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バキエル、再び

「じゃ、さっそく出発しよう!」

「2ヶ月も3階で足止めくらってるッスからね。 一気に突き進むッスよ!」

 

 ナオミさんとアキラが、周りの荷物をまとめはじめた。

 そのとき、アジ・ダハーカを持っていたボクの手が、かすかに痺れた気がして――

 

「みんな、構えて!」

 

 ボクは自分の背後。 何も無いはずの空間をアジ・ダハーカでなぎ払った。

 直後、ブレードが何か(・・)に食い込み、手に確かな感触が伝わってくる。

 

「何も無いところでブレードが止まった……?」

「ちがう! これは……」

 

 ジェイコブがナオミさんをかばいながら飛び退く。

 そして空間が歪み、ボクがブレードで切りつけたそれ(・・)が正体を現した。

 

「バキエル!?」

 

 ボクが最初に見た半魚人型のアンゲルス。

 そいつが、透明化を解除しながら距離を取る。

 

「あいつ、透明化なんてできないはずッスよ!?」

「改造されているんだわ」

 

 アキラとリンさんがそれぞれシューティングモードのコフィンを構え、引き金を引く。

 同時に、バキエルは透明化で姿を隠し、弾は虚空に消えてしまう。

 

「これじゃ、また不意打ちを食らっちまう」

 

 二振りのナイフ型コフィンを構えながら、ジェイコブは舌打ちした。

 

「ボクに任せて!」

 

 ボクはアジ・ダハーカを握りしめ、神経を集中させる。

 ――手のひらで感じた痺れ、背筋がぞわつく感覚。

 これがバキエルの気配なら……

 

「そこだ!」

 

 アジ・ダハーカをくるりと回して構え直し、射撃。

 レーザー弾が何かに命中し、バキエルが透明化を解除する。

 

「なんでアイツの位置がわかるんスか?」

「アジ・ダハーカには自動防御(オートガード)とか、魔力探知機能があるの。 バキエルの透明化は、ボディの色を周囲に合わせて変える方式だから、探知機能には引っかかる!」

「でも、魔力を抑えられたら探知できなくなるわ!」

 

 リンさんの言うことはもっともだ。

 現に、バキエルが魔力を抑えたのか、探知機能でも索敵できなくなっている。

 

「魔力を抑えるなら……」

 

 ボクは魔力をブレードに集中させ、思い切り振り下ろす。

 その一撃でコンクリートの床は砕け、飛び散った残骸は、壁に当たる前に透明な物体にぶつかった。

 

「使えるものを使うだけ!」

 

 その場所へレーザー弾を叩き込み、バキエルは唸りながら透明化を解除。

 その瞬間、懐に潜り込んだジェイコブがバキエルの脇腹を切る。

 

「ナイスアシストだアマリ!」

 

 バキエルの懐に潜り込むまで、ジェイコブの反応は消失していた。

 

「ジェイコブも透明化できるんだ」

「インビジブルっていう固有魔術さ。 方式はアイツとおんなじ」

 

 手元でコフィンをスピンさせながら、ジェイコブは姿を消す。

 

「固有魔術、か」

 

 固有魔術は、コフィンと契約すると覚醒する可能性がある特殊な魔術だ。

 大抵はコフィン側に記録させた魔術を契約者に合わせて反映させるんだけと、一部のネクロマンサーは、記録に無い特別な魔術を覚醒させる。

 

「ボク、覚醒してないから羨ましい」

「固有魔術は、時が来れば覚醒するモンなんス。 いまは焦らず、アマリのペースで頑張ればいいんスよ」

 

 つぶやくと、アキラがボクの肩を叩いて励ましてくれた。

 そんなアキラの思いやりが嬉しくて、ボクは泣きそうだった。

 

「ふたりとも油断しないで! アイツ、透明化を捨てて魔力を高めているわ!」

 

 後方に位置取るリンさんが叫んだ。

 不意打ちを捨てたってことは、正面から仕掛けてくるってことか。

 

「くるよ!」

 

 ナオミさんが防御の構えを取る。

 ボクはシールドを展開して走り出し、己の筋力を強化して突進を繰り出すバキエルの目の前に躍り出た。

 

「真正面からぶつかる気ッスか!?」

「衝撃までは防げないぞ!」

「ナオミ! 回復魔術をアマリに!」

「わかった!」

 

 ぐんと踏み込み、マジックシールドは前方に集中。

 バキエルの突進とタイミングを合わせ、体全体の力を使ってアジ・ダハーカを振り上げた。

 

「バキエルをはじき飛ばした!?」

「マジックシールドと防御機能をフルに使い、タイミングを合わせてカウンターしたのか!」

 

 集中展開したマジックシールドをタイミングよく当て、攻撃を相殺する防御法。 通称『ジャストガード』。

 このジャストガードを習得していたから、ボクは学年トップのチームに参加できたんだ。

 

「空中なら動けないでしょ!」

 

 壁を蹴って三角飛びの要領で跳んだボクは、空中へ跳ねあげられたバキエルに接近。

 

「んで、おなかに鱗は無い!」

 

 そして、硬い鱗が存在しない腹めがけてブレードを突き立てる。

 

「浅かった!?」

 

 しかし、バキエルはとっさに体を反らしたため、腹の皮を切っただけだった。

 

「いや、チャンスだ!」

 

 インビジブルを解除したジェイコブがバキエルの体に乗り、二振りのナイフ型コフィンで裂いてキズを広げた。

 

「あれは……」

 

 縦に割れた傷口から、真っ赤な血に染まった赤子のようなカタチの肉塊が現れた。

 

「リン! コアを撃て!」

 

 ジェイコブの言葉を合図に、リンさんがスナイパーライフルに変形していたバンシーのトリガーを引く。

 放たれた弾丸は、コアに向かって一直線に飛翔したが、その瞬間コアは胎内に引き込まれ、弾丸はバキエルの肉体を貫通するだけに留まった。

 

「アイツ、コアを移動させやがった!」

 

 ジェイコブはバキエルを足場に跳躍して離れたあと、インビジブルを発動。

 もういちど懐に潜り込む機会を伺っていた。

 

「ボクが動きを止める!」

 

 ボクは範囲を狭めてマジックシールドを展開。 それでバキエルを押さえつける。

 

「――?」

 

 シールドでバキエルを押さえつけたとき、バキエルの胸元を守る鱗が盛り上がり、そこから赤子の頭が出てきた。

 なんで、わざとコアを露出させたの――?

 

「バキエルから離れるッス! 至近距離で祝福を受けたら、マジックシールドがあっても即死するッスよ!」

 

 アキラが怒鳴る。

 ――でも、遅かった。

 

「――!?」


 赤子は真っ赤な瞳でボクを見つめながら、大きな声で泣き出した。

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