その頃、別大陸では……
深夜、勇者アウラが聖女の突然の子作り命令に悩み、ローゼが古城の前でヘンリの話しを聞いているその頃、昼となる別の大陸では、
「……本当にやるんですか」
不安そうな顔のヴィン。
「あたりまえです。言ったでしょ」
「汚物は消毒だね」
比べ、いつものようにおちゃらけた様子のサクアとフェム。
そりゃ世界滅亡の災厄級の邪竜の前でも、この様子だった二人である。
こんな、
「この辺で最大最強、おまけに最凶の盗賊団なんですよ」
ごときにだ。
とはいえ、ヴィンのびびりは尋常じゃない。
無法者たちへの恐怖というよりは、
「なんか変わった奴でもいるんですか?」
「強いやつとか、変な術を使うやつとか」
やっと聞いてくれたのかという顔になるヴィン。
「あなた達が盗賊に襲われたんですよね」
「ああ、それは……」
「そうかな」
ちょっと目が泳いでいるサクアとフェム。
盗賊に襲われて、命からがら逃げ出したという、自分たちの言った設定を素で忘れかけていた二人だった。
「盗賊に仕返ししたいんですよね」
「そうですね……」
「そうね……」
目が泳いでる二人を見て訝しげな表情になるヴィンは、
「……ふざけてちょっかい出して良いような相手じゃないですからね」
嘆息をしながら、
「まあ、まあ、ちなみにどんなのが相手なんですかね」
「強いのかな」
「……あなた達が襲われたのなんて、たぶん下っ端も下っ端ですよ」
「そうなのかな」
「確かにあんまり強くなかったかな」
「その連中に護衛の人たちが全滅したんですよね」
「あっ……」
「そうか」
「? 襲われたんですよね、盗賊に」
「そうそう、あれはヤバかったですね」
「危機一髪だったよ。うううん……許せない(ウルウル)」
ずいぶんとわざちらしいフェムの嘘泣きであったが、
「……仇を討ちたいのはわかりますが」
苦悩の表情を浮かべるヴィンであった。
ちょっとふざけてないと、恐怖と悲しみに押しつぶされてしまうのだろうと、勝手に良いように考えてくれたのだった。
いたいけな幼女を、そんな目に合わせて許せないと盗賊への怒りをさらに強くする。
しかし、無理なものは無理なのである。
自分が、御伽話に出てくる英雄であったなら、この二人の無念を晴らすことができるのに。
ヴィンは切に願うのであるが、
「ともかくここは一度引きましょう。僕の力不足が本当に情けないのですが……まだまだ修行中の身でして」
「修行?」
「こんな荒野に一人でいたのは……強くなりたくて諸国を放浪していたとか?」
「はい。十歳の時に剣で身を立てようと故郷の村を飛び出てから、その街に達人がいると聞くと押しかけて弟子入りをして、あの山に悟りを開いた仙人がいると聞けば教えをこいに行き……」
「お、じゃあ、あちこちの強いやつとかやばい奴とか詳しいんだよね」
「人間だけじゃなく……魔物とかとも戦ったりした? 竜とか……」
「竜……! そんなのは一人では無理ですよ。一国の軍隊が総力をあげて撃退するようなものですよ」
「じゃあ、竜は無理でもオーガとか」
「もっと大物もやっちゃったことあるんじゃないの」
「……オーガならなんとか。あと運が良かったのですが手負いのワイバーンを倒したことなら」
「ワイバーンですか!」
「なかなかやるね」
「……と言っても竜に襲われて翼が傷ついて飛べなくなってたので」
「それでも大したもんですよ、へえ、確かになんか君ただもんじゃない雰囲気あるよね」
「……さすがセリナは当たりがいる時間と場所にあたしたちを行かせたんだ」
「当たり?」
「……まあ、気にしないで良いですよ」
「それより、そんな鍛えているヴィンくんでもビビるような相手なのかな」
「……盗賊団がですか?」
「そうそう」
「強いんだよね」
「……そうなんです」
「君でも勝てないくらいに?」
「オーガより強い連中が盗賊団なんてやってるの?」
「ここの連中はちょっと違うんです……」
「なにが?」
「ただの盗賊団じゃないってことかな?」
「そうです。なにしろ連中は……」
ヴィンは、ため息をつきながら、深刻な顔で話し始めるのであった。