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聖樹

 さて、魔王ガルパネンの死霊とは戦わずに先に進んだ、ヘンリとセラフィーナであったが、


「ローゼ様だけ残して来て大丈夫でしょうか」


 ヘンリが心配し申し訳無さそうに言う。


「……何を大丈夫か心配しているものによりますが」


 セラフィーナが微妙な顔つきになりながら言う。

 正直ローゼのことなんてチリ一つも心配していなかったが、周りが大変な事になっていないかが心配だ。

 ローゼと過ごした最近の騒がしい日々を思い出しながら……


 アウグスの慰み者になってしまう寸前でローゼに助けられてから一週間ほどのことだった。


「……事を起こすのはもうちょっと後になるのじゃ」


 事というのが、伯爵家に自作自演の救出劇で取り入って、薄気味悪い古城に侵入することだとは思ってもいなかった、この時のセラフィーナであった。

 助けてくれた人が何者なのか、まだ恐る恐る探っているところであった。 が、特に何もすることなく、ふらふらと、あちらこちらを観光しては美食に散財しているのを見て、何だが随分と余裕のある人だなと思っていたのであった。

 というか、そのおこぼれにあずかって、随分と良い目を見た。

 貴族の娘であるセラフィーナでも滅多にできないような贅沢が毎日毎日続く。

 このままローゼ様に一生ついていきます的な心境になっていたのだった。


 しかし、


「このところ怠け過ぎで……なんか体が鈍っているのじゃ」


 そんなことを突然言い出したローゼ。

 あたりはぺんぺん草も生えていない岩だらけの荒野でのことだった。

 

「あれくらいがちょうど良いのじゃ……少し攻撃してみるかの」


 遥か彼方に枯れた巨木が見える。


「え、あれなの?」


 驚くセラフィーナ。


「なにかまずいのか……なのじゃ」


「まずいというか……あれ、何なのか知ってる」


「ふむ、正直、この(へん)の事情には疎いのじゃが、ちょうどよいマトがあったからの」


「ちょうどよいですが……あのヤバいのが……」


「お、そうなのか? やはり、あれは他の木とはちょっと違うと思ったのじゃ」


「ちょっと違うどころか聖樹じゃん」


「枯れ木じゃないのか?」


「枯れ木って……確かに枯れてるけど、聖樹さまだよ……勇者様の持つ斧だって全く刃が立たないくらい硬いんだから。それに……」


「それに、何なのじゃ?」


「呪いが怖いよ」


「聖樹のか? ……なのじゃ」 


「そうですよ。この荒れ果てたまわりの風景を見てよ」


「呪い……聖と邪なぞ紙一重じゃからな。大本は同じ力でも、顕現のしかたで、救いをもたらすこともあれば絶望をもたらすこともあるのじゃ。ふむ……」


 なんだか考えこんだ様子のローゼ。

 それを見て背筋にゾクッと寒気が走るセラフィーナ。


「あの枯れた聖樹のせいで、付近には草や虫どころか細菌もろくにおらん」


「細菌?」


「ああ、お主らにはまだわからなくても良いのじゃが……ここは何も生きていけない場所だということじゃ」


「そうですよ。呪われていて、だから近づいたらいけないんです」


「なるほど……ならばじゃ」


 ローゼはニヤリとしながら言った。


「呪いごと焼き尽くしてしまおうかの」


 その瞬間、蒼天に真っ赤な炎が浮かび、あっという間に空の半分を覆わんばかりに大きくなると、


「焼き尽くせ……なのじゃ」


 それが聖樹に向かって、まっすぐに落ちて来たのだった。


 地が閃光に包まれた。それは邪竜が放ったものブレスなどとは格の違う、強く、熱く、消滅の魔力をまとった、炎であった。

 岩が、染み込んだ呪いとともに溶けマグマとなった。その中心にある聖樹も、青い光を放ちながら燃える。


 そして、


「あれは……」


 セラフィーナが、びっくりしたような顔で言う。


「聖樹さまの芽……」


 彼女が驚くのももっともであった。

 なぜなら、


「ほう……」


 聖樹は地を全て焼き尽くす伝説の炎に焼かれなければ芽吹かぬと言われていたのだった。


 ところが、ローゼの魔法により、枯れ木から、青々とした苗が現れたのだった。


 しかし、


「ああ……聖樹さまが!」


 一度は広がり、空に向かって伸びていった新たな聖樹は、すぐに乾き、茶色に変色し、萎れ、倒れ、炎に包まれていったのだった。


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