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ヴィルヘルム伯爵

「なんと、ローゼ様がペルコ城の魔物を退治いただけると申しますか!」

「もちろんじゃ。妾と助手のセラフィーナに任せておくのじゃ」

「……」


 豪華なホールで何やら偉そうな中年男と宴をともにするローゼとセラフィーナであった。

 そして、その男の名前はヴィルヘルム。

 聖都からほど近い海辺の街カウニスを収めるカウニス伯爵家の当主であった。


 このカウニスの街。聖教国には属さない自由都市であるが聖都の海の玄関口として栄え、有史以来の同盟関係を結ぶ、実質、聖教国の一部と言っても良い都市であった。

 また、カウニス(ここ)ならば、宗教上様々な制限があって聖都ではできない商売や工芸などを行うことができることもあり、実質的に、聖教国の経済面での首都となっているのであった。

 そして、そんな重要な街を治めるのがカウニス伯爵ヴィルヘルムであったが、


「すでに大恩がございますローゼ様にそこまでしていただくのはまことに申しわけなく存じますが、お願いできましたらまことに助かります」

「なに、前のことなぞ気にすることは無いのじゃ」

「……」


 ずいぶんとローゼに恐縮している伯爵であった。

 いったい、何が彼ととローゼの間で起きていたのかだが、


「そういうわけにはいきません。このヴィルヘルム、一生かかりましてもローゼさまに報いることを誓いましたので」

「ちょっとやりすぎたかな……じゃ」

「マッチポンプ……(ボソ)」


 瑞部恩義を感じさせるようなことをローゼたちはしたようだが……どうもマッチで火をつけてポンプで消す的なことをしている模様だ。

 が、ポンプはともかく、マッチなどまだ存在しないこの星では、発言の意味が伯爵には不明瞭である。


「どうかしましたか? 何か私が気に障るようなことを言いましたら……」

「ああ、気にするのではないぞ。ポンプはあるかもしれないが、マッチもないような中世風異世界で、マッチだポンプだ、変なことを言う助手がいてな」


「はあ……よくわからないですが……全て私の浅学のせいかと思います」


 恩人であるローゼの言葉が分からなくてが困った顔となるヴィルヘルム。

 彼がついこの間、魔獣の群れに囲まれた時に、さっそうと現れ、瞬く間にそれを殲滅したローゼと名乗る美麗の魔法使い。

 命の恩人に、何も礼をせずにそのまま帰したとあっては、大伯爵の名がすたる。というわけで、屋敷に招待されてから一週間たつが……


 ローゼがたまたま隠密で移動していた伯爵の近くにいて、たまたまタイミングよく魔獣の大暴走(スタンピート)が起きて、護衛たちが全く役に立たないで絶体絶命、当主は失禁寸前というタイミングで助けるなんて偶然……ないよね。


「うちもマッチが何なのか知らんですけど……ポンプで何するの? 水出すの。まあ、だいたいわか……」


 ローゼが伯爵を助けた後、自慢気に言ってた言葉の意味を薄々気づいているセラフィーナであったが、ここでそれを言ってしまうような馬鹿ではない。

彼女はちゃんと損得がわきまえられる女である。

 でその得とは——


 セラフィーナは伯爵の横にある男が立っているのを先ほどからチラチラと見ている。


「しかし、どちらにしても、このヴィルヘルムこのままお二人だけで魔物退治いただくのは申し訳なく思います」

「ほう……なのじゃ」


「ヘンリ……」

「はっ!」


「やった!」


「やった……とな?」

「気にすることはないのじゃ。助手がヘンリ殿が参ったらら百人力だと思い、つい言葉が漏れてしまったのじゃ」

「そ……その通りでございます」


 ヘンリ。伯爵が息子の中でももっとも信頼して、次期当主間違いなしといわれている長男であった。

 文武両道、おまけにイケメンであり、


「お主、そのニヤケ顔やめるのじゃ」

「……だって、獲物がみずからこっちの手の中に飛び込んできて……」 

「どうかしましたでしょうか?」


 セラフィーナがそもそも、無理やり肉体関係を結んででも取り入りたいと思っていた当の本人がヘンリであったのだった。


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