悶々とするアウラ
アウラ。彼女は人類最後の希望となるべく運命づけられた、最強の勇者であった。
裕福な商家に生まれ、幸せな幼少時代を過ごし、心優しき少女となった彼女に突然くだった神託。
そんな重責を担うには、まだまだ幼い十歳の時であった。
まさか自分が!
まるで考えもしなかった驚愕事態に、アウラは驚愕し混乱した。
この地に脅威が迫る時現れるという勇者。
この何十年も空位となっていたその座に、自分がついたというのだ。
家に神託を告げに来た、ヤータ聖教会からの使者を迎えたアウラの両親はとても戸惑った表情をしていた。
「……どうしたの?」
あどけない表情で問う娘の姿に、父親が、
「名誉なことだよ」
少し落ち込んだ口調で言ったのをアウラはしっかりと覚えている。
その後は家族と引き離され、やーた 聖教会に保護されて、勇者として当代最高の教師による武術と学問の訓練の日々を送る。
とはいえ、勇者になる者と言われたとはいえ、その時、アウラは、まだまだ幼い少女である。会えない家族の寂しさに、何度枕を濡らしたことか……
しかし、どうにもならないことはどうにもならない。
勇者になるというのは、そういうことなのだ。
アウラは、彼女の運命が自分の甘えでどうこうなるものでないことを分かっていた。
かつて、親が寝話に読んでくれたかつての勇者の伝説。
自分がその話のなかで助けられるお姫様に憧れたことはあるが……
まさか、自分がそうなるとは!
とはいえ、責任感の強いアウラは、弱音を吐くのは自分ひとりの時だけ。
不平も不満も言わずに、ひたすら修行に取り組んだ。
それは彼女の精神も鍛え、今では、誰からも信頼され頼られる、立派な勇者となったのだが……
「……こんなこと誰も教えてくれなかった」
深夜のベットで、困り果てているアウラであった。
「子をなせなんて言われても」
何をどうしたら良いのか。
考えれば、考えるほど、
「ああ……私は……」
顔を赤くして身悶えるアウラ。
「キスを……キスを男としなければならないのか……」
どうも教会の人たち、勇者へのこっちの教育をだいぶサボってしまっていたようだった。