次の魔物
グリュ王。かつて、このカウニスの地を治める伯爵であったが、虚栄を求め邪神と協力を結ぼうとしたところ、その配下の悪魔ガルパネンにつけこまれ、体を乗っ取られた男。
最後は勇者サトレイに討ち取られたグリュ=ガルパネンであるが、戦いの最後には城から溢れ出んばかりの巨人と化してたと言う。
「……言い伝えの通りの姿です」
僭主の冠を頭に乗せた、まるで大きなハエのような異形の顔面の真ん中には闇夜に不気味に光る眼。王の装束を纏った、巨大な怪物であった。
「なるほど、いままでの魔物と同じように、こやつも魂の無い操り人形のようだな」
「ガルパネンは魂を代償に勇者サトレイを石像に変えたので、ここにではなく世界のどこにもそれはありませんが、グリュ王の魂は、冥界の入り口をずっと見つめたまま恐怖に震えていることかと思います」
「そのほうが、そのまま落ちるより懲らしめになっとるかもな……このままにしておくという手もあるのじゃが」
「いえ、倒してしまってください。グリュにはグリュが本来いるべき場所があります……それが止まっては、勇者の物語は止まったままになっていまします」
「ふむ……まあ、この星でも、どこでも地獄は容易な場所では無いものじゃからな。容赦なく叩き落とすのはやぶさかではないのじゃが」
「……なるほど」
ヘンリは、突然、合点がいったような顔となって、一瞬黙り込む。
「なんじゃ」
「星……やはりそういうことですか」
ヘンリは、ローゼたちが星の彼方——天から現れたという、教会の中で少数がとなえている説を知っていたようだ。
そんなバカな話があるわけがないと、大勢に嘲笑されていたのだが……
ヘンリは、どうやら、可能性がないわけではないと思っていたようだ。
あまりに規格外なローゼを見て、
「ほう、気づいておるか。教会の連中は妾たちを別大陸の勇者と思っているようじゃが……」
「別大陸はそんな状態じゃないと聞いております」
「なるほど、それも知っているということじゃな……ただし……」
「ただし?」
「ふむ、あっちの大陸の惨状を知るのなら、追って今どうなったかも知ることになるじゃろ。送り込んだのは、天然ちゃんの二人組じゃが腕はたしかじゃからな」
「ローゼ様のお仲間が、そっちで何かなされているのですね」
「まあ、お主も情報源を持ってるようだから、すぐに知ることになるだろうが、それよりも今はこっちじゃろ?」
そう言ってローゼが振り向く先に立つ、古城を背にした魔物は、無表情の複眼で、じっと三人を睨めているのであった。