40.謗られた祈り
「――ちょ、ちょっと待ってよ。何その、死なば諸共的な……」
戻らないのなら、すべて消してしまえという感じなのだろうか。
確かにあまりにも救いがないとは思うけど、それにしても短絡的だ。
私が行き場のない手を揺らす間、シュリは口許でほんの小さく笑った。
それは、どこか困ったような笑みに感じられたけれど、確信なんてない。
「しかし、それこそ空が選び抜いた結論だったわけさ。空に残っていた星の砕けた残骸が降り注ぎ始めてね、星がすべて落ちてしまえば空は死に、世界の崩壊を招く。私も、そして彼も――」
シュリがゆっくりと視線を転じた。
その視線を受け止めたヒューノットは、どこか物言いたげな様子ではいるものの、口を引き結んだままだ。
「