ヘンリの強さ
グリュ王=悪魔ガルパネンが最後に変化したという怪物を見ながらローゼが言う。
「ほう……これはあの汚いトカゲなんかよりずっと大物じゃ」
汚いトカゲ。
それはこの星を絶滅させかねない業火をはなった、あの邪竜のことであった。
勇者パーティが、全力で戦って、傷ひとつつけることのできなかった、邪神と暴竜のキメラであった。
もっとも、その邪竜は、突如として現れた黒装束の謎の男、イクスに手も足もでなかったのであるが、
「ローゼ様でも、強敵なのですかあ? それだとちょっと怖いんですけど」
ローゼがすぐに攻めこまずに止まってしまったのを見て、セラフィーナが不安そうな表情で言う。
「まあ確かにあやつは強いな……とはいえ、現状はせいぜい亜惑星級。妾が警戒するほどのものではないのじゃが……」
「やっぱり! さすが! ローゼ様は、あんな怪物、ささって倒しちゃうんですね」
「……まあ、倒すだけだと簡単じゃが、場所が場所じゃからな。民衆が巻き添えになってしまうと不味いじゃろ」
「民衆? 城の中には、私たちしかいないですよ?」
「あいつを倒すには……街ごと破壊しないといけないということじゃ」
「えええ! ローゼ様、それじゃ私も死んじゃいますよ」
「そうじゃろな」
「まって! ややためてください!」
「やめてやっても良いが……ほら」
「?」
セラフィーナが、ローゼが指差す方を見ると、
「ひえええええ!」
魔物がちょうど、大きな鎌を振り下ろすところだった。
「セラフィーナさん下がって!」
ヘンリが剣を抜きながら前に出て、
「はああああ!」
剣で魔物の巨大な鎌を受け止める。
剣も鎌も両方とも弾け飛ぶ。
反動で、ヘンリは後ろに数歩さがって、魔物も少しぐらつく。
「大したもんじゃの。剣に魔法と精霊の力を瞬時にまとわせて弾き飛ばしたのじゃ」
そのうえ、
「はああああ!」
風の精霊に空中に飛ばしてもらい、巨大な魔物の肩口に一太刀を浴びせるヘンリ。
ダメージがあったのか、魔物は膝を付く。
着地したヘンリは剣を中断に構えて、油断なく次の動きに備える。
「お主、強いの。あの女よりだいぶ……」
ローゼの頭に浮かんだのは、もちろん邪竜と戦っていたアウラであったが、
「ああ、なるほど……」
すぐに何か気づいた模様。
「ならば、ここは妾にまかせて先にいくのじゃ」
と死亡フラグバリバリの言葉を吐きながら、面白うそうな顔で魔物の前に立つローゼなのであった。