もう一人の勇者
勇者の称号、聖なる精霊より指名を受け、加護と力を得た者。
フェムが、ヴィンがそうなのだと言う。
とはいえ、すでにこの世界には女勇者アウラがいたが……
いや、勇者が二人いて悪いという訳ではあるまい。
ましてやここは別の大陸であった。
勇者を命じる精霊は違う。
イクスたちが別大陸の勇者たちと詐称していることを思いだしてほしい。
ヴィンがそうであっても別に問題は無い。
しかし、
「僕がそうなのかはともかくとして……勇者が生まれなければならない状況なのでしょうか」
ヴィンは、顔を少し厳しい表情にしながら言った。
「あれほどのことがすでにあったのに、危機感ないですね」
「だって、気付いてなかったでしょ、この大陸の人たち」
サクアとフェムは少し呆れ顔。
「あっ」
「気づきましたか」
「直前に見たって言ってたよね」
「あっ、僕が見たサラマンダー……」
「そう。君ら……大陸の人たちは一回すべて焼かれてしまったのです」
「火にでは無く、呪いにね……」
「誰が……」
「誰がって、それはですね」
「そりゃ、勇者が現れないといけないような相手でしょ」
「悪神が復活したのでしょうか」
「こっちではあれをそう呼ぶんですね」
「最初の大陸では邪神って呼んでたね」
「やっぱり、そうなんですね。でもなぜ……僕が」
「勇者になんて選ばれたのかってびっくりしてるのですか」
「嫌なのかな?」
「本当なら……嫌とか、そんなふうに言えるものではないのはわきまえてます……勇者になるということは……けど」
「そんなことを突然、見ず知らずの私たちから言われてもというのはわかりますよ」
「いきなり信じろというのもいきなりだよね……でもまあ、私たち、そういうのよく見えるんで」
「見える?」
「まあ、いったんヴィンが勇者なのかは置いときましょう」
「でも、少なくとも、勇者と思うような力は発現しちゃったのは間違いないから……ほら、あれを見て」
「えええええ!」
フェムの指し示す半壊した砦の先、平原を一目散に逃げていく盗賊団の姿が見えるのだった。