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1000文字短編

魔王の城跡

作者: をち武者

 魔王の城は潰され、今その上に花が植えられている。

 しばらくすればここは花畑になるだろう、最初から何もなかったように。


 確かにそれは悪い事ではない、今回の被害は余りに甚大だった。忘れて次に進む為にもこれは必要な事なのかもしれない。


 しかし一介の学者として思うのはそもそもなぜ魔王が生まれたのか、という謎だ。それについては誰も触れようしない。



 勇者の証言によると魔王は人の形をしていたという、そして強大な魔力を有していた。そんな者はめったに現れるものではない。

 そこで私が思い出したのはある男の存在だ。


 才能と英気に溢れ百年に一人の逸材と言われた男。周りの者にも慕われ、最高峰の賢者への道が開かれていた。

 私も彼をひと目見た事があるが、明るく魅力的で自信に溢れた若者だった。


 しかし、彼は五年前に忽然と姿を消す。街中で常に噂の的だった彼が、ある日を境に誰の口の端にも上らなくなったのだ。


 しばらく経ってようやく耳にしたのは、彼が賢者の道を断たれた事、そしてこの地を離れた事だ。


 彼ほどの実力ある者がなぜその道を断たれたのか。この疑問に私は一つの仮説を立ててみようと思う。


 この国は二百年以上続く古い国家だ、その間に起きた内乱など数えるほどしかない。

 なので残念ながら今の世を治める賢者達は皆、建国に携わった者の子孫ばかりだ。お世辞にも実力があるとは言えない。


 だから彼の存在は庶民にとっても希望だったのだ、それぞれの力が血統だけではなく実力によって認められる。そんな事を夢見たのは彼だけではなかったはずだ。


 しかし、その夢は叶わなかった。


 彼が多くを望まなければ国も放っておいただろうに。だが彼には愛があったのだ、この国とその未来に。

 どれだけトップが腑抜けであろうと国家は一枚岩ではない、どれだけ彼に実力があっても多勢に無勢だ。


 その結果、彼は仲間に裏切られ愛する者にも見捨てられた。



 あくまでこれは私の仮説だが、根拠がない訳ではなかった。

 私もまた捨てられたのだ。この仮説を上に訴えると一笑に付され、その後なぜか友人にも見捨てられ、いつしか私の話を聞く者すら居なくなった。


 なぜ分からないのだ、魔王が問題なのではない、魔王を生み出すこの国の構造が問題なのだ。

 このままではまた新たな魔王が生まれるだろう。



 魔王の城跡には今日も街から沢山の人がやって来て花を植えていく。偶然なのか、その花は彼が好きだったと言われるクチナシの花だ。

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