同棲するふたり・秋③~後日談
ただイチャイチャだけのお話ですみません。
あれ、なんだかいつもと違う。
あれ、何かお腹の辺りに温かい違和感……。
え? 明るい。朝?
あれ? ここは、いつも寝てたロフトじゃない。
そっか、松永先輩が来たから和室に移動し……。
!? せ、せ、せ、先輩が私に腕枕~、隣に優雅に寝てるよ~、なんで!?
私はパニックになって思わず掛布団を持ち上げて、自分の身体の状態をチェックした。
な、な、な、んで私の部屋着が捲れてて、先輩が私のお腹に直に手を載せてんの!?
私がジタバタしたからか、先輩も目覚めたようで、
「おはよ……、友陽、起きたのか?」
「せ、せ、先輩の、手、手、手が、私のお腹にィ~!!」
「ん? あ」
あ、ってなにをとぼけているんでしょうねぇぇ、先輩!?
「寝込みを襲うなんて~」
「襲ってない」
「だったら、なんで隣に寝てるのっ!? しかもお腹触ってるし!!」
「友陽が腹出して寝てたから。つい……誘惑に負けた……」
「はあああああ? ついって、、、」
「友陽が床で寝てたから起こしたのに、面倒だとか怖いとか言って挙句の果てに布団まで連れてけっていうから、ここに連れてきた。で、友陽が俺を放さなかったからこうなった」
は、放さなかった!? 私が?
「こうなったじゃないよぉ! 床に最初に寝たのは先輩だし、私の手を放さなかったのも先輩だし!」
「でも、無理に解かなかったのは友陽だろ?」
「その理屈、そのままお返しします! ここまで連れて来てもらったのは感謝しますけど、私が布団で先輩を放さなかったとしても、寝ぼけてるだけなんだから、先輩はさっさと私を置いて私の部屋から出て行くべきだし。一応婚約者とは言っても……初日からそんな……」
「ひとりが怖いとか誘われたら、婚約者なんだから傍にいてやろうかなって思うだろ? 普通」
「誘ってないし!!」
思わず、声を張り上げてしまったけど。
あ、あれ? なに私怒ってるんだろう。これって、怒ること? わからなくなってきたよ。
ちょっとウルっとなってしまった。
「友陽、悪かった。意識が曖昧なときに」
先輩が私の頭をポンとすると、やんわり抱き締めて来た。
スウェットの上からでも先輩の体温を感じる。
人の身体って温もりって、あったかくて安心する。
少し落ち着いて来た。と、同時に、先輩と一緒のお布団の中にいることが、もう、どうしていいかわからなくなってきた。
こんなに先輩と密着したことなかったから、すごく恥ずかしいけど、こんなふうに抱き締められて嬉しい気持ちも。
ぬくぬくのこの幸せを感じながら、このままもう一度寝たいかも。
「……友陽に触りたい」
はいいいい!?? ぬくぬくが一瞬で吹き飛ばされた。
え? 触りたい? どこを?
心臓が爆発しそう!!
先輩がそんなこと言うなんて。
先輩の胸から少し離れて恐る恐る顔を上げてみると、先輩も私を見下ろしてくる。
困ったように眉を寄せているのに、目はどこか鋭い。
穏やかに微笑んでいるようなのに、目はどこか熱い意志を持ってじっと私を見つめている。
初めて見る先輩のこんな表情。
先輩の大きな手が私の頬に優しく添えられた。
いつも先輩の手は、優しい。私よりずっと大きくて、温かくて……。
この手にならちょっと触られてもいいかなって、思ってしまう。
一応、こ、婚約者なんだし。妊娠させたりしないって言ってたし。
「少しならいいけど、どこでも触っていいわけじゃないからね」
釘を刺しておかないと、まずいことになりそう。
こんな、朝っぱらから……。
「顔は触ってもいいの?」
「い、いいけど」
「耳は?」
「いいよ」
「首や肩は?」
「許す」
「腕は?」
先輩、細かい。
私が許した所を、先輩の掌がゆっくり滑る。
布の上からでもくすぐったい。
「腕はだめ?」
「だめじゃないけど」
「背中は?」
「ひやっ、もう触ってるよね、だめ、くすぐったい!」
先輩の手が、直に背中を触ってる~!!!!
待て待て、待てって!
「足は?」
「足も? 膝下ね……」
「あと……」
「あ、あとはだめ、くすぐったいから!」
「わかった……」
耳元で囁かれた先輩の吐息交じりの『わかった』に、力が抜けそうになる。
と、このまま溶けてもいいですか?
「もう少し」
「え?」
唇が塞がれて、何も言えなくなった。
部屋着は、首回りがゆったりしている。それがここで仇となるとは。
首や肩を触ってもいいって、許した私のばか!
唇で触るって聞いてないよぉ。は、反則だから~!!
だって、なんだか、おかしな気分になる。
先輩が私の首筋にキスをしてる……あ、なんか今、強く吸われたような。
なにしてるの?
もう、何がなんだか……。
「友陽、可愛い」
うぎゃああ、この先輩は……。
別人だ別人、先輩がキャラチェンジしてる。寝ぼけてるの?
寝ぼけると色気出るの?
もう限界だよ、くすぐったくて恥ずかしくて意識が飛ぶ。
「友陽?」
「せ、先輩、何かに憑りつかれてないない? 霊とか」
「おばあさんの霊?」
「ち、違うって~!」
やっぱり先輩は先輩のままだったけど。
「何を真っ赤になって悶えてるんだ? この状況であんまり可愛い顔するな。我慢できなくなる」
「!?」
そう言って先輩の薄い唇は、また私に襲い掛かってきた。
その後も、霊というか、妖魔? が乗り移ったみたいに先輩は妖艶で、いつの間にか暑いとか言って、スウェット脱ぎだして上半身裸になるし!
その色気、か、勘弁してください!
だ、だめ、いつもの堅物っぽい先輩に戻って~!
「ひゃあああ、布団に潜るの無し!!」
「膝下はOKなんだろ?」
「だからって、何するってんです!?」
先輩は、しばらく布団の中に籠って私の足の脛やふくらはぎを撫でまくり、気が済んだのか、もぞもぞと布団の外に顔を出した。
先輩~、変態じゃないよね。
私は朝からすべての気力と体力を使い果たし、先輩に小言を言う気も起らず、ぐったりしてしまっていた。
先が思いやられそう。
次は、友陽の大学の友達、里紗の視点のお話の予定です。




