三対一
というわけで、四天王残り三人をまとめて相手することになったヴィンだったが、
「あ、ちょっと待ってください」
「ああ?」
「怖気づいたのか」
「いまさら一人ずつ相手はしてやらんぞ」
「いえ、そうではなく」
ヴィンは、何もない空間に手を突っ込むと、中から細長い革の袋を取り出す。
「なんだ収納持ちか」
「めずらしいな」
「盗品の持ち帰り役で仲間にしてやっても良いぞ」
「それはご遠慮しますが……ダギさんとちがって拳で会話というのも失礼だと思いまして」
袋の中から出てきたのは2振りの刀であった。
まるで日本刀のような片刃の反りのある長刀と短刀。
「ほう若い割にそれなりの武器を持っているようだな」
「精霊もまとっているようだが……」
「おまえにそれが使いこなせるのかな」
四天王……の残り三人は顔に薄ら笑いを浮かべる。
その様子を見てサクアとフェムが言う。
「確かに刀についてるのは扱いが難しそうな精霊ですね」
「きっとヴィンくん、いままで、ちょっとしか扱えてないよね」
「でもですね……」
「もうヴィンくんはね」
サクアとフェムは頷きあい、
「……ともかく、もうめんどくせえ」
「俺たちを、まとめて相手にするなんて言ったことを後悔するがよい」
「それじゃあ……いくぞ」
盗賊団の三人は、妖気を体に満たし、
「「「結集攻撃!」」」
「……!」
闇精霊術の三連コンボであった。
ジグの巻き起こした鉄をも切り裂くかまいたちに乗って、ドガの灼熱の炎とビギの冷気で液体と化した空気がまだらとなって繰り返しヴィンを襲う。
この大陸の戦闘において、風属性、炎属性、氷属性それぞれに対抗する精霊や魔道具を備えて攻撃に抵抗することは、一般に行われていた。なので盗賊団の三人、それぞれの攻撃がいくら強大でも、それぞれに抵抗する術を持つ者はいないでもないだろう。
しかし、それぞれの属性の攻撃が瞬くまもなく次々に襲ってくる。
そんなものに対応できるのは、たとえ勇者であっても……
「何!」
「おまえ……」
「無傷……だと」
ヴィンの二刀流の長刀には炎の精霊。短刀には氷の精霊。そして精霊の作り出す炎と冷気をぶつけることにより突風をつくる。
精霊は2つでも、3つの攻撃を作り出すことによって、盗賊団の三人の攻撃を完全に防ぎきって、
「いきます!」
相手の攻撃の隙間に、すっと間合いをつめるヴィン。
「!」
「……くっ!」
「ふん!」
二刀流で三人に斬りかかるが、相手もさすが元は王国の警備隊。一の太刀は全て防ぎ切る。
しかし、ヴィンの接近を許したのが間違い。
「うが!」
「ぶほ!」
「ぐっ!」
そのまま刀の柄で腹を、顔面を殴られ、ローキックで膝を壊され、その場に崩れ落ちる残りの四天王。
「とりゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ、りゃ!」
そのままみね打ちの連打で気絶して地面に転がってしまうのであった。