勇者の憂鬱(さらに深まる)
アウラは悩んでいた。
と言うか、聖都に帰ってきてから悩みっぱなしなのであるが……
更に悩みまくりとなる例の男の登場であった。
イクス。
英雄アウラが全く刃が立たなかった邪竜を、子供扱いで叩きのめした、本当の英雄が聖都にやって来たのであった。
いや、イクス本人にどうこう言いたいわけではない。
悩みは、この男が現れても一向に改善しない自分の状況であった。
人類を救ってくれた人がやっと現れた。
これで本当のことを語れるのならば以下に心休まることか。
自分が偽の英雄だと民に語れたらいかに心の重荷が取れることか。
しかし、本当の英雄が現れてなお……
アウラは英雄を名乗らねばならない。
それは、彼女の唯一の希望を打ち砕くものだった。
もしかしたらと思っていた。
この状況は真の勇者イクスさえ現れてくれたら変わるのではと思っていたのだが……
結局、アウラの悩みは終わらない。
イクスとロータスの、なんとも控えめに、というか虚偽に低くして自分達の働きを語ったせいで、アウラの功績は中途半端に割り引かれることになった。
彼女が邪竜を倒した勇者には間違いないが、他に功績があった人たちを隠蔽している——
そう思われてしまった。
そもそもイクスたちの功績を隠蔽しているのは、アウラの意志ではなく聖女よりの指示である。
それなのに、よりにもよって、聖女の唯一の政敵とも言える、第二聖女ウネルマに……
このまま、放っておいたら、教会内に不穏な騒動が巻き起こりそうな状況であるが、
「私になにかできるのだろうか……この都で何か企みがなされようとしても止める力などあるのだろうか……」
イクスたちが悪い人たちには見えないのだが、結局蘇生のわからぬ者たちである。
勇者である自分がなんとかしなくてはと思うのだが、自己評価がとても低くなって、鬱々となってしまっているアウラは、
「私はあまりに未熟だ」
邪竜にまったく相手にならなかった自分のことを思い出し、嘆息をしながら言った。
ダメモードに入ってしまって、何をしたら良いか次の行動が思いつかない。
「あのイクスと言う男に私はまるでかなわない。いや……あの男にかなわない以前に、邪竜にもまるで歯が立たなかった……」
勇者として、人類の守護者としてノブレス・オブリージュを果たすべく、日々精進していたつもりのアウラであった。
しかし、この世には、自分とはまったくレベルが違う者たちがいることがわかった。
ならば勇者としての自分の意味とは……
「何、しけた顔してんの? アウラこの世の終わりみたいな顔して……この世の終わりはもうこの間に終わったよ……」
アウラが一人悩んでいるところに現れたのは、
「カイヤ……」
冒険者パーティで一緒に苦難を乗り越えた仲間——魔法使いカイヤであった。
「それはそうと……ロウリュウしてもよい?」
「あ、はい……」
アウラが一人悩んでたその場所は、勇者に聖教から与えれた館の中でアウラが一番好きな場所、サウナの中なのであった。