勇者サウナにて
サウナ。
憂鬱を吹き飛ばすべく勇者アウラが篭っていたその場所に現れたのはパーティ仲間の魔法使いカイヤであった。
「うわー、ロウリュウであったまってきた! 気持ち良い!」
大陸でも北に位置する聖都のあたり。
この土地に住むものの日々の娯楽として定着しているのがサウナだった。
って、ロウリュウって知ってます?
サウナファンだったら言うまでもないことですが、温まったサウナストーンに水をかけて、一気に体感温度をあげることをいいます。日本のサウナはカラカラの高温のサウナが多かったのですが、最近のサウナブームでこのロウリュウを行う北欧式のサウナも随分と増えました。
ちょっとぬるいかもくらいのサウナの温度でほんわかと温まっていた体に、湿気を含んだ空気が触れると一気に極熱になるときの気持ちよさ。
「アウフグースもしてあげよか?」
「あ……はい」
カイヤは体に巻いていたバスタオルを取って、それを振り回して熱風をアウラに送る。アウフグースである。
こうすると更に体が温まって、つらいようでいて気持ち良い、至福の状態になる。
これを職業とする人はこの頃の日本では熱波師などと呼ばれ、有名な人にはファンがついたりもしている。
サウナブームでもあり女性の熱波師も増えているが、今のカイヤのようにスッポンポンで色々躍動したりはしないから誤解ないように……
というのはともかく、
「カイヤ、ありがと……」
ちょっと顔に笑みが戻ったアウラであった。
「さすがあたいの熱波は抜群だね!」
「違うって……」
「え、気持ちよくなかった? 熱すぎた?」
「そうじゃなくて……」
「?」
「ありがと……」
薄っすらと涙を流しながら、カイヤをぐっと抱きしめるアウラであった。
となれば、一緒に何度も死線を超え、心を通い合わせた仲間は、
「なんか……色々大変だよね」
「うん……」
落ち込んだアウラが心配でサウナにやってきてたのだった。
「勇者様じゃ、なかなか弱音も吐けないよね」
「うん……」
どうやら、いろいろと察しているカイヤであった。
「なんかあたいにできることがあればよいのだけど」
「ううん、これだけで大丈夫」
顔をカイヤに擦り付けて、本来の彼女の、気負わない心優しい少女の顔に戻るアウラ。 この部屋から出たら荒れ果てた世界復興の象徴である勇者に戻らないといけない。そんな、彼女のつかの間の安息時間。
できればずっと仲間とこんなふうにしていたかったけれど、
「そろそろ、出ないと……」
勇者にはそんな時間はない。
もう深夜も近い時間だが、これから大聖堂に行って聖女主催の会議に参加しないといけない。
「そだね……なら最後に一緒に水風呂にはいろ」
そして、サウナから出たら、頭から水を被ったあとにカイヤから先に水風呂にどぼん。
アウラも続き、
「うん……気持ち良い」
考え込んだまま出るのも忘れて、長いサウナで熱くなりすぎた体を心地よく冷やすのであった。
一瞬のことなのかもしれないが、悩みが消えて、スッキリとした顔になったアウラ。
その様子を見たアウラは、このタイミングなら言えると思い、
「アウラさ……あのイクスって人と子供作っちゃえば良いんやない?」
「え?」
なんか唐突にとんでもないことを言い出し、
「大丈夫だって、アウラならあの堅物そうな男もいちころだって」
「何を……言ってるの!」
顔を真赤にしながら思わず叫んでしまうアウラなのであったが、
「あらおもしろいお話ですね……私にも聞かせてもらってよろしいですか」
いつの間にか浴室にいたのは、
「「ロータス様」」
イクスと一緒に現れた、別大陸の聖女——ということになっている謎の女性——ロータスなのであった。