回想:ショッピングモール防衛戦
「緊急事態発生! 繰り返します、緊急事態発生!」
クラスメイトからチームを抜けろと言われた数時間後。
アカデミー中に緊急事態を知らせるサイレンが鳴り響いた。
「アンゲルスの集団がショッピングモールに出現! 出撃可能なアカデミー生はただちに出撃してください!」
「よりによってこのタイミングで……!」
全国のアカデミー生が集まって合同演習が行われる予定だったから、ボクらよりセンパイの中等部や高等部の生徒は、みんな東京にいる。
いま出撃できるのは、初等部の5年生と6年生しかいない。
「アマリ、出撃できるか?」
ボクが入っているチームのリーダーから、通信がきた。
「できるよ」
「じゃあ、そのまま出撃しろ。 現地で合流するぞ」
ボクの入ってるチームは、ことし学年トップになった最強のチーム。
戦えないボクなんて、チームではお荷物でしかない。
なのに、リーダーはボクのことも戦力として数えてはいたらしい。
「合流地点は?」
「ショッピングモールのそばにあるカフェだ」
「了解」
ボクはケースからアジ・ダハーカを取り出し、起動させた。
◇
「みんな、集まったな?」
ショッピングモールに近いカフェで、ボクたち6人は合流した。
「先行したチームが戦ってるみたいだね」
ショッピングモールの方角から激しい音がする。
ひと足早く突入したチームが、アンゲルスと戦っているんだ。
「今回、おれたちのチームは、ショッピングモール中央に現れたボスを倒す。 アマリはうしろでサポート。 みんなはいつも通りに」
ボクがやれることはサポートだけ。 だから、うしろでみんなを見守っていることしかできない。
「うしろから見物かよ」
「背中を守る盾にはなるでしょ」
「細いからムリだろ」
チームのメンバーが、わざとらしく聞こえる音量で話していた。
でも、これ以上トラブルを起こしたくなかったから、聞こえなかったフリをしたんだ。
◇
「突入するぞ! ついてこい!」
「了解」
ショッピングモールに突入したボクたちは、事前に決めた通りのポジションについて、作戦を開始する。
「アンゲルス発見!」
メガネをしている女の子が、空を飛ぶアンゲルスを発見した。
「あのアンゲルスは……」
そばに水瓶を浮かせ、四肢が分離して宙に浮いている、人間に似た姿のアンゲルス。
あれはたしか……
「ガムビエルだな」
リーダーがアンゲルスの名前を言った。
「バキエルより階級が上のアンゲルスね。 あいつがいるなら、周りにマーターズがいるはずよ」
マーターズっていうのは、ガムビエルが使い魔として連れているクラゲの姿をしたアンゲルスだ。
授業で、マーターズは自爆して祝福や毒をばらまいたりするって聞いたことがある。
「水瓶の動きに注意しろ。 あの水瓶で作られた水は、おれたちやコフィンには毒だ」
ガムビエルは戦闘能力が高い。
聖なる祈りがこめられた水を作って、それを自由にコントロールして攻撃してくる。
「アマリ。 あんた、前に出なさいよ」
「は?」
荒っぽい言葉づかいをするジャージ姿の女の子が、ボクの肩をつかんだ。
「ガードだけはムダに固いんだから、ガムビエルの攻撃を受け止めろって言ってんの!」
「わ、わかったよ」
ボクはしかたなく前に出た。
「ボクがガムビエルを撃つから、みんなは散らばって周りのザコを!」
「えらそうに指示すんな」
ガムビエルはボクらに気づいていなかったから、先手を取れた。
変形しない杖型のコフィンであるアジ・ダハーカは、反対側を前に向けるだけでシューティングモードが起動する。
そうしてシューティングモードになったアジ・ダハーカは、バレルから魔力で作られたレーザー弾を発射した。
「!」
2発のレーザー弾がガムビエルに命中してもダメージは与えられないけど、ボクに注意を向けることはできた。
「攻撃がくる! 離れて!」
「とっくの昔に離れてる」
ボクはアジ・ダハーカを目の前にかざして、マジックシールドを展開。 ガムビエルが放った水鉄砲を防ぐ。
「水鉄砲って言うけど、攻撃力はハンパじゃない……」
ガムビエルが放った水鉄砲は、そばにあった建物をふきとばすくらいのパワーがある。
防御に特化したアジ・ダハーカの機能を使ってガードできただけで、量産型コフィンが展開するマジックシールドじゃ、カンタンに突破されてしまうと思う。
「ガムビエルに集中攻撃!」
リーダーを含む全員が、シューティングモードのコフィンでガムビエルを撃つ。
リーダーたちの攻撃に気づいたガムビエルは、水をバリアに変えて身を守った。
「レーザーが、バリアの水流で受け流されてる!?」
「水を操る能力は、アンゲルスの中でもトップクラスだからな」
ボクたちの攻撃を防ぎきったガムビエルが、また水鉄砲を放った。
「やらせない!」
水鉄砲をシールドではじいてから、アジ・ダハーカをフリップさせて背中側に回し、射撃。
レーザー弾は水瓶に当たって、塊になっていた水が散らばった。
「みんな、水瓶は壊せなくても、塊になった水は壊せるよ!」
「うそっ!?」
「まじかよ」
「アマリのくせにやるじゃない」
剣舞みたいにアジ・ダハーカを回転させながら、ボクは周りに集まったマーターズを切る。
サポートしかできることがないボクだけど、コフィンを器用に操りながらアクロバットするのは得意なんだ。
「だれかひとりが水瓶を攻撃して妨害! アマリはガードに集中! おれと残りのメンバーで本体を叩くぞ!」
「了解!」
ガムビエルを守ろうとして集まったマーターズを、リーダーが百発百中の射撃で次々と倒していく。
そのスキに、ボクたちから距離を取ったガムビエルは、再び水を集めだした。
「追い込むぞ!」
ガムビエルは1体だけ。
あいつさえ倒せれば、この戦いは終わるはず。
「了解!」
リーダーの言葉を合図に、ボクたちはコフィンを構え直す。
――そのあと、走り出したところで記憶は途切れてしまったんだ。