あの日燃えたものは何だったのか
ある貴族の令嬢が亡くなった。
隣国へ向かう道中、事故に遭ったらしい。
馬車に載せていた火の魔石が暴走し、馬車の中で焼死したそうだ。
職場に訃報が流れた。
同僚がどよめく中で、誰かがぽつりとこぼした。
「仕方がない」
だそうだ。
広場に行くと、新聞が飛び交っている。
一面に大きく書かれている文字は
"天罰"
だった。
あたりが騒がしい。
自宅へ帰ると、手紙が届いていた。
父母からの手紙、兄弟からの手紙、
幼馴染の兄からの手紙
日付はまちまちだが、内容は一貫して
「帰ってこい」
だった。
廊下を歩いていると、何やら中庭が騒がしい。
中庭では華やかな衣装を着た何かが茶番を演じている。
「私のせいで」
「君のせいじゃない。これが彼女の運命だったんだ」
だそうだ。
自宅へ帰ると、また手紙が来ていた。
幼馴染からだ。
隣国へ発つらしい。
「お元気で」
と書いてある。
慌てて書いたのか、字が所々ブレている。
職場に行くと、上司に呼び出された。
いつもより元気がないそうだ。
「何かあったのか」と訊かれた。
何もない。
寝室へ行くと、話し声が聞こえる。
「安心」
「機密が」
「国のためだ」
だそうだ。
部屋に行くと、話し声が聞こえる。
「邪魔者が消えた」
「これで幸せになれる」
だそうだ。
酒場に行くと、豪遊している奴がいた。
何やら上機嫌だ。羽振りもよい。
「大きな仕事を終えた」
「一生安泰」
「これは戦利品」
と、煤けてはいるが高価そうな髪飾りを掲げた。
自宅へ戻ると、速達が届いていた。
彼女の兄、アーロンからだ。
「アリシアのことを聞いた」
もう遅い。侯爵領から王都まで3日はかかる。
「すぐにそちらへ行く」
もう遅い。彼女はもういない。
「早まるな」
もう遅い。
俺は、握りつぶして火に焚べた。
"コンラッド・アクトンの凶行"
XXXX年王都ルリザンで起こった大量虐殺事件である。
当時、次期王国筆頭魔術師として名声を得ていたコンラッド・アクトンが、
得意とする火の魔術で王都の住民全てを1人残らず焼死させた。
検死魔術により、平民は即死、王侯貴族はゆっくりじわじわと焼き殺されたと判明した。
中でも、当時新しい婚約を発表したばかりの王子とその婚約者は全身を潰され、もがき苦しむ中炙り殺された。
王都が燃え盛る中、コンラッド・アクトンは、侯爵領から駆けつけたアーロン・ダンヴィル侯爵子息によって討伐された。
アーロン・ダンヴィル侯爵子息は、5日前に妹のアリシア・ダンヴィル侯爵令嬢を亡くしており、その遺体を引き取りに王都へ向かっていたところだった。
絶命したコンラッド・アクトンの身体は黒い炎を起こし、瞬く間に燃え上がった後、塵となったという。