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第一章 「辻堂さんちのあずかり処」①


「それではこちらのお品、謹んでお預かりします」


 辻堂航夜(こうや)はそう言って、座卓の上に置かれた市松人形を桐箱に収める。

 彼が桐箱を自分のそばに寄せると、対面に座っていた中年の女性が張りつめていた表情をわずかにゆるませた。


「なにとぞ、よろしゅうお願いします。この市松さん、何度捨ててもうちに戻ってくるんです。もう気味が悪うて、おちおち夜も眠れへんで……」


 顔をしかめて愚痴交じりに言う女性は、七月も終わりが近づく盛夏にあって喪服のような黒のスーツで礼装をしている。しかし隣であぐらをかいて座る初老の男性は、女性とは対照的に、白いポロシャツにベージュのチノパンというラフな服装をしていた。

 いずれも洋服を身にまとった来客二人とは対照的に、上座で正座した少年……辻堂航夜は、十七歳という若さにはそぐわない和の装いに身を包んでいる。

 紗織りの黒い夏羽織から、うっすらと透ける灰色の単衣ひとえ

 線の細い整った顔立ちにさらりと切りそろえた黒髪や、華奢な体格が、どこか時代のかかった和装によく似合っていた。


「ご心労、お察しいたします」


 神妙な顔で相槌をはさみ、航夜はついと姿勢を正す。


「ですが、どうかご安心ください。当家で責任を持ってお預かりいたします」


 ありがとうございます、と女性は床に手をついて深々と頭を下げた。


「ありがとなあ、航ちゃん。さすが辻堂の《《あずかり処》》さんや」


 二人のやり取りを見守っていた初老の男性も、ホッと顔をゆるませ口を挟んだ。

 辻堂のあずかり処。

 それは航夜の家が代々続けてきた、とある生業の呼称である。

 「あずかり処」といってもホテルや旅館みたいに、手荷物やお土産を預かるわけではない。

 普通の人間が手元に置いてはおけないもの。

 端的にいえば(いわ)くや呪い、憑き物や霊がとりついたもの。

 所有者やその周囲に怪異や災いをもたらす「忌み物」と呼ばれるそれらを、持ち主から預かり供養する。あるいは封印する。

 それが辻堂家の当主たちが代々続けてきた家業で、航夜は三十一代目の後継者となる。


「お父さんから代替わりした時は、どうなるかと思うたけど。もう、立派なご当主やなあ」


 しみじみと呟いて、初老の男性は目を細めた。

 二年前、航夜は父親からこの家業を引き継いだ。

 忌み物を預かる代わりに、相応の「あずかり料」を支払ってもらう。

 だが、お金を払えば誰でも辻堂家に「忌み物」を預かってもらえるわけではない。

 辻堂家にゆかりのある者の紹介がなければ、基本的に依頼は受け付けない。

 現に今の依頼も、航夜の祖父や父と親交が深かったこの初老の男性が仲介していた。


「まだお若いのに家業を継いではるなんて、立派やわあ。古いおうちなのに、きちんと手入れもしてはって」


 隣に座る依頼人の女性が広々とした和室を見回し、感心したように相槌を打つ。

 そんな来客たちに、航夜は少し居心地が悪そうに体をすくめた。


「……ありがとうございます」


 世間話もそこそこに切り上げ、航夜は二人の来客を門の前まで見送った。

 男性が運転する軽自動車が角を曲がると、まるで来客と入れ替わるように、反対側の辻から自転車に乗ったさつきが姿を現す。

 航夜に気付き、ハンドルから右手を離してぶんぶんと振った。

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