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呪いの正体

 さて、場面はまた、ローゼ達の入り込んだ古城に戻る。

 この城に残る勇者の無念とは何か? 魔物が出ると言うのはなぜか?

 ヘンリの属するカウニス伯爵家が知る、いろいろと複雑な理由がありそうであったが、聞くと長そうと思ったのか、


「まずは、入ってから考えるとするかなのじゃ」


 となるのであった。


 さてこの城、いずれにせよ、かなりの曰く付きの場所であることは間違いない。

 ヘンリの先祖である勇者サトレイによって、グリュ王に乗り移った悪魔ガルパネンが倒されたかつての領主の城。その奥には石像となった勇者が眠る。

 本来なら、勇者の偉業とともに、新伯爵家創設の記念となる場所であったのに、勇者と悪魔の戦いからずっと放棄されていた、随分と荒れ果てた場所であった。


 夜な夜な出没する魔物。未だに悪魔の呪いが残る城内。

 来る者を拒む呪われた場所となってしまっていた。

 中でも、


「勇者サトレイの眠る謁見の間まで入り込めた者は未だにいないのです」


「呪いが最も濃く残る場所……というところじゃろうな」


 ヘンリは、ローゼに向かって首肯しながら言う。


「そのとおりです。何度も、我が家に連なる者が、石像となった勇者をこの場所から連れ出そうとしました。しかし、その場所に行くまでに気が触れるか、その前に逃げ出してしまうか……」


「いっそのこと、この建物を壊してしまったほうが良いのではないか——なのじゃ」


「それも何度かこころみました」


 もちろん、魔物の出ない夜に、壊そうとしても、なぜかつるはしが折れる。壁が崩れて人夫が下敷きになる。床が陥没する。天井が落ちてくる。


「この場所を、どうしても渡したくないものがおるようじゃな」


「はい」


 苦悩の表情で頷くヘンリ。

 

「あっ!」


「なんじゃ、突然大声をあげたりして」


 セラフィーナは気色満面。わたしわかっちゃいましたといったドヤ顔で、


「この城に強い執着がある奴が犯人でしょ。それって悪魔に取り憑かれてまでカウニスを簒奪したグリュ王しかないですよね。その亡霊しかいないですよ! やった、わたくし、大天才、名探偵!」


「「……」」


「どうかしました? びっくりしすぎて言葉を失っちゃいましたか?」


「……いや、みんなお主のような頭の中身だったら世界は幸福に満ちるだろなと思ってな……」


「やった! なんか褒められちゃった!」


「……皮肉も分からなければ無敵じゃな。まあ、この(おなご)のことは放っておいて、ところでヘンリ殿よ……」


「なんでしょうか」


「セラフィーナの言うように、一見、誰にでも(・・・・)グリュ王の亡霊がこの城への侵入を拒んでいるのだと言うふうに思えるが、お主の意見もそうかえ?」


「……いいえ」


 ヘンリは、少し首を傾げて躊躇したような表情で言う。


「グリュ王の亡霊は残っていないと思います」


「なぜそう思うのじゃ? グリュ王以外にそんな悪さしそうな奴はいないじゃろ?」


「確かに一般にはこの城の怪奇現象はグリュ王の呪いと言われていますが……そういうローゼ様は……」


「なんんじゃ?」


「呪いはグリュ王のしわざだと思いますか?」


「まったく思わんな……じゃ」


「そうでしょう。ここには、残留する思念は一つしかありません」


「少なくとも2つ無いと、その思念の主は決まってしまうということじゃな。これを知っているのはd」 


「……我が家とヤータ聖教会の上層部だけです。気づくような力を持つものはこの城には入れませんし……」


「魔物がでるのも好都合じゃな」


「その通りです。へたに興味本位の者が近寄ってくるのを防ぐことがでいます」


「なら良いのか? 妾は魔物など倒してしまうかもしれないのじゃ」


「はい……我が父ヴィルヘルム飄々としているようでなかなか抜け目はなくて、ローゼ様の実力はすでに我が家の鑑定術師によって把握済みでして」


「ほう……あの者に妾の力など図れたらじゃがな」


「やはり気づいておりましたか。もちろん測れるわけもなく……霊力、魔力、体力、攻撃力、生命力、防御力、知力、その他全てが想定不能。特に魔力は、測った鑑定術師が測ろうとした瞬間に気絶して、図ることを試みることさえできず……」


「妾なら、城の魔物を退治するだけでなく勇者の呪いも解くことができると思ったのかえ?」


「いえ……それは……」


 ヘンリの目がキッと真剣な面持ちとなる。


「我が家の仕事です」


「なるほどな……死さえいとわずそれを達成するという覚悟じゃな」


 首肯するヘンリ。

 そこには悲壮感も気負いもなく、


「我が家はこのときのためにずっと備えていました。たまたま私の時にその機がきたというだけで……」


「おぬしにも、その力があるということじゃの……後ほどしかと見せてもらうのじゃ」


 ローゼも伯爵家の悲願をしかと理解し、ヘンリの覚悟も受け止めたのであるが、


「あのぉ……」


 なんだか腑に落ちない表情のセラフィーナ。


「なんじゃ……?」


「まだ、良くわからないんですけど……」


「なにがじゃ」

「結局、呪いの正体はなんだったんでしょうか?」


「それは……」


 天然には勝てんといった顔になるローゼとヘンリなのであった。


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