祝福されない子
「ああ……!?」
「遅かったッスね……」
「そんなっ!?」
聖歌とかそんな感じの音が、ボクの鼓膜を揺さぶる。
この音が……祝福なのかな?
「もう手遅れだ。 ここは一度退却して、立て直すしか……」
音に混じって、みんなの声も聞こえた。
「――――」
眼下で、シールドに押さえつけられていたバキエル、そのコアである赤子が笑っていた。
でも、ボクの意識はハッキリしているし、感覚もある。
「気持ち悪いから……」
シールドを解除して、左手を振り上げる。
「笑うなぁっ!!」
そして、赤子の目に指を突き立て、眼球代わりのガラス玉をえぐり出した。
「アマリが生きてる!?」
「ゼロ距離で祝福を受けたのに!?」
驚くみんなをよそに、バキエルは口を開けてボクに噛み付こうとした。
ボクはアジ・ダハーカを頭上で回転させて勢いをつけ、バレルパーツと打撃用パーツを兼ねる先端部を、バキエルの顔面に叩きつける。
そのあと、脆くなった鱗の隙間にブレードを入れ、バキエルの下顎を切り落とした。
「コアは全身を移動してる。 なんとかして壊さないと、また再生するわ!」
リンさんからのアドバイスが聞こえたと同時に、体内に潜ろうとした赤子の首をおもいきり踏みつけ、動けなくする。
「残念だったね、バキエル。 ボクには、アンゲルスの祝福が効かないみたい」
なんとなく、バキエルに声をかけていた。
「さようなら」
ボクはコアへブレードを刺したあと、バレルパーツを向け、ゼロ距離で何発ものレーザー弾を撃ち込んだ。
◇
「周囲に敵の反応はなし。 このフロアはバキエルだけだったみたいね」
リンさんが探知魔術で周囲を探り、ナオミさんはジェイコブとふたりでバキエルを解剖していた。
「おかしくないッスか? たくさんいたコンフェッサーまで居ないなんて」
アキラの言う通りだ。
あのバキエルは、1階で戦ったとき、たくさんのコンフェッサーを率いていた。
なのに、それが1体も居ないなんておかしい。
「いや、コンフェッサーは居た」
ジェイコブが小さな肉塊を手にしながら言う。
「このバキエルは、コンフェッサーや量産されていた10体のバキエルを1体にまとめた個体なの」
「だから、あんなに硬かったんだね。 改造したのは、バキエルより上位のアンゲルスかな?」
「だと思う」
バキエルには、自分を改造するなんて行動ができるほどの知能は無い。
きっと、バキエルより上の階級のアンゲルスが改造したんだ。
「それにしても驚いたッス。 アマリには祝福が効かないなんて」
ぶんぶんと尻尾を振りながら、アキラがボクに抱きついてきた。
「自分でもびっくりだよ」
答えながら、じゃれつくアキラの顎を撫でる。
「わひゃ!? くすぐったいッスー」
「なんか手触りが良さそうだからつい」
きっと、バキエルとの戦いで疲れてしまったから、落ち着きたくてそんなことをしたんだと思う。
それに、アキラの体毛は、虹色の光を帯びた銀色の毛という珍しいものだし、ふわふわしていて触り心地が良さそうだったんだ。
「でも、アマリならいつでもお触りオッケーッスよ」
顎とか頬に額を撫でていると、嬉しそうな表情で、尻尾も元気よく振りながら、アキラは甘えた声を出す。
――だけど、このやりとりは一度したような……?
「どこかで道具を見つけたら、ブラッシングもしてあげるね」
何も思い出せないまま、ボクはナオミさんとジェイコブの作業が終わるのを待つことにした。