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ロータスの力

 というわけで、聖女にロータスの凄さを語る勇者アウラ。


 当代の聖女は、ヤータ聖教会史上最も優れた霊力を持つとの評判なのだが、正直なところ、勇者である自分がイクスという男と戦闘力でまったく比べるのに値しないのと同様、ロータスという女性との霊力の差は果てしなく離れている、とアウラは思っていた。


 なぜなら……邪竜との戦いの後のことだった。


 周りに広がるのは業火に覆われた大地。

 人類の敵は倒されたが未だ燃え広がる炎はこのままどこまで広がるか想像もつかない。


 おまけに、その火には邪神の呪いがかかっているようだった。

 火炎を浴びた物は変質して原形質の塊に変貌してしまう。

 サクアとフェムが別大陸で見た惨状と同じ光景がそこに広がろうとしていた。


 ただし、


「醜いトカゲが死におうたから、火は大陸全部を焼き尽くすには弱いようじゃな」


 ローゼが燃え盛る炎をつまらなさそうに眺めながら言う。


「でも近くの街くらいまでは余裕で広がるかもね」


 フェムはおちゃらけた口調だが少し心配そうな顔。


「聖都とやらまで燃えてしまうかもな」


 イクスは眉一つ動かさず無表情で淡々と事実を述べるが、


「イクスさんはどうしたいんでしょうか?」

「……」


 ロータスの質問にもだんまりである。


「現地に不介入といっても、焼け野原にされたあとだと返ってめんどくさいですよ」

「サクア……の言うと……おり。こ……の星の……秘密……は、聖都に関連する……そこが破壊された場合、探求が困難」


「どうするのじゃイクス?」


 みんなの注目は相変わらず無表情の黒尽くめの男に集まるが、


「……ばいいんじゃないか」


 ぼそりと呟く。


「なんだか良く聞こえぬのじゃ」


 ローゼの問に、


「……」


 無言で頷くイクス。


「良いということじゃな?」


 再度頷くイクス。


「それではリーダーのお許しも出ましたので始めましょうか……」


 ロータスが手を組んで祈り、その身体が聖なる光に包まれる。


「この大地に無限、無数なる宇宙(そら)の霊の癒しを……」


 詠唱の終わった瞬間、光はたちまちあたりに広がり、邪竜の火炎によって焼けただれ、呪われた大地を元の草原へと戻していく。

 その上、


「あれ……」


 アウラが、びっくりした顔になる。先程までの戦いでついた傷が、いつの間にか全部綺麗に治っていたのだった。それどころか、今までに無いくらい身体が快調である。


 次に、


「……ん……あれ、あのまま失敗したの……え……なんで」


 魔法使いカイヤが混乱した様子で目を開ける。


「カイヤ……大丈夫」


 あわてて駆け寄る勇者アウラ。


「大丈夫……というか……何が起きたの」

「あれを……」


 邪竜の四散した(むくろ)を指し示す。


「うん。なんか謎の男が竜をボコって、アウラが斧を構えたところまでは見えていたけど……」


 そこで緊張の糸が切れて気を失ったということらしい。


「ともかくカイヤが無事で良かった!」


 と言うとひざまずいて抱きつくアウラ。

 邪竜との戦いで、先に倒れてしまっていたカイヤ。

 体のあちこちから血を流し瀕死の状態であったのだが、


「……なんか全部治っている」


「僕も……」

「俺もだ」


 剣士ヴィーゴと槍兵ヘイモもびっくりしたような声をあげる。

 前衛で戦っていた二人ともカイヤ以上の傷をおっていたはず。

 腕が千切れ、はらわたが抉られて、もし今すぐに最高の回復の魔法で治療したところで、せめて辞世の句を話す間だけ生き延びることくらいがせいぜいであるはずだった。

 しかし、


「なんだか前より調子が良いくらいだ……」

「俺も……失った指も……」


 ヘイモが、勇者パーティに入る前、何年も前の戦いで失った左手の薬指を呆然と見つめている。

 その後ろには。邪竜との戦いなんてまるでなかったかのような春の花が咲く草原が広がっていた。



  *


「……」


 アウラの説明を聞いて一種無言になる聖女であったが、


「確かに……」

「はい」

「あのロータスという御方は、私など比べものにならない霊力をおもちのようですが……」


 やっと話始めた聖女は、続けてアウラに聞くのであった。


「あなたが驚いたのはそれだけで無いでしょう」


「ええ……私が一番驚いたことには」


 首肯しながらアウラは言う。


「……ロータスと名乗るあの女性は、あれだけのことをして、汗ひとつ流さず、平然としていたのです」


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