ヴィンの困惑
「なにが……」
起きたのかと呆然となるヴィンであった。
そりゃあ、可哀想な女子二人のため、せめても自分にできることと、生涯最高の気合で剣を振り下ろしたのは自分だった。
しかし、そのことと、目の前で真っ二つになってしまっている盗賊の砦が結びつかない。そのうえ、大地と山まで……
「すごいね、見込んだとおりだった」
「初めて振るった魔剣でこんだけできればすごいもんだよ」
「魔剣……この剣のことですか」
「あ、魔剣っていっても……怪しいもんじゃないので」
「なんでも魔とか鬼とか名付ける、こまった性格の知り合いがつくったもので……呪われてるとかじゃないから」
「でも、剣はともかくとして、なんなんですかこれ……まさか、僕のせいじゃないですよね」
「僕のせいじゃない?」
「なら、誰のせいなのかな……」
「誰って……」
いや、ヴィンにも分かっていた。
自分が振り下ろした瞬間、目の前の物が剣筋にそって真っ二つになったのだ。
なにより、自分に、確かに「斬った」という感覚がある。だてにいままで剣の修行にあけくれていたわけではない。
彼には、自分を、そんな自分自身をごまかすことはできなかった。
「なんで……」
「こんな力が……」
「突然にかな?」
首肯するヴィン。
「まあ、君にはその力があったんだよとしか言えませんね」
「そんなヴィンと丁度会えるような未来予知をしてくれる仲間がいてね」
「あなたたちは……」
ただの貴族の幼女とそのメイドではない。
そのことにやっと気づいたヴィンであったが、
「まあ、私たちのことはおいおいと、ですが……」
「それよりもあっちの方……」
フェムが指差す方向に振り向くと、
「砦から……」
盗賊団が砦にしている岩山。
今は真っ二つに切断されて、見るも無惨な様子であるが。
その中から、何やら騒がしい音が聞こえる。
当たり前であった。
突然、本拠地が攻撃されて、だまっている盗賊団がいるだろうか。
それも、もう砦として利用ができないくらいに完全に破壊されたのである。
このまま中にいたら、崩壊する岩山に生き埋めになってしまうと、生き残った盗賊たちが、わらわらと外に出てきていた。
これは……
このまま、この場から立ち去ったほうが良いのでは。外に出て、何が起きているのか理解した盗賊たちが、怒号が飛び交わせ始めるのを眺めながらヴィンは思った。
何。盗賊もまさか、彼がこんな事をしたとは思うまい。
砦となっていた岩山を真っ二つにするだけでなく、大地にまで深い溝をきざむ斬撃なんてただの人間が放てるわけが無い。
しかし、
「すごいですね君! 岩山なんて簡単にまっぷたつですね!」
「ヴィン素敵! 盗賊なんてこのまま一網打尽だね!」
大声で叫び始めるサクアとフェム。
「……ちょっと」
こいつら何を言い出すんだと思い、慌てて止めようとするヴィンであったが、
「何! これをやったのはお前なのか!」
「あいつか!」
「うひょ、女もいるぞ!」
「殺せ!」
「つるせ!」
「身ぐるみはがせ」
ヴィンたちの姿を見つけて、砦の前から歩いてくるモヒカンヘアの大男たち。
元は王国の警備隊とは思えない連中接近に、爽やかな草原が一気に世紀末風味に変わっていくのだが、
「待て、待ていっ!」
一括する声に、
「ダギ様!」
「ダギ兄!」
「隊長!」
「ダギさん!」
「すてき!」
ならず者たちの歩みは止まり、
「これをやったのがお前ならじっくりと話を聞かせてもらわないといけないな……」
集団の奥からのそのそと歩いてくる、ゴリラのような巨体の男は、
「オブシディアン盗賊団四天王が一人、岩拳のダギへな!」
なのであった。