II ライクス・アーフェー
虚しい。
そしてひもじい。
ここは硝煙の煙たい環境と焼跡のガラクタたちが飛散した酷い空間だ。
とてもじゃないが生きていけそうもない。
火柱を数か所に立てたような黒焦げた地域は、人は生活が不可能に近い環境。乱世はどんな時代も生活圏を失っても術さえ蓄えれば生き延びられる。
リオム・レスドル。子供時代の本名だ。今現在はケジメのためなのかこの名を棄てた。
こんな幼い頃の時代、よくも避難ブロックを破って難を越せたと己を自賛した。
「見ない顔の坊主だな。フルネームはいい。名は何という」
おそらくは当部隊隊長級のリーダーらしき風格の奴だ。
「怖がるな。こんな土地で生還できた者がいても奇跡ではない。幸運がもたらした結果だ」
大人はよくしゃべる。いや、子供より知識が倍にあるからしゃべるのだとこの頃から知った。
「自分の家族……女兄弟の親たちはブロック密閉世界の中で窒息死しました」
「ブロックをそんな華奢な腕で壊した。そんなバカな」
「窒息死したので、大人が許せなくなり、カッとなったら避難民の皆を殺してしまいました」
大人の軍兵の手前だ。生存状況を知らせれば、手にかけてブロック内の非戦闘民たちは殺処分は仕方ない。しかし、当時の俺は、この者たちが味方と判断したのが事態を悪化させたのだった。
生き残るためなら俺は嘘を吐く。嘘はバレなかった。
軍兵とて、人間だ。情の一つもない戦闘員がいてたまるかと俺はこんな大人の部隊の中で補助等のボランティアを行い生き延びることができたのだった。
小麦の生地が喉を詰まらすパンと珈琲。体を包み込むシーツ一枚の支給の繰り返しのキャンプ生活にはもう慣れた。
そんな年月が過ぎた頃だ。また、あのユニットエントランスのある場所へ舞い戻ってきた。
「ユニット周りの生々しい死体。あれは違法住民が彷徨いてたからな。殺処分は仕方のないことだ」
「あれは、誰が一体⁉」
「我々を味方だと信じた軍兵が視力を失ったのか? ここにいるではないか?」
リーダーの中年の男は面白可笑しく俺に告げた。
「まさかリオム、お前が俺らを騙してたとはな」
返す言葉はなかった。いや、返せば殺処分。俺は、帰るホームを敵に売ったと思い後悔もした。
だが、いつまでも悔いても仕方ない。
そのまま軍兵として生き延びてやる。敵も味方も関係はない。
〘ツール〙というブレーンが軍属の兵士の脳漿にあると御伽話のような内容がとある制御幹部が喉元から欲しがっているらしい。
秘密装置が人であるバカな話を鵜呑みする輩は五万といる。
そんなツールを所有するのは組織絡みしかあるまい。
組織が大規模ならば装置を核兵器と例えても納得いく代物。それが何に利用されるかだなんて俺や誰一人とて知る由もなかった。
ピナナオル。俺の暮らした故郷のポイント区画ネーム。
対立関係にあるのは、ラウガハンともう一つはリージェミース。
区画ネームが三つ持つ理由は銀泉が体制意志を分裂したからだ。
その原因ではないかと疑う存在がいわゆる〘装置〙と言うなら納得いく。
俺は、それに巻き込まれるのかどうかは、このラウガハン軍がピナナオル軍と勘違いした事と大きく影響を受けるやも知れない事だろうか。
もはや、ピナナオル軍はラウガハン軍に落とされた事実については、生々しい死体を見せられたのか、直視して確信した。
納得したくなかっのに……畜生だ。
死ねない。いや生き延びてやる。這いずり回ってでも……だ。