魔物の魂
今夜の目的が、古城の主か、それ以上のものとヘンリが言ったのに対して、
「……正解じゃな」
ローゼは、ヘンリが、彼女の目的を思った以上に理解していることに感心しながら言った。
彼女が伯爵家に近づいたのは、この城の主について調べたいことがあったからだった。
しかし、
「ただ、先ほども申しましたように、最後の戦いは私にやらせて星いいのですが」
ヘンリが頭を下げながら言う。
「……それは構わんのじゃ。妾の目的は別にこの城の主そのものではないからの」
「ありがとうございます。たぶんローゼ様の目的はそれ以上ということなのですよね」
「もしここにおれば……じゃが」
「おれば? この城の主の他に残留する思念はありませんが……私どもが下手に考えない方が良いような話と理解しました」
「……うむ、そう思っておいても良いのじゃ。それよりだな、この城の中で死んだ者たちは、死霊と化していたのではなく、あくまでも死体を操られていただけであったが……」
「はい」
「……操られた体の者たちの魂はどうなっているのじゃ?」
「それは……体が乗っ取られた状態では天に帰るわけもいかず、煉獄で苦しんでいると思います」
「では体が消滅したのなら……?」
「もう旅立ったかと思います」
「なるほど、それが目的か……なのじゃ」
首肯するヘンリ。
「目的? また良くわからないんですけど?」
「セラフィーナよ。無理に考えなくても良いのだぞ」
「……?」
「ローゼ様、ご推察の通りです。我が家のために尽くしてくれた者たちへ……ありがとうございました。彼らにやっと魂の平穏がおとずれました」
「冒険者を雇ったりしたのは、討伐をしているという世間体だけでなく、一人でも縁者の魂を煉獄から助けたいと思ってということかの」
「施政者としては、民衆や軍を危険人晒すわけにはいかないですので、危険を納得づくで契約した冒険者が魔物を一体でも多く倒してくれることを望むのみでしたが、ローゼ様には我が家はさらに大恩をたまわることになりました……」
「まだ礼を言うのは早いのではないか……なのじゃ。大物が控えておるし」
「そのとおりですが、それは……私の役目です」
「うむ、妾がやってしまっても良いのだが、それはお主の一族がはらさねばならぬ無念と関連しておるのだろうな」
無言で首肯するヘンリ。
「それに、妾の出番が終わったわけではないのじゃろ」
再度、首肯するヘンリ。
そして、
「出てきたようです」
ヘンリが指し示す暗闇の中から、突然、身の丈が城の塀ほどはありそうな、巨人のまものがあ現れたのだった。
「グリュ王——悪魔ガルパネンの成れの果ての……魔物です」