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セラフィーナ

 さて、勇者と魔法使いが子作りの話で大騒ぎとなっている頃、別の場所で似たような話をしている連中がいた。


「さて、どうして子作りを? ……なのじゃ」

「はい。ここで一発逆転狙っちゃおかなって……」


 魔法使いローゼと、彼女が助けた子爵の娘セラフィーナであった。

 一ヶ月ほど前に花街の路上にいた二人は今、随分と豪華な場所に二人でいるようだった。

 そこは、聖都から少し離れた海沿いの街の、ある侯爵の屋敷の一部屋であったのだが、


「何の逆転じゃ」

「だって考えても見てよ。このままじゃうちの人生お先真っ暗じゃん」


 なにやらローゼに熱弁するセラフィーナ。


「なんで真っ暗なのじゃ」

「うち、修道女なんか柄だと思います?」


「思わないがな。柄じゃないからこそ、そんなところに放り込まれたんじゃろ。それでお主も大人しくなるかなって一縷の望みを抱いて……なのじゃ」

「そうそう、その通りなのよ。ほんと頭くるよね。実の娘にすることかって」


「実の娘だからこそ、まだそれで済んだんじゃないのかえ?」

「なんでよ」


「殺されないだけまだ良かったんじゃないか……なのじゃ」

「殺す?」


「そうじゃ」

「うちの親が?」


「そうじゃ」

「……」


 一瞬、黙ってしまうセラフィーナ。

 流石に実の親が自分を殺すなんて言われてショックを受けたのかと思ったら、


「あ……それ、ある。確かに、親は私のこと殺しかねなかったよ」


 にこやかに、これは一本取られましたみたいな表情の彼女。


「いや、お主からはいろいろ、聞かせてもらったがの。正直親の気持ちも分からないでもないぞ……なのじゃ」

「ひどーい。私なんて親に比べたらかわいいもんじゃん」


「まあ、それも同意なのじゃ。お主の家は悪徳貴族も度が過ぎるのじゃ」

「あ、それ否定しない。うちの両親って悪徳貴族って言葉が世界で一番ぴったり来るよね」


「まあ、妾はもっとひどい連中もいっぱい見ていたがな」

「本当? うちの親より鬼畜な連中なんている」


「そうじゃな……」


 実は、ローゼがかつての自分を思い出してだんまりとなってしまったのであるが、


「そうだよね。うちの親より酷いような人うなんて人なんてなかなか思いつかないですよね」


 セラフィーナの話に乗っかることでごまかすことにした。 


「ん……まあ……そうじゃな」


 俯いて目を逸らしたローゼの様子にも気づかずにセラフィーナは続けて言う。


「奴隷売買……汚職……麻薬……密輸……儲かるような悪い話ならほぼコンプリートですよ」


「逆に儲からないことは絶対やらないのが清々しいな」

「そう、なので悪さと言っても、あの変態大司教みたいに快楽に溺れたりはしないけど」


「ん……まあ……悪いのにはかわりないな」

「それ、わかってるよ……謀略、暴力、暗躍、暗殺……」


「いろいろ、いろんな方面から恨み買ってるだろうな……なのじゃ」

「でも悪事のおこぼれにあずかって良い目を見てる貴族や商人も多いので、悪い仲間がどんどん増えて行って一大勢力になっちゃってるの……」


「朱が交わって真っ赤っ赤になっとるの」

「まあそうだね……ともかくそんな風にして親の代になって我が家は大発展をとげたの」


「なるほど……まあ世の中などそんなもんじゃな。しかし、なあ……ならば疑問があるのじゃが?」

「何?」


「……その悪人の両親に見限られた大悪人がお主ということで良いのじゃな」

「まって……まって……それ違うよ」


「何が違うのじゃ。誰に聞いてもお主のことは札付きの不良娘と言っておったぞ」

「不良なのは認めるよ……大人に反抗してろくでもないことをいっぱいやったやった……でも」


「でも?」

「世間様に……カタギに迷惑かけるような半端なことはしちゃいないよ。うちがタイマンするのは喧嘩上等の不良たちだけ。弱い者いじめする連中は大嫌いなんだい!」


「なんか昭和の女番長(スケバン)みたいじゃな」

「スケバン?」


「……こっちの話じゃ。気にしなくても良い……なのじゃ。あと、ヨーヨーも持たなくて良いのじゃ」

「ヨーヨー?」


「……それも気にしなくて良いのじゃ。それよりも……なのじゃ」

「何?」


「お主、、無理やりでも子作りして伯爵家の後継にでも取り入ろうって思っているのだと思うが……」

「そのとおりだけど、なにか?」


「気づいておるのか?」

「何?」


「お主、今は身分を偽って、妾の付き人として伯爵家に居候の身なので、子作りしたところで単にお手つきになるだけなのじゃ。良いところで手切金わたされておさらばなのじゃ。平民だと思っている相手に貴族は責任など取ってくれないのじゃ」

「お、それはそうだった……どうしたらいいんだろローゼ様」


「まあ、お手つきされてから、身分をあかしてしまうのも面白いが……あの大司教にお前が生きていることを知られると面倒臭いし……なのじゃ」

「そうだね。あのエロジジイは私を殺したんだと思ってるんだよね。この屋敷の伯爵からひょんなことで私のことが洩れないともかぎらないよね」


「でも、お主は、このまま平民として平穏な人生を過ごすことなんて望んでいない……のじゃ」

「うん」


「なら、あれやるしかあるまい」

「ええ? ローゼ様に何か良い案あるんですか?」


 妙案ありかと期待するのだが、


「お主がすべきは、子作りではなく……魔物退治じゃ!」

「ええ……あれですか」


 ローゼの言葉にいっきにテンションが落ち込むセラフィーナなのであった。


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