◯作りしましょう
突然のロータスの登場に少しびっくりしてしまったアウラであったが、
「いえ、お気になさらず」
イクスと子をなせなどという、カイヤの突拍子もない話に客人をつきあわせるのは失礼と思い、水風呂を出るとそのまま脱衣所に向かおうとするのだが、
「でも、なんでカイヤさんがそんなことを言っているのか興味はないですか?」
「……え」
ロータスの言葉に足が止まるアウラだった。
彼女はそろそろこの浴室を去らないといけないのであったが、流石にこの中途半端な状況でいなくなるのは気持ちが悪い。
カイヤが突然言い出した、イクスと子をなせだなんていう暴言。
なんのつもりでそんなことを言ったのかと気にならないといえば嘘になるが、
「だってアウラずっと悩んでるじゃん」
とカイヤ。
「それと子供をなすことがなんの関係が」
困惑するアウラ。
「関係というか……そもそもだけど」
「そもそも?」
「アウラって、聖都に帰ってきてからも柄にもない英雄をやらされてうざったく思っているんだろうというのは想像に難くないけど……それもあるけど……そもそも勇者としてえの自分の力の無さに落ち込んでるでしょ」
「……ぐっ」
正解を言いあてられて思わず口ごもるアウラであった。
「そりゃわかるよ。あたしたちあの邪竜にまったく相手にならなかったものね」
「あれは……そもそも前に竜を倒せなかった私の心の弱さのせいで……」
「それもわかるよ。前に命乞いする竜に情けをかけなければ邪竜なんていう怪物は生まれなかったんだって言いたいんでしょ」
「そ……そうだ」
「でも、違うよね。わかってるよねアウラは」
「何をだ」
「一度邪竜が誕生したのだから、邪竜が他にも生まれてしまうかもしれないって」
「!」
「思ってるよね。もう、勇者って……人類の安全の保証にならないんだって」
「……」
密かに悩んでいたことを見事に言い当てられて、ぐうの音も出ないアウラであった。
勇者としての役割に自分の何もかもを捧げるつもりであったのに、それは真の世界の危機においては役に立たない。大地にポッカリと穴があいて、奈落の底に落ちていくような気分を常に感じてしまっていた、この頃のアウラなのであった。
とはいえ、
「……なんで、あのイクスという人と子をなすになるのよ」
その関連がさっぱりわからない。
「そりゃ、考えてもみてよ」
「なにを」
「アウラも含めてあたしたちが傷ひとつつけれなかった怪物が、あの黒尽くめの格好した人にはまるで相手にもならなかった」
「そうだね……」
そいえば別のメイドの格好した人に雑魚とか言われていたなと思い出しながらアウラは言う。
「あの人ならこの後どんな世界にどんな危機が起きてもなんとかしてくれそうだね」
「うん……」
なんかまだ話が繋がらないと思いつつ頷くアウラ。
「……ならあの人との子供ならすごいのが生まれそうじゃん! 勇者のアウラとの子供だし! 最強なんじゃない?」
「はあ?」
やっと話が繋がったが、そんなの話にならんといった顔のアウラ。
そして、その横で……
二人の会話を面白そうに聞いているロータスなのであった。