てんせいてんせい!
転生してしまいました...
って、そんなわけないよね。うん。
私は頬を両手で軽く叩くと、気合を入れなおして周囲を見回した。
さて、ここがどこなのかを調べなきゃだ――。
私はまず自分の格好を確認することにした。
全身のサイズにピッタリのスーツに、膝丈までのスカート、それに黒タイツを履いている。靴はローファータイプの革靴だった。
「ど、どうしてスーツなの...」
これは生前の姿だ。
鏡がないから顔が同じかは分からないけど、多分同じだ。
「これって、転移?」
もしかして転生したんじゃなくて転移したのかな。
小説や漫画を読んで異世界転生については人並みに詳しいつもりだけど、いざ自分が異世界に来てみるとどうしたらいいかわからない。
元の世界への帰り方もわからないし、行く宛てもない。
野宿でどこまで生きれるかな私...
あれ、ゴブリンっぽいのが遠くから近寄ってくる。
「お前どこから来たんだ」
「わ!? ビックリした...ゴブリンってそんな流暢に喋れるのね...」
てっきりカタコトで喋りながら襲いかかってくる生物かと。
「失礼な人間だな。これぐらい常識だ...
質問に戻るが、どこから出てきた?」
「えっと……気づいたらここに」
「なんだそりゃ、酔っ払いか?」
ですよねー
でも、初対面のモンスター相手に真実を語っていいものかどうか...
まぁ、襲い掛かるんなら最初にやってるだろうし...話してみるか
襲い掛かってきたら全力で逃げよう。
「私ね。多分転生か転移でここの世界に来たんだと思うの。」
「...」
あれ、なんか空気が変だ!
あ、そっか! 私が急におかしなこと言い出したから警戒しているのか。
いや警戒どころじゃないわこれヤバい奴を見る顔してるわ。異種間でもわかる。
「ほんとだから! ほんとに私転生したの! だってこんな服見たことないでしょ!?」
「いや普通だな...」
「えぇーー!!!普通なのかよ!
異世界ってもっと、鎧とか冒険者とかそんなんばっかだと思ってたよ!」
「それもあるが、本当に知らないのか?」
「転生したばっかだって言ってるでしょうが!ヤバい奴見る時みたいな顔すんなあからさまにィ!」
ゴブリンは明らかに私と喋るのが嫌そうだった。
「どーーーしてゴブリンなんかにヤバいやつ認定されなきゃいけないのよ!!」
「初対面で''なんか''とは失礼な奴だな!」
「ゴブリンなんて私がいた世界じゃうす汚くて知性の欠けらも無いうんこみたい種族だったのよ!それがこの世界じゃ随分とまぁ言葉も話せて身なりも整えてしっかりなさってるのね!」
「あー...アンタさっき転生って言ったっけか?」
「えぇ、転移かもしれないけどね」
「病院連れてってやるからついてこいよ」
コイツ完全に私を精神病を患った人かなんかと勘違いしてやがる
初対面とか関係ないわもう
ぶん殴ってやりたい
「見渡す限り草原だけど!病院なんてあるのかしら!?」
「あるよ。この道を北へ真っ直ぐ行けば村がある。そこに知り合いの医者がいるから診てもらうといい。頭の病気かなんかだと言えば伝わるかもな。」
「バリバリ健康体じゃい!!」
「で...お前どこから現れたんだ?」
「あ...私にもわからないわ。前の世界で何かあってこの世界に来たんだと思う。」
「で...本当は?」
「本当の事だわァ!!!」
「そうか、気の毒にな。お前が何も無いところから急に現れたように見えてビックリしただけだ。まぁここ草原だし、酔っ払って草に隠れて寝てたんだなきっと。悪い、勘違いだわ。」
「貴方ねぇ。勝手に自己解決しないでちょうだい。私は病気でもなんでもないの!初対面のくせに失礼すぎるわ貴方。」
「どっちがだよ」
「責任取って村に案内してちょうだい」
「はぁ?」
ここでコイツに村の人を紹介して貰って、私が無害な存在だと言うことわアピールして居場所を確保するんだ!
これを逃す手はない!
「私はほんっとーに、急にこの世界にやってきたのよ。行く宛てがないの。本当なの。信じて。」
「それが仮に本当だとして、誰が何のメリットがあってこの世界にお前みたいな得体の知れない女を連れてくるって言うんだ。第一転生なんて聞いたことも無い。記憶喪失なんじゃないのか?」
「転生させる奴の気持ちなんて知らないわよ!
されてみて分かったけど、かなり迷惑だわ。
こんな草原に1人で放り出されて何をしろって言うの。
お願い。こんな草原に迷子の女の子が1人なのよ。それを放置するなんて、貴方まともなゴブリンなら心は痛まないの?」
「ここ平和だし大丈夫だろ」
「あ、平和なんだ」
「平和そのものだろ。荒れ果ててないし、村も良い奴ばっかりだ。むしろお前が悪さしないか心配なくらいだね。」
「そ、そう」
なんだその展開は。
異世界ってもっとこう、剣と魔法でファンタジーで常に争ってて...魔法?
「わかった!村には一人で行く!でもその前に一つだけ教えてください。」
「一つだけだぞ」
「この世界って魔法はあるの?」
「まほう?」
「そう!魔法!火を出したり水を出したりするあれ!」
「なんだそれ」
「うそ……無いの?」
「知らん。見たことも聞いたことも無い。」
「えーーー!?」
「うるさいやつだなぁ。もう帰るぞ。」
しょんぼり。
ほんと神は何のために私をこの世界につれて来たというのか...
「あ、ありがとね。それじゃまたいつか。」
「迷子になって野垂れ死ぬのだけは勘弁してくれよ。ここはいい草原なんだ。今日はたまたま誰もいないが、異種族皆に愛されてる。」
「それは私も避けたいところね。ごめん、またひとつ聞きたくなっちゃった。」
「駄目だ、一つだけって言ったろ」
「ケチ!名前教えてよ!」
「あー名前か。それくらいならいい。俺の名前はバンチョー。お前は?」
「私は田中よ」
「そうか。じゃあなタナカ。」
「色々ありがとねバンチョー」
バンチョーって...
名前と性格が一致しないわ...
こうして、私の異世界生活の第1歩が幕を開けようとしていた。