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傍観者 < プレイヤー >  作者: YoShiKa
■ふたつめ 始動■

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07.ふえるとのまち

――なんで即答してしまったんだ。











 フェルトの街は、平和そうだ。

 ここで何をすればいいのか。困惑してしまう。


 すると、私たちに気が付いたフェルトの人形たちがわっと駆け寄ってきた。

 20か30センチくらいの住人達は、それぞれに出来が違う。いや、出来というか、個性なのかな。作り手が違うという感じだ。

 目もフェルトになっている子がいれば、ボタンの子もいて、ビーズっぽい子もいる。統一されていなくて本当にバラバラだ。それが個性だと言うのなら、まあ、うん、そういうものじゃないかなと納得できる範囲ではあった。

 人形たちは、口々に何かを言っているけれど、とても聞こえにくい。

 中腰になって耳を傾けると、やっとわかった。


「だいじんだ!」

「ふたりもいる!」

「だいじんだ!」

「またきたの?」

「だいじんだ!」

「ようこそっ」

「だいじんがきた!」

「ふたりきた!」

「なにしにきたの!?」

「だいじんがふたりもきた!」

「ひさしぶりだね、だいじんがきたよっ!」


 騒がしいこと、この上ない。でも、ダイジンって何のことだろう。まさか大臣ではないだろうし。ふたりとか言っている。


 ちらりとヒューノットを見たけど、答えてくれそうな気配はない。

 というか、話しかけても反応してくれるかどうか。会話自体、期待できそうになかった。

 そのあたりは、シュリの方がずっと頼りになる。まあ、あの人はそういう役割というだけかもしれないけど。


「だいじんって、何のことですか?」


 ひとまず、フェルト人形たちに聞いてみることにした。

 すると、一瞬にしてシーンと静まり返ってしまう。

 私の一言で黙り込むのは、本当にやめて欲しい。滑ったというか、不発したというか、そんな気分になってしまう。いや、今は特にウケ狙いとかそういうのは全くないんだけど。


 人形たちはそれぞれに顔を合わせて、まるで静かに相談でもしているようだ。しかし、数秒後に突然わぁっと方々に散ってしまった。

 あちらこちらへ走っていく人形たちを、私はただ見ているしかない。捕まえられないこともないだろうけど、そうすると一斉報復されそうで怖い。数の暴力ってあるし。


 まあ、一番怖いのは、眉間に皺を刻み込んで黙っているヒューノットだけど。


 姿勢を戻して街を見回す。

 建物も含めて全体の背が低いから、遠くまで眺めることができる。だからといって、目ぼしい何かがある訳でもない。

 ついでに後ろを振り返ると、やはり扉は閉ざされている。開けることが出来るのかどうかは、試さないとわからない。


 ゲームの基本に従うなら、民家に入って調べていくところだろう。

 話し相手がいないのなら、そうやっていくしかない。でも、フェルト生地で作られた建物は全て、私の背丈程度しかない。入り込んだら壊してしまいそうだ。

 ヒューノットに至っては、そもそも入れる気がしない。いや、私も扉から入るには苦労しそうだけど。


「行くか、行かないのか」


 その場で色々と考えていたら、ヒューノットが急に問い掛けてきた。


「行かないって言ったら、ずっとここにいることになるんですか?」

「当たり前だろ」

「行くって言ったら……」

「進む」


 帰るという選択肢はないらしい。

 それなら、まあ、進むしかないだろう。とは思う。


「行きます」


 そう答えると、彼は黙って歩き始めた。

 いまいち、扱いにくい。逆に扱いやすい人には、まだ出会えていないけど。

 そこは、今後の出会いに期待しておこう。希望を抱くのは大切だ。

 何か新しいキャラクターというか、そういう人が出て来るかもしれない。

 ああ、そういう話はシュリに聞いておくんだった。事前確認は大切だ。もう本当に、私はつくづく学習しない。メモを取る習慣でもつけるべきだろうか。


 フェルトの街を歩いていく。

 人形たちはそれぞれ、普通に生活を続けているらしい。

 水を汲む人、延々と何かが入った箱を運ぶ人、林檎のついた木を揺らしている人、道端で話をしている人、ただ歩いているだけの人、様々だ。水も箱もフェルトで出来ているようで、手の凝った作品展のような感じもして来た。

 もっとも、作品展のフェルト人形たちは動かない。大丈夫。わかってる。


 最初の反応が嘘のように、人形たちは私たちの存在なんて歯牙にも掛けていない。


 ヒューノットの後ろをついて歩く。

 目的があるのかどうか。彼は沈黙したまま突き進んでいる。

 遠くから見たときは気が付かなかったが、ある程度まで進むと広場のような場所があった。

 広場というか、単純に何も建っていない場所というか。とにかく、開けたところだ。

 前を行くヒューノットが足を止めたから、私も立ち止まる。

 何かあったのだろうかと、後ろから顔を出すと一体の人形が歩いて来た。


 他の人形たちとか、明らかに違う。

 ずんぐりむっくりした体型。背は、私のお腹くらいまである。

 つまり、めっちゃデカイ。

 他の人形が子どもだとして、あれが大人サイズだとしたら、まあ、建物の大きさ的にはそういう感じかな、とは思うけど。

 それはあくまでスケールの話で、人間に当てはめたら世界観からおかしい。


 ずんぐりむっくり君は、とても頑張って歩いてきたらしい。

 当然ながら汗こそ掻いていないけど、はあはあと息を乱している。

 その身体ってフェルトなのに重いのか? という疑問が浮かんだけど、余計なことは言わないようにしておく。私は学習できる女なのだ。できる女になった。いや、なる。


「やあやあ、だいじんしょくん。ごきげんうるわしゅう。でむかえがおくれて、もうしわけなかったね」


 意外とハキハキしゃべる、ずんぐりむっくり君。

 よくよく見るとネクタイをしていて、サラリーマンのような格好だ。灰色の髪と目で、特にこれといって印象的ではないけど、服装が他の子達と違う。そして、そもそものサイズ感が全然違う。


 ヒューノットの後ろからぺこりと頭を下げると、同じように会釈してくれた。

 表情はよく分からないけど、何となく笑みを浮かべられたような気がする。


「あの、ダイジンってどういう意味ですか?」


 思い切って聞いてみると、驚いたような顔をされた。

 いや、本当に表情なんて変わっていないとは思うんだけど、そんな感じがするだけ。


「だいじんとはね、きみたちのことだよ」

「ああ、うん。えっと、それはわかります」

「きみたちは、ぼくらより、とてもおおきいからね。われわれは、こびととよばれているよ」

「あ、そういう意味なんですね」


 "大きな人"で、ダイジンと言うらしい。

 こんなしょうもないことの為に、私はどれだけ時間を掛けてしまったんだ。ちょっと悔しい。考えればわかるレベルだった。


 まあ、ここまで歩いてきたのは、それを確認する為だけではないけども。


 ヒューノットは、相変わらず沈黙したままだ。

 そうでもないと思ったけど、シュリの言う通りなら根は寡黙な人なのかもしれない。イメージ的にはちょっと、いや、かなり違うけど。私の中で寡黙な人は、口が悪くない。あくまでイメージだ。個人のイメージです。


「よくきてくれたよ、だいじんたち。なまえをうかがってもよろしいかな? ぼくは、ぐらおといってね。このまちでかんりをしているんだ」


 ずんぐりむっくり君ことグラオさんは、誰かさんと違って、とても丁寧だ。

 そして、どこかの誰ぞと違って、話している内容はわかりやすい。何の管理だよ、とは思うけど。まあ、町長とかそういう感じだろう。


「ヤヨイです。あと、こっちは……」

「…………」

「ヒ、ヒューノットです……」


 どうして私が、ヒューノットの紹介までしなければならないのか。

 現時点でこの人、行くかどうかを聞いて来ただけで本当に何もしない。

 まさか、選択肢だけを掲げる発言のみの人ではなかろうな。

 聞いたことないぞ。主人公を紹介するプレイヤーなんて。


 私とヒューノットをそれぞれ見たグラオさんは、うんうんと頷いた。


「はじめまして、やよいちゃん。ようこそ、ひゅーのっとくん。よくきてくれたね。じつは、きみたちにおねがいしたいことがあるんだ」


 来た。

 やっとイベントっぽいのが来た。

 しかし、ヒューノットは相変わらず黙ったままだ。選択肢はまだ出ていないらしい。


「きいてくれるかな?」

「あ、はい。もちろんです」


そうじゃないと、話が進みそうにないです。


「うむうむ。では、こちらへ。どうか、ついてきてくれたまえ。ああ、ゆっくりでかまわないよ。ぼくらは、だいじんとちがって、あまりあしがはやくないんだ」


 それは、さっき見て知っている。

 頷きを返すと、グラオさんはゆっくりと方向転換して歩き始めた。

 本当にのっそりのっそりと歩いていて、普通の歩幅では追い抜かしてしまいそうだ。


 ヒューノットを見ると、行けと言わんばかりに顎先で前を示された。だからさ、どうして仕草がいちいち威圧的なんだ。仲良くできる気がしない。


 彼より一足先に歩き出すと、すぐさまグラオさんに追いついた。

 ひとまず斜め後ろをキープして、背後を振り返る。一応、ヒューノットはきちんとついて来てくれている。

 建物のゾーンを抜けて、今度は木々が並ぶゾーンに入った。最初はまだらだったけど、周囲の木はどんどん増えて密集してくる。

 グラオさん、大丈夫か。抜けられるか? と思ったけど、かなりぐいぐいと強引に進んで、木の方が押し退けられている感じだ。

 まあ、うん。フェルトだし。羊毛フェルトっていうんだったけか。あれは、こんなに細かな造形も再現できるんだなぁ、とか、適当に考えていたけど、なかなか辿り着かない。


「すまないね。これでも、いそいでいるんだよ。ゆるしてほしい」

「ああ、いえ、それは、まあ、いいんですけども……」


 しばらく立ち止まってから歩き出しても、追いついてしまう。

 何なら抱き上げて、方向だけ示してもらって歩いた方が良いのではないかと思ったけど、一応は大人だろうグラオさんにそういうことを言うのは申し訳ない。

 あと、何となくだけど重そうに見えてきた。


「ぼくにはね、げるぶというおとうとがいるんだ。もともと、ぼくらはふたりでかんりをしていたんだ。だれもしごとをしないのでは、きちんとしたまちはつくりあげられないからね。ぼくらはふたりで、とてもがんばってかんりをしていた。きっと、さいしょからだよ」


 道すがら、グラオさんはそんなことを語り始めた。

 ゲルブさんというのは、双子の弟。今は管理の仕事から外れていて、あまり仲良くは出来ていないらしい。

 まあ、どれだけ仲の良い兄弟でも、大人になったら対立することだってあるだろう。

 譲れない考え方とか価値観とか、特に街の管理ともなれば方針が違ったりとか、そういう話もあるにはあるだろうし。私は兄弟とかいないけど。


 森を歩き続けていると、木の背丈がどんどん高くなっていく。

 最初はグラオさんと大体同じくらいの高さで、私でも避けて歩くのは楽だった。

 それが、今は私の背すら超えている。こんなの、他のフェルト人形たちからしたら大樹なんてレベルでは済まなさそうだ。

 世界樹とか、そういう感じになってしまいそうな気がする。


 歩いて歩いて、歩いて、歩いて、私でも遠いなと感じるくらいの距離を進む。

 グラオ、大丈夫か。しんどくないか。休憩してもいいぞ、と思いながら前を見ると山が近付いて来た。

 背後を振り返ると、ヒューノットは相変わらず黙ったまま歩いて来ている。

 そのうち、途中でいなくなっても気付かないようにすら思えてしまう。目が合うと、怪訝そうに眉を寄せられてしまった。怖い。前だけ向くことにしよう。


「どうか、ぼくのおとうとをたすけてくれないか。たいへんなおねがいだとは、わかっているとも。しかし、しかしね。これは、だいじんにしかたのめない。たのむことができない。なんどもおねがいしたけど、きてくれたのは、きみたちがはじめてだ。どうか、ぼくのねがいをきいてほしい」


 唐突な言葉に驚いて、思わず「えっ?」と返してしまった。

 何だ何だ。いきなりのハードルだ。重要な案件っぽい。

 すると、グラオさんは山の手前で立ち止まって振り返った。


「ぼくのおとうと、げるぶはいいこだったんだ。やさしくて、しんせつで、とてもいいこだった。だがね、あるひのことだ。そらからおちてきたほしをのみこんで、それからおかしくなってしまった。はれつしてしまうのではないかと、そうおもったほどだ」


 グラオさんは、短い腕を前に出して小さな手を重ねた。

 お願いだと繰り返しながら、懸命に頭を下げている。腰が曲げられないから、前後に大きく揺れているだけに見えてしまうけど、グラオさんは真剣そうだ。


「ぼくの、たったひとりのおとうとなんだ。もちろん、まちのみんなはたいせつだ。だがね、しかし、それでもね。やはり、かぞくはたいせつなんだ。みんなは、げるぶをおそれて、もうずいぶんはなれてしまった。かまわないとも、おそろしいものはおそろしい。だが、ぼくにとっては、たいせつなおとうとだ。だから、どうかたすけてくれないか」


 助けると言っても、何をどうすればいいのか。そもそも、それは私たちに実行が可能なものなのかどうか。

 返事に困っていると、隣にヒューノットが並んだ。

 少し距離はあるけど。まあ、後ろよりはマシだ。視線を向けると、こちらにきちんと向き直って来た。


「助けるか、助けないか」


 言うと思った。

 でも、選択肢が出るということは、助けるルートがあるという意味だろう。たぶん。


「助けるよ。えっと、グラオさん。具体的に何をすればいいんですか?」

「ああ、ありがとうありがとう。おんにきるよ。ぼくでは、できなかったんだ。なにもできないことが、くやしくてね。ぼくは、たくさんしらべた。すると、のみこんだほしをだせば、げるぶはもとにもどるらしいんだ。やってくれるかい?」


 出来るのか。それ。誤飲とか、そういうレベルの問題なのだろうか。童話ではありがちな気もするけど。


 助けると選択したのに、不安になってきた。

 一拍おいて考えた方が良かったのかもしれない。なんで即答してしまったんだ。やっぱり私は学習できないらしい。くそ。

 ヒューノットを見ると、腕を組んで足裏で地面を叩いていて苛立った様子だ。

 え、はやくないですか。ちょっと短気すぎやしませんか。もう少し余裕を持っていて欲しい。


「やるのか、やらないのか」


 助けると言っておいて、やらないって何だよ。どんな意地悪だよ。

 それに、こんなに頼んできてるグラオさんの前で、そんなこと言いにくいだろ。聞くなよ。


「やります。っていうか、ええと、やってください」


 何をするにしても、私というよりもヒューノットが実行するのだろう。システム的に。たぶん。きっと、そうだ。私の選択を受けて彼が頷くと、グラオさんは嬉しそうに跳ね上がった。

 文字通り跳ね上がったものだから、重いのか軽いのか本当にわからない。


「ああ、ありがとうありがとう。おれいは、かならずする。するとも。きみたちは、ぼくのたいせつなおとうとを、たすけてくれるのだから。ああ、わたしておこう。これを。これをきみに」


 大袈裟なくらいに手を掲げて揺らしていたグラオさんは、突然ポケットを探り始めた。ていうか、そのポケット、フェイクじゃないんだ。すごい。フェルトすごい。芸が細かい。

 グラオさんが取り出したのは、綿の塊――ではなくて、


「おうごんのりんごだ。きっと、きみたちのやくにたつよ。さあ、うけとってくれたまえ」


 りんご、らしい。黄金というか、まあ、普通に黄色だ。

 ヒューノットを見たけど動く気配がないから、私が受け取っておいた。

 これも、アイテム扱いでいいのだろうか。良いものなのかどうか、レアなのかどうか。不明だ。

 そもそもフェルトだし。


 受け取ったりんごは、一旦ポケットに入れた。うーん、潰れてしまいそう。

 先払いで報酬を受け取ると、何があってもやらないといけない気分になる。追い詰められてきた。


「では、おとうとをおこそう。いまのかれは、とてもきょうぼうだ。だから、とてもとてもきをつけてくれたまえ。ああ、とりだしたほしは、どうかそらにかえしてあげてほしい。ほしは、そらのこだ。ちじょうのぼくらが、うばってとじこめておいて、よいものではないのだよ」


 今さら凶暴とか言うのは、本当にやめて欲しい。

 引っ込みのつかない私をよそに、グラオさんは山へと近付いていく。


 そして、ぺんぺんと山の中腹を叩いた。


「……」


 何も起こらない。

 待て、何だ。肩透かしか。ちょっと構えた自分が恥ずかしい。


 ぺんぺん。


 ぺんぺん。


 べしべし。


 べしべし。


 グラオさんは真剣に、すごく力を込めている様子で山を叩き続けている。

 何をしているのかと訝しんでいると、ヒューノットが私の前に出て来た。この動きには、覚えがあった。


 確か。――そうだ、チュートリアルのあの時だ。


 それを思い出した時、いきなり地響きのような音が周囲を包み始めた。

 足元がぐらつく感覚に、思わずヒューノットの腕を掴んでしまった。いや、だって、周りはフェルトの木だもん。


 しかし、ヒューノットは振り返りもしない。


 違和感に眉を寄せていると、ぐんっといきなり影が出来上がった。

 私より背が高いヒューノットよりも、更に大きな影。それは、さっきまでグラオさんが叩いていた山だ。落ち葉が乗っていて、木が倒されていく――いや、いやいやいやいや。いや、違う。違う、これは、違う。山ではなかった。


「えぇ……」


 困惑の声が出た。


 山だと思っていたのは、大きな大きな人形だった。グラオさんでも大概大きいと思っていたのに、それを遥かに上回る。180センチくらいはあるだろうヒューノットよりも、更に大きくて、ついでに横幅も異様にでかい。ずんぐりむっくりどころではなかった。

 山にしか思えなかったそれが作った巨大な影は、私たちを完全に飲み込んでしまっている。

 グラオさんとお揃いのネクタイにシャツ。よくよく見ると、黄色の髪と目をしている。つまり、これがゲルブさんで間違いだろう。

 黒いネクタイはともかく、白いシャツの方は随分と色が変わっていた。肌の部分であろう筈の場所も黒ずんだり緑色になっていたり、放置されて久しい様子が窺える。


 少し離れた位置に歩いていったグラオさんが、心配そうに弟を見ていた。

 そりゃ、心配だろう。こんなところで延々と寝ていた、みたいな、弟がいれば。昔は、とても仲良くしていたらしいし、そうでなくとも、グラオさんの方は弟をすごく大切に思っているようだったし。

 それにしても、星を取り出すというのは一体どうすればいいのだろう。まさか、お腹を押したら出て来るとか、そういうわけでは、いや、有り得るかな。誤嚥だもんな。でも、時間が経ってたら無理そうな気がする。いや、フェルト人形だし、消化とかしないのかも。




 考え事をしていると、ヒューノットが選択肢を叩きつけてきた。









「戦うか、戦わないか」










 そんなつもり、私にはなかった。

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