ピーちゃん(出題1問)
王都に戻ると宿を手配した。以前に泊まった所と同じ旅館だ。
宿屋にいると第二HPがモリモリ回復していった。
宿はモンスターに警戒しなくていいので落ち着く。精神面も回復した気がした。
その間もアイカは大事そうに卵を抱き続けていたのだった。
しばらく休息したあと、冒険者ギルドに向かった。
卵を所持してギルドの建物に入った。
ギルドにはおねーさんがいて、いつもと変わらず働いていた。
「ギルスさん。【ワイバーンの卵採取】のクエストを達成してきました」
俺はカウンターにいるおねーさんに話しかけた。
「まあ、すごいわ。ランクDの依頼達成おめでとうございます。大変じゃなかった?」
おねーさんは笑顔で小さく拍手をしながら言った。
「ワイバーンの数が多くて怖かったです。親のワイバーンがいない巣を狙って卵を取ってきました」
俺はこんなのが沢山いたというのを説明する感じで、ワイバーンの翼の真似をして手を上下に動かした。
「倒すだけがクエストのクリア方法じゃないわ。うまくクリアしたわね。それでは卵の納品をしてもらおうかしら」
おねーさんは俺たちが順調にクエストをクリアしたことを知って安堵したようだ。
「さて納品しようか」
卵はアイカが持っている。俺はアイカに差し出すように言った。
しかしアイカの様子が変だ。
「嫌」
アイカは卵を抱き続けながら納品を拒否した。
卵に愛情を持ったようだ。
「クエストだから仕方がないよ」
「嫌」
「じゃあどうするの?」
「飼う」
「ワイバーンのエサとか育て方とか知らないよ。プロに任せた方がいいって。赤ちゃんもワイバーンの仲間が大勢いる環境で育った方がいいよ」
「それでも飼うの」
アイカは言うことを聞かない。
いっそのこと飼うのも手だろうか。しかし俺たちの戦いの場に赤ちゃんを連れ出すのも酷な話だ。俺は迷った。
すると卵が動き出して、殻にヒビが入った。
ピキピキピキ。
殻が割れて、卵の中からワイバーンの赤ちゃんが姿を表した。
「ピー、ピー」
ワイバーンが鳴き声をあげた。
ワイバーンはアイカの胸によじ登るようにして抱きついた。アイカはその上から手で抱きしめた。
ワイバーンはアイカになついている。
ヒヨコのような習性があるのだろうか。生まれて初めて見たアイカを親と認識したようだ。
「あらあら。すぐに国王軍のワイバーン飼育係を呼んでちょうだい」
おねーさんは他のギルド職員に指示をした。
すぐに男の兵がやって来た。
「ワイバーンの保護ご苦労。あとは我々に任せるがいい」
兵というよりは、畜産業で牛でも飼っていそうな雰囲気の小太りの男が言った。
たぶん彼が飼育係なのだろう。
アイカが渋るので兵はさらに言う。
「城の横に飼育小屋がある。馬などの騎乗動物もそこで飼っている。言えば見学はできるから、いつでも会いに来るがいい。そうだ。名付け親になってくれ」
「ピーちゃん」
アイカは言った。
ピーちゃん。大人になってドラゴンのようなたくましい姿になってもその名前なのかな。
疑問に思わなくもなかったが黙っておいた。
「じゃあ、はい」
アイカは兵にピーちゃんを渡した。
「ピーピー」
ピーちゃんはアイカの方を見ながら鳴く。別れを悲しんでいるようにも見える。
「うむ。ピーちゃんという名だな。覚えたぞ。 それでは責任を持って育てさせてもらう。ご苦労だった。報酬はギルドから貰ってくれ」
兵はピーちゃんを抱き抱えるとギルドを去っていった。
「ピーちゃん」
アイカは悲しそうだった。
「今度会いに行こうな」
俺はアイカの頭を撫でながら言ったのだった。
「ご苦労様でした。報奨を支払います」
おねーさんが仕事モードになった。
俺たちはEランクのクエ達成の時よりもよっぽど多いお金と、ギルドランクのポイントをもらったのだった。
一つのクエストをクリアしただけなので、ランクはDのままだった。
「難易度が高いクエストなのによくクリアできたわね。すごいわ」
おねーさんが言う。
「実は帰り道で一度死んでしまいまして」
俺は一度死んでいるのだ。ゲームだから復活できたが、これが現実だったら人生終了していた。
ちなみに今回は死んだのは1人だけだったので復活できた。
もしパーティが全滅すると、重いペナルティを受けた上でセーブポイントまで戻される。
