盗賊団四天王
さて、場面は別大陸の、サクアとフェムの方に戻る。
彼女たちが出会った修行中の冒険者ヴィンが、今、対峙するのは……
岩拳のダギ。
オプシディアン盗賊団、四天王の一人であり、強化され岩と化した拳により、戦いの相手を撲殺する戦闘で恐れられている者であった。
小手先の剣技など、圧倒的な質量で叩き潰す。
拳の会話の論破王との異名の持つ強者であった。
「これってお前の岩層だよね」
戦った相手を叩き潰して岩の層に変えて言った言葉である。
相手はもう反論もできない、最強の論破術であった。
武者修行中の冒険者——ヴィンは、そんな男と殴り合おうというのだ。
もちろん、毎日が冒険の彼は、見せかけでない、強靭な肉体を持ってはいるが……
まるで熊のような肉体を精霊術で強化し、圧倒的な暴力でたたき潰すダギに叶うはずがない。
拳や魔法が幅を利かすこの世界でも、物理法則がなくなってしまう訳ではないのだ。重量はそのまま武器になる。
ましてや、ヴィンは、魔法使いでなく剣を主に武器とする冒険者であり、力には力で対抗するしか無いのだ。
「剣を捨て、拳で戦うとは馬鹿な男だ」
ダギは至近距離向かい合ったヴィンを見下ろしながら言った。
岩とかした拳を振り上げながら、
「潰れろ!」
ヴィンの脳天に振り下ろす。
が……
「あれ?」
ヴィンは拳をなんなく受け止める。
「……まあ、俺にも失敗はある」
ちょっとバツが悪そうに顔を背けるダギ。
「とはいえ、ちょっと変だな……念には念を入れて」
殴った瞬間へんな違和感を感じて、もう少し拳を強化しようと思い、
「闇精霊術——硬化レベル2!」
拳にまとわりついた岩は、より大きく、固く、金属光沢をおびはじめる。
「破裂しろ!」
今度はヴィンの腹に向かってパンチをめり込ませる……はずだったが、
「あれ?」
ダギの拳は、ヴィンの腹に少し触れたくらいで止まる。
「? なんか、殴った感触がないな……おかしいな」
なんだか嫌な予感がし始めているダギであるが、
「さすがダギさん!」
「わざと殴る直前止めてるんですよね」
「うわあ、相手はこの方が恐怖だわ……」
「痺れる憧れる!」
部下たちが、こんなことを言い始めたら後にはひけない。
「そうだな……どうだ、お前、ビビったか? 次は、本気で殴るんだぞ。逃げるなら今のうちだぞ(チラ)」
なんとなく、ヴィンに逃げてほしいなと言うような目配せをするダギ。
しかし、
「勝負お願いします!」
バトルマニアのヴィンはやる気満々だ。
「逃げても、恥ではないんだがな(チラ)……」
「お願いします!」
空気をまるで読まないヴィンであった。
「しょうな無い……後悔しても知らんぞ。では、闇精霊術——硬化レベル3……いや、3百万」
「わお、3百万!」
「俺らの想像を遥かに超えてきたぜ」
「これはあの青二才潰れるだけじゃなくて……」
「大地が割れちゃう」
「……」
実は硬化レベルは3までしか使えないのであるが、勢いで3百万などと言ってしまったが、部下たちに真面目に捉えられてしまって、冷や汗たらたらのダギであった。
とはいえ……
まあ、要は勝てばよいのである。
いあままで、硬化レベル3になったダギに、粉砕できなかった者はいない。
大地を割る前に、手加減してやったとか言えば、部下共は大喜びだろうだろう。
というわけで、気を取り直して、拳と、今度は体も強化されるダギであった。
拳は完全に金属——直径1メートルもあろうかという鉄球へとかわり、体もあちこちが鉄と化して、まるでロボット。
精霊術により、ダギ自身も巨大化して、宇宙世紀に天然パーマの主人公が乗ったロボットほどではないが、戦乱に開け狂う銀河でむせる主題歌のアニメででてきたロボットほどの大きさにはなっている。
とはいえ、まあ、巨大ロボットでなかったからと言っても、普通に考えたら、生身の男が戦ってどうにかなるような状況ではない。
なので、
「どうだ、やっぱり逃げておけば良いと思っただろ。だがな……」
ダギも、実際に硬化レベル3百万……でなくて、3になってみれば、さっきまで薄っすらと感じていた悪い予感など、どこかに吹っ飛んで、
「死ね!」
頭上に上げた鉄の拳を力いっぱい振り下ろす。
「……!」
しかし、
「へ?」
今度は、ヴィンもパンチをはなった。
振り下ろされる鉄拳に向かって、真正面からぶち当てる。
質量の違いは圧倒的だ。反撃など何の意味もなく、ヴィンはすり潰されて、地面のしみになるはずであった。
が……
「うぐぅ!」
片膝をつくダギ、拳は砕け、そして、
「では、今度は僕が……」
素早くふところに潜り込んだヴィンのパンチが、
「ぐふ……」
ダギの鉄の装甲をめり込ませて、腹にダメージを通らせたのだった。