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聖女と勇者、深夜の会合

 ローゼたちが古城の前でヘンリの晴らす無念とは何かを聞こうとしいていた丁度その頃、


「どうしましたアウラ? 気もそぞろと言った様子で」

「聖女様……すみません」


 色々考え事をしていてボウっとしてしまっていた勇者アウラだった。

 もう深夜近くであったが、双方とも忙しい聖女と勇者。特に聖女は、こんな時間の直前まで様々な会議が連続していたようで、互いの予定が合うのはこんな時間しかない。

 ただ勇者がボウッとしていたのは疲れているとか眠いとかではなくて、 


「何を考えていたのですか? 悩みでもあるのでしょうか」

「それは……」


 言えるわけがない。

 謎の男イクスと子をなすことなど考えていたなんて。


「……なにか話しにくいことのようですね。ひとまず、その話は後として、本題に移りましょうか」


 真っ赤になりながら首肯するアウラ。

 何やら察した顔で微笑む聖女を見ながら、頼むから別の話と勘違いしていてほしいと願うが、


「まずはイクスと言う謎の男の件ですが」

「ぶっ……!」

 

 お茶を口に含んでいたら全部吐き出してしまっていただろうアウラだった。


「どうかしましたか?」

「いえ……」


「ならいいのですが」

「大丈夫です。お続けください」


 聖女はため息をつきながら、


「……ウネルマとは、面倒くさいところにころがりこまれましたね」

「はい」


 ついさっき、ウネルマ——第二聖女にウザ絡みされたばかりのアウラは、こころの底から深く同意して返事をする。


あの者(ウネルマ)は、決して心卑しいわけでなく、虚栄を求めて策謀を張り巡らしたりもしませんが……逆に……」

「ええ」


「純粋すぎます」

「……」


 純粋というか天然だろと思ったアウラであったが、イクス関連の話題はあまり発展させたくないのもあって、喉元まで出た言葉をぐっと飲み込む。


「ウネルマは、ヤータ正教会と民のためを思って動いているのは間違いないのですが、相手の正体も意図も分からぬうちに安々と信用して」

「別大陸から来たと言ってましたが」

「それは……」


 聖女の眉間にぐっとシワがより、


「ありえません」

「……な……」


 なぜありえないかと聞こうと思ったアウラであったが、


「ありえないのです」

「はい……」


 有無を言わせぬ聖女の厳しい表情にそれ以上は黙るしか無かった。

 きっと勇者にも言えぬ事情なのだろう。


「ともかく、マータ公爵の宴に同席していた教会の者からすでに来ているのですが、あの者(・・・)たちは勇者の功に疑義を訴えているわけではないのですね」

「はい、邪竜を倒したのはあくまで勇者でありあの者——イクスは助力したのみであると」


「我々が吟遊詩人たちに流した、勇者パーティの活躍の内容と矛盾の

無い話となっているとか?」

「その通りです。詩人たちの唄そのままの私たちの活躍を全て肯定した上で、自分たちがその助力をしたとウネルマ様に吹き込んだようです」


「なるほど……」

「世に流布する勇者の活躍は全て嘘と——真実(・・)を伝えることもできたのに」


「やっていることが中途半端ですね」

「はい。勇者の虚偽を暴露するのでもなく、黙って隠れているのでもなく……現れたのも微妙に期間があいてからですし」


「それで、ウネルマは、その中途半端な話を信じているのでしょうか?」

「まるで疑っていないことはないと思いますが……」

「そうですね」


 勇者の言葉を待たずに、首肯する聖女。


「……彼女のもとにも、邪竜討伐の際の情報は入っているでしょうからね。その話と矛盾がなければ、ウネルマは信じるでしょう。厳重に情報管理をしても第二聖女に隠せるには限度がありますね。戦場に勇者パーティー以外の者がいたくらいの話は漏れていてもおかしくはありません」


 しかし、少し訝しげに首を傾けるアウラ。


「そうでしょうか?」


「そうとは? 何がですか?」

「私には第二聖女が掴んだ情報は聖女様が漏らしたのではと思えてなりません」


 風船に空気を詰め過ぎれば爆発する。

 秘密も同様。適度に中身を抜いてやることが重要だ。

 聖女ならその程度のことはあっさりとやっているだろうなと思うアウラであった。


「なるほど……しかし、身に覚えがありませんね」

「……素直に話してもらえると思っていませんから」


 聖女は皮肉にもまるで動ぜずに、


「それよりも、現れた二人の実力ですが、男——イクスという者は勇者アウラを遥かに凌ぐ実力というのは聞いていましたが、一緒に現れた聖女——ロータスという女性の実力はいかほどでしょうか」

「相当なものかと考えます」


「なぜそう思います?」

「それは……」


 アウラは邪竜との戦場でのロータスの事を話し始めるのだった。


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