俺のセーブポイントは王都の町中にある黒い長方形のモノリスだった。
「それは大変だったわね」
おねーさんは、あらあらという感じで言った。
「ストーンゴーレムが現れたのです」
「あら?」
ギルドのおねーさんの表情が変わった。
「王都の近くはゴーレムの生息域ではないわ。ゴブリンやウルフが出現する森でゴーレムが出現したのは変ね。 ゴーレムは魔法生物で、主にダンジョンで出現するモンスターなの」
おねーさんは解説する。
「ダンジョンに出現するモンスターが森に現れたということは、近くにダンジョンがあるのかな?」
俺はそこから導き出される答えを言った。
「その可能性はあるわね。ダンジョンというのは前触れなく世界各地に突然出現するの。ダンジョンは放置すると中にいる凶悪なモンスターが外に溢れ出してくるから、放置するのは危険よ」
おねーさんは言う。
平和が乱れる事態になっているかもしれない。
「それは大変ですね」
「ケンジ君。次のクエストをやってみない? 私からの特別クエストよ」
「どのようなものですか?」
おねーさんは一呼吸置いた。
「クエストは森の中に出現した可能性のあるダンジョンの調査よ。 ダンジョンの有無と、もしあったならダンジョンの場所を特定してちょうだい」
おねーさんは俺を指差しながら言う。ちょっとかっこいい。
「人が多くいる王都の近くでゴーレムが徘徊するのは見過ごすことはできません。クエストを受けさせてください。さっそく行ってきます」
俺はクエストを受けた。
「今日は休んで明日にしなさい。あなたたちHPとMPが低くなっているわ。休息も必要よ」
おねーさんは言う。
HPやMPは他人から見えるものなのだろうか?
「私【鑑定】持ちなのよ。この鑑定を使って冒険者のみんなが納品してくれるアイテムの品定めをしているの」
なるほど、鑑定を持っていると相手のHPやMPが分かるようだ。
戦うときに相手のHPが分かると、戦略の幅が広がって便利だろうな。
「お気遣いありがとうございます。では今日は休んで、明日調べてきます」
「頑張ってね。無理しちゃダメよ」
俺たちはギルドをあとにした。
次に装備屋に行く。 武器と防具を扱っている店だ。
「へい、いらっしゃい」
店に入ると背が低めで体格の良いおっさんが店番をしていた。短い髪の毛は立っていた。髭は口の回りをおおっているほど生えていた。
人属ではなくドワーフだ。ドワーフは鍛冶や建築の才能があった。
店にはお手頃な武器や防具が並べられていた。
「ゴーレムの素材を手に入れたんだけど、これを使って防具を作れないでしょうか?」
俺は主人に聞きつつ、インベントリからゴーレムアーマーを取り出した。
「ほう、これはストーンゴーレムか。数日待ってくれれば、そこそこ良いものが作れるぞ」
装備屋の主人はカウンターに置かれたゴーレムの塊をさすりながら言った。
「お願いします」
良かった。これで防御力アップができる。
「今装備しているものよりも重く作って防御力を重視するか? それとも同じ重さにして機動力を重視するか? いずれにしても今の装備より防御力は高くなるぞ」
店主は提案する。
「今と同じ重さにして、素早さを損なわないようにしてください」
少し迷ったが、機動力を重視した。
ホイップウッドと戦った時の逆の状態、すなわちこちらの動きが遅くて一方的に攻撃される状況が起きることを恐れたのだ。
「あいよ。3日もあればできるから取りに来てくれ。代金はそのときに貰う」
店主は言う。
「よろしく頼みます」
俺たちは装備屋を出た。
宿屋についた。
アイカをおちょくることにした。
「さあやろう。今すぐ一緒にやろう」
俺はアイカに提案した。
「アイカが好きなことだよ。もちろんベッドの上でやろう。情熱的な共同作業をして相性を確かめ合おう。 さあやると言ってくれ。言質を取りたいから、一言を、一言をお願いします。はあはあはあ」
俺は激しく提案した。言いながら腰を前後にバンバン振った。
「ニーニーニーニーパズルのことだよね?」
アイカはジト目になりながら言った。
「アイカの思っていることと俺の思っていることが同じかどうか、実際にやって確かめてみようじゃないか」
はっはっはーー。テンションマックスだぜーー!
「あ、想像したら出そう」
俺は股間を押さえるポーズをする。
もちろんジョークである。
「それ引っ込めて」
アイカは言う。
ちょっと下ネタに反応してくれたね。俺の息子は喜んでおります。
「パズルだったらいいよ。それ以外はイヤ」
アイカは慎重に言った。
「ではアイカさん。俺の代わりにたくさん出してスッキリしてください」
俺は下ネタが止まらない。
「123444321123444321」
アイカは出題した。
おや、これは・・・・・・。窪みが二つ。
「121234512121234512」
俺は答えた。
「穴が1つではなくて2つ。ああ、アイカさんそっちの行為に興味があったのね」
俺は宇宙の真理を完全に理解した。証明終了。QED。
「ちょっと下ネタに付き合ってあげただけ。早く寝て」
アイカは怒りぎみで言った。
「はい」
これ以上は本気で気分を害されてしまいそうなので寝た。
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◆解答例
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深夜になった。
アイカは眠ている。俺はベッドから体を起こすと、こっそりと宿を抜け出した。
宿から出るのは自由だ。 そのために各部屋に鍵がついていた。
俺は反省した。ゴーレム戦では2発で倒されてしまった。
基礎的な強さが足りない。レベルを上げて強くなろう。
王都は町の周囲を高い壁で囲んだ城塞都市であり、夜間は主にモンスターの侵入を防ぐ目的で大きな門は閉じられている。
しかし夜に出入りができないわけではない。
主要な門の詰め所には夜勤の兵がいて、用事があれば門の隣にある小さな出入り口から通してくれるのだ。
王都を出て野原へ行った。
俺はひたすら雑魚敵を倒し続ける彼に会いに行った。
戦力として利用したいからではなく、純粋に彼の生きざまに興味があった。
彼は深夜の草原にいた。
いつ寝ているのだろう?
イルカは脳を半分ずつ休めることで眠りつつ溺れずに泳ぐことができるらしい。
彼もそうやっているのではないかと思ってしまう。
「一緒にいてもいいかな」
「・・・・・・・」
彼から返事はない。
嫌がらないということは居てもいいのだろうか?
ザシュ、ザシュ
俺は近くで雑魚モンスターを倒す。
辺りにモンスターがいなくなった。
彼は【モンスターアロマ】を焚いてくれた。モンスターを引き寄せる効果を持つアイテムだ。
遠くのモンスターが近寄ってきた。
ザシュ、ザシュ
無心になってモンスターを倒し続ける。
数時間が経過した。
「じゃあ帰るよ。邪魔して悪かったね。これは旅館の夕食の残りだけど、もしよければ食べて」
俺はインベントリから、野菜たっぷりのパスタを木の容器に入れたものを取り出すと、彼に差し出した。
彼は受け取ってくれた。
俺はその場を離れる。
ザシュ、ザシュ
後ろを振り返ると、いつまでも彼は雑魚敵を倒していた。
俺は思った。
世の中の人が彼のように他人の生産活動の邪魔をせず自分の事だけをしていたら、もっと世の中はシンプルであったのではないだろうか。
まあ仕方がない。無理な期待はナンセンスだ。
俺は宿屋に戻った。