グリュ王
ローゼたちがついに足を踏み入れようとしているペルコ城。
往時には、昼夜を問わずにたくさんの兵や商人が出入りをした城であったらしいが、今は魔物や亡霊のたぐいの他には、ここに住むものも無い。
恐ろしげな怪物の姿が刻まれた門の先には不気味な暗闇が広がっていた。
ここは、有史以来何度も戦場となった血塗られた場所であり、兵士の絶望と、民の嘆きを吸い込んだ場所であり、
「我家の前にこの地を支配した者が住んでいました」
と伯爵の御曹司ヘンリが言う。
「城の魔物というのは、その、以前の支配者に関係があるのじゃな」
ローゼの質問に、
「はい」
ヘンリは首肯して、
「前の支配者は、聖都の警備軍の騎士長だったのですが、大陸の半分が巻き込まれた戦乱の混乱の中でこの地の領主を殺し後釜についたグリュという男です……その男が魔物になりこの城の中にいるのだと言われています……」
話を続ける。
グリュ王。当時この地、カウニスを納めていた伯爵の地位を簒奪後、王を名乗った彼はそのまま聖都の周りの各国に戦いを広げた。
民を蹂躙して領地を広げたグリュは、最盛期には数十万の軍勢を従え、皇帝とさえ名乗るようになっていたという。
さらに始末が悪いのは、皇帝を称して以後も、聖都の騎士団長の座は退かなかったため、彼の戦いはすべて聖戦となり、その正義の名のもとに集まる狂信者を集め、どんどん侵略と虐殺を繰り返していたのだった。
もちろん、ヤータ聖教会も自らの名を語り大虐殺が続けられるのをただ座視していたわけではない。
別の騎士団をつくりグリュを打ち倒そうとしたり、教会より破門して政治的に葬り去ろうとしたりしたのだった。
しかし、圧倒的な軍事力と、それに怯えこびへつらう聖教内の協力者たちの存在により、グリュの勢力は一向に衰えることのないままであったのだが、
「……ある時を境に状況は一挙に変化します」
「何ゆえなのじゃ?」
ローゼの質問に、
「勇者が現れたのです」
ちょっとドヤ顔で答えるヘンリなのであった。