった。