勇者の憂鬱
聖都に帰ってきてからどうにも気分がスッキリとしない勇者アウラであった。
救国の、いや世界を救った英雄として毎日崇め奉られ、憧れられ、ちやほやされて、おだてられて、様々な式典ひっぱりだこであるが……
ずっと浮かない顔のままであった。
凱旋の際の、国をあげての大歓迎にもうつろな様子。その後の民への演説も覇気がない。今回の邪神討伐において、歴史に残る活躍をした勇者様も、さすがに疲労困憊なのかと皆に心配されるしまつ。
あるいは激闘の日々から解放されて、呆けてしまったのかなどと言う者もいたが、あの責任感溢れる勇者様が村はずはないと言う意見の方が多数。
いったい我らが英雄はどうしてしまったのかと、官も民も皆、困惑してしまっていたのであった。
実際、気が晴れないのはそんなことが理由ではなかった。
もちろん、今回の邪神討伐の冒険が何もかも完璧というわけではないのは事実だ。
一番に、邪神=邪竜を倒したのはアウラではない。
勇者として、世界を救う意志と責任に満ちて聖都を出たのはいいものの、みずからの甘さゆえに邪竜を生み出してしまった。
あまつさえ、その怪物が暴れるのを止めることができなかった。
正直、アウラは、そんな情けない自分に色々思うところは随分とある。
でも、アウラが鬱々とした気持ちとなっているのは、そんな些細なことが原因でもない。
勇者の称号とは、そんな程度でもらえるような甘いものではないのだ。
自分の名声など別に地に落ちても良い。世界が救われるならば、全ての者たちから恨まれて、歴史に汚名が残っても構わない。それほどの覚悟があるものと聖女様に認められて、初めて勇者を名乗ることが許されるのであった。
アウラは今回の討伐そのものにはとても満足しているのだった。彼女自身が世界の危機を救くわなくてもなんの問題もない。
世界が救われればそれでよい。
彼女は、邪神がいなくなったことを、自分だけでは成し遂げられなかったことが達成できたことを心底喜んでいたのだった。
なので——アウラが悩んでいるのは、自分が勇者たる結果を残せていないのに——不世出の英雄として祭り上げられることに対してなのであった。
本物の勇者はあの人たちなのに。長きに渡った邪神との戦いで荒れ果てた国々の復興のためには自分がその象徴として人々の心を繋具ことが必要とも理解するのだが……
アウラは、今日も彼女のために開かれる、隣国の公爵主催の饗宴の中で、モヤモヤとした思いをさらにつのらせていくのだった。
「……勇者様、本日は我が領地まではるばる足を運びいただきまことにありがとうございました。本日はお楽しみいただけましたでしょうか」
ヤータ聖教国と領地を接するタイバス公国のマータ公爵は、やはり元気のないアウラを気遣いながら本日の感想を恐る恐る伺う。
「大変素晴らしかったです。私などのために過分の会をお開きいただきまして感謝申し上げます」
アウラの返事に落胆の色を隠せない公爵。言葉ではもちろん感謝の意を伝えているが、その表情を見れば、本当はどう思っているかなど一目瞭然であった。
聖教国の近隣で最も美食家でしられる公爵が、贅をこらしたもてなしを行っても勇者様のお気持ちは晴れないようだ。
この会話を近くで聞いていた各国からの招待客も落胆のため息が漏れるのだった。
ところが、
「勇者様……お久しぶりでございます」
突然呼ばれた声にアウラが振り返ると、
「あなたは……!」
そこにいたのは、邪竜との戦いの際にあわられた謎の連中たちの中で、聖女のようなオーラをまとっていた女性——ロータスと、
「久しぶりだ」
邪竜をあっという間に倒した男——イクス。
そして、この瞬間から勇者アウラは、憂鬱など担っている暇などがない大騒動の中に巻き込まれていくことになるのであった。