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思い出せないキオク

「――ごめん。 ここまでしか思い出せないや」

 

 この研究所に来るまでに思い出せたのは、わずかなできごとだけだった。

 しかも、内容の日時はバラバラというオマケ付き。

 これじゃあ、時系列順に説明することもできない。

 

「ナオミ、ちょっとアマリを診てあげて」

「うん」

 

 リンさんに言われたあと、ナオミさんがボクの頭に手を置く。

 

「あたしは治療魔術が得意なの」

 

 ボクの頭に置かれた手が、光を帯びる。

 ほんの少しだけ、あたたかさを感じた。

 

「――やっぱり」

 

 やっぱり?

 

「アマリくん、記憶が封印されてる」

「え……?」

 

 記憶が、封印されてる……?

 

「アンゲルスの魔術?」

「これは、ネクロマンサーの術式みたい」

 

 だれが、何の目的でボクの記憶を封印したんだろう?

 そんなことをしても、意味は無いのに。

 

「術式の効力は弱いし、時間が経てば記憶も戻ると思う。 無理に解除する必要もないね」

 

 ナオミさんの診察は、5分も経たずに終わった。

 そしてタイミングよく、ドアが開く。

 

「ただいま」

 

 部屋に入ってきたのは、ナオミさんと似たイタチの獣人だった。

 そのヒトは、ボクの存在に気づいて首をかしげる。

 

「はじめまして。 ボクは御園・ベラドンナ・アマリリスです。 色々あって、この施設に迷い込みました」

 

 ボクが先に自己紹介をすると、彼はニコリと笑ってこちらに歩み寄ってきた。

 

「おれはジェイコブ・ガブリエラ・テイラー。 ナオミの兄だ」

 

 兄妹だからナオミさんと姿が似ていたのか、と納得しながら、ボクはジェイコブと握手を交わす。

 

「探索の調子はどうスか?」

「相変わらず、最深部からアイツが出ようとしない。 それで、どうして御園くんはこの施設に迷い込んだのかな?」

 

 ジェイコブは、頼れる兄貴分みたいな雰囲気のヒトだ。

 なのに、ボクを見つめる目はとても冷たくて……怖い。

 

「誰かに記憶を封印されて、この施設に送り込まれたみたいなのよ」

 

 ボクの代わりに、リンさんが説明する。

 

「送り込まれた、ということなら、1階の転移術式が使われたってことか」

「転移術式?」

 

 入口と出口を事前に設定し、物体や生物の転送を可能とする転移の魔術は、魔術が研究されはじめた早い段階で完成した。

 転送可能な距離は半径2キロメートルと長くはないし、転送できるものの大きさにも制限はあるけど、日常でも見かける一般的な魔術でもある。

 

「外からこの施設1階への転送に限定されているが、転移術式が敷設されてる。 おれたちはこの施設で生まれたから、転移術式を使う必要が無い。 だから――」

「ボクは外から転送されたってことになるんだね」

 

 ボクが答えると、ジェイコブはやっと優しい表情を見せてくれた。

 ボクに対する警戒を解いた……ってことでいいのかな?

 というかその前に、ジェイコブはとんでもないことを言った気がする。

 

「ジェイコブ。 いま、この施設で生まれたって言わなかった?」

「言ったよ」

 

 ジェイコブは、腰のポーチに入っていた何かをリンさんに渡しながら言う。

 

「これまで施設のフロアを探索してきて、わかったことがあるんだ。

 まず、おれたちは元人間で、動物の遺伝子から作り出した人形に魂を移した存在だ」

 

 みんなは、ジェイコブの話を聞いても驚いてはいなかった。

 ボクよりも早く、自分たちの正体を知っていたのかもしれない。

 

「次に、人形に魂を移すことになった理由や、この施設に来るまでの経緯を覚えていない」

「覚えていないって、ボクみたいに記憶を封印されてるってこと?」

「違う。 その部分の記憶は抜けているんだ。 何らかの方法で抜き取られているのかもしれない」

 

 獣人を模した人形に人間の魂を移したり、記憶を抜き取ったりするのは合法だけど、暗黙のルールで禁忌とされていた。

 だけど、この施設に関わったネクロマンサーは、禁忌を犯した。

 つまり、相当な外道ってことになる。

 

「だからオレたちは、自分たちや施設のことを知るために、探索を続けてるんス」

 

 施設を探索していけば、ボクの記憶やみんなの記憶を取り戻せるかもしれない。

 それに、ここに居るアンゲルスたちを外に出したら、一般人に被害が出る可能性もある。

 だからもう、決めたんだ。

 

「――ボクも、探索を手伝う」

 

 この施設について調べて、アンゲルスを倒して、記憶を取り戻して、脱出するって。

 

「アマリが手伝ってくれるのは嬉しいッスけど……」

「この施設はアンゲルスだらけで危険よ? あなたを守ってあげられる保証もない」

「でも、1箇所に留まってるよりは安全だと思う」

 

 バキエルをはじめとしたアンゲルスたちは、この施設を動き回っていた。

 部屋にひとり残って襲われるより、みんなと一緒に行動していたほうが、襲われた時すぐ対応できるはず。

 

「ボクのアジ・ダハーカは防御力特化のコフィンだし、みんなの盾にはなれるよ」

「あたしやリンちゃんは後方で立ち回るタイプだから、前で守ってくれる人がいるのは嬉しいよ。 でも、盾になるって戦っていれば、いつかケガとかしちゃうかもだし……」

 

 子供だから、ボクは頼りないように見られているのかもしれない。

 けど、マジックシールドの出力、ガードとカウンターの上手さだけは、周りから評価されてた。

 そのせいで防御しかできない子って思われてたけど、敵の攻撃を一手に引き受け味方を守ってあげるタンク役の能力は、狭い場所で戦うのに必要だと思う。

 

「アジ・ダハーカは、範囲内に常時回復のフィールドを展開してる。 この機能があれば、後衛が前衛を回復する頻度が下がって攻撃に参加できるし、前衛はより前に出れるようになると思うんだけど」

「たしかに、後衛も攻撃に参加できるようになるのは大きいわね」

「それなら、アマリくんが一緒に戦うのもあり……なのかな?」

 

 ナオミさんは、かたわらで思考を巡らせていたジェイコブを見る。

 

「いまのメンバーでは、タンク役は不足していた。 アマリが加われば、探索もより効率的に進められるかもしれない」

「それじゃぁ……」

「アマリもメンバーに加わってくれ。 そして、この施設を探索して、一緒に外へ出よう」

 

 ボクは、心の中で小さくガッツポーズをした。

 同時に、アキラが「わーい!」と言いながらボクを抱き上げたのだった。

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