例えばこんな暑い日に
---目が覚めた時、僕には記憶がなかった。
公園の硬いベンチの上で踏切と蝉の喧騒に揺られている。
呆けた頭に起きろと思いながら身体はゆっくりとベンチに座った。
怠い身体 少し汚れたシャツと動きやすいズボン ベンチに置かれた鞄 これが僕が僕と認識できる今の情報だ。
ああ そういえばもう一つわかったことがある。
まるで地面に吸い寄せられるかのように僕は猫背らしい。
「リュータ こんな暑い公園で寝てたら熱中症になるわよ。」
黒い髪の女の子が言う。
この公園には僕と彼女しかいない、
どうやら僕に話しかけているらしい。
なんて返そうかと戸惑っていると、追撃を食らった。
「そんなに呆けた顔して、もしかしてもう遅かった? 熱中症で馬鹿になっちゃったのかしら?」
なんてことを言う。
「そんな事はない。少し目眩がしただけだ。」
「何その話し方? なんだかとっても固いわよ。 」
「変か?」
「変よ。」
失礼な女だよ。
こっちからしたら初対面と何も変わらないんだぞ。
怪訝そうに見ていると
「そんな事より学校に遅れるわよ。呆けるのは明日からにしなさい。明日から夏休みでしょう?」
僕は学生なのか?まぁ今はいいか。
「わかったよ、それじゃあ行こうか。」
気にしないようにしよう。
心の中でベンチに別れを告げ、立ち上がる。
「ああ、ちょっと待って。」
「何?」
「あなたずっと寝ていたのでしょう?だから…えっと、これ!」
少し照れくさそうに差し出した右手には
冷たそうなペットボトルが握られていた。
「ありがとう。喉が乾いて死にそうだった。」
素直に礼を言う。なんだかんだいい奴じゃないか。
「あまりに乾くと干物になっても迷惑だしね。」
ああ…やっぱり可愛くねぇ女だよ。