最後のおふだ
僕は不幸体質だ。
財布に穴が空いていたなんて序の口で、電車は悉く遅延、人・動物関係なく絡まれるは物は飛んで来るはで次々と災難に見舞われる。
「何読んでるの?」
「……」
「ちょっと、そんな暗い奴やめなって」
「う、うん」
しかもこの体質、周りにも影響するから厄介だ。昔友達を怪我させて以来、誰とも話さず関わりも持たず、ただ本を読んで生きてきた。
このおふだを見つけるまでは。
夏祭りの境内で見つけたおふだ。小さな木箱に入ったそれには『身代わり』の文字。
不思議に思って手に取った瞬間、突然御神木が倒れ大騒ぎになった。でも確実に激突コースだった僕は何故か無傷で、先程のおふだが真っ二つになって目の前をハラハラと舞い落ちたのだ。
「それ面白いよね!」
「佐藤さんも本が好きなの?」
「うん。ユイコンドルって作家が好き」
「わかる。ハードボイルド系が特にいいよね」
あれから僕は木箱をお守りにしている。
何度も助けられ、以前声をかけてくれた佐藤さんとも本好きの共通点から意気投合するようになった。
ガシャーーン!!
「きゃあ! って、ボール?」
「ったく危ないな。怪我はない?」
真っ二つになったおふだをそっと拾う。周囲を巻き込む不幸体質もこれがあれば安心だ。
「はぁ……」
おふだが残り一枚になった。
始めからわかっていた事だ。いつか終わりが来ると。
「佐藤さんとも」
人と楽しく話したのは本当に久々で、この関係を続けたいと思う。でもおふだがない僕はただの疫病神。彼女を不幸にするなんて絶対ダメだ。
「小森くーん!」
憂鬱な気分を吹き飛ばす明るい声。振り向くと横断歩道を小走りに渡る彼女が見えた。その瞬間
「危ない!!」
けたたましい音と共にトラックが突っ込んできた。咄嗟に彼女を抱え転がる。衝撃。詰まる息。
「っ、大丈夫!?」
「小森君は!?」
どうやら二人とも無事で全身の力が抜けた。我に返ると目の前に赤い顔の彼女がいて慌てて体を離す。ぎこちなく目線を外した先に舞い落ちるおふだ。
思わず手に取り、見えた文字に首を傾げた。
「『利他』?」
「うん。最後の一枚」
聞けば彼女もおふだを拾ったという。利他とは他人の幸福を願う事。つまり僕のおふだは彼女の身代わりになり、彼女のそれは僕を救ったという事で。
その後僕達は神社へお礼参りに行った。すると驚いた事に僕の不幸体質はすっかりなくなり、今では楽しく毎日を過ごしている。
僕の幸せを願い続けてくれた彼女に、僕は本当に感謝している。