深夜の追跡者
自分をつけていた男が誰なのかに気づいたディーノは言う。
「勇者を助けた男ですか」
「ほう、それを知っているのか」
「ええ」
首肯し、
「……じゃあ。どこまで事実を掴んでいるのかな?」
「……」
無言となるディーノ。
「言うわけ無いか」
また首肯しながら、ディーノは、
「何の用ですかね。あなたと敵対する気は無いのですが」
「俺も、無意味におまえらに難癖をつける気はない。誰が善なのか悪なのかここでの善悪など判断できないからな」
「ここ? はて、あなたは一体どこから来たのやら?」
「……まあ、どこかは勝手に想像してもらって良いが……」
「……食人鬼を悪としない国などどこにあるのやら」
と、少し、拗ねたような、皮肉っぽい口調のディーノに、
「行ってみたいのか?」
「は?」
イクスは至って真面目な顔で、
「そんな世界もある」
「どこに?」
ふざけて言っているのなら、許さないという表情のディーノに……
イクスは星空を見る。
「……天にあると」
「お前が信じるならな」
相変わらず、冗談などまったく言ってるそぶりのないイクスに、ディーノは、
「なるほど……信じたいところですが、あなたは私に希望を伝えるために来たわけではないですよね」
「そうだ」
「罪を問いたいわけでもないのですか」
「おまえらの善悪に関わる気はない」
「泣き叫ぶ女たちを食い殺したことも不問にしてくれるのですか。それはありがたい……しかし……」
ディーノは右足を前にだして攻撃の構えを取りながら言う。
「なら私になんの用……ですかね!」
と言うと、瞬く間にイクスの懐に飛び込んで、目にも止まらぬ速さで手刀を放つ。
何十発も。疲れなどいっさいないかのように、スピードも威力も変わらずに。食人鬼の驚異的な体力を、爆発的に集中させる。
手に長く鋭い爪をたてて、ただの人間では、いや勇者でもこの猛攻に無傷とは行かなかっただろうが……
「……終わりか?」
何事もなかったかのように、退屈そうな顔で立つイクス。
「触れることさえできずですか」
ディーノの攻撃は全てイクスにかわされた。
「これで終わりか?」
「いえ……」
というと体が膨れ上がり、食人鬼の真の姿に変形するディーノなのであった。