夜の古城
といわけで、ローゼたちがやって来たのはヴィルヘルム伯爵の館からほど近い、海辺の小山の上にそびえ立つ古城。
「……なんでこんなところに夜にくるの」
セラフィーナが、死にそうな顔で弱音を吐く。
伯爵との会合の直後、もう時間は真夜中と言って良いような時間である。
御曹司のヘンリと一緒に魔物討伐に行くとなって、下心満載でノリノリとなった彼女だが、まさかすぐに出るとは思ってもいなくて、
「夜に現れる魔物なのだから夜に来るしかないじゃろ?」
「そんなこと言っても不気味すぎるでしょここ……それにすぐに来るなんて、心の準備というものが……」
廃棄され、荒れ果てた古城。
そんな場所に夜に来るなんて、なんでも無くても不気味で御免被りたいところだが、ここには実際に魔物がいるというのだ。
セラフィーナはビビって腰がひけて、今にも逃げ出しそうな様子であるが、
「セラフィーナどの、心配なさらないでください。父の窮地を救ってくれたお二人のこと、このヘンリが命に引き換えてもお守りいたします」
「ヘンリ様……(ハート)」
ヘンリの言葉を聞いて、一瞬で前のめりの姿勢に変わるセラフィーナであった。
今までのビビリはどこに行ったのかというくらい、目をうるうるさせながら、優雅な仕草でヘンリの胸に顔を預ける。
すると、モテモテで女性に慣れているかと思われる御曹司、意外にもそうでないのか、初心な感じで頬を赤くする。
「これはイケる……」
「?」
セラフィーナがものすごく悪い顔になった瞬間、なんか凄い怖気がしたヘンリだが、
「ヘンリ様がおりましたら、うち……じゃなくて、ええ……わたくし、何も怖いものはございません」
自分を見上げる女性のウルウルとした目にキュンとなる。
「チョロい御曹司じゃの……伯爵も少し女慣れさせとかないと、やばい女にだまされるのじゃ。例えば……」
と言いながらじっとセラフィーナのことを見るローゼなのであった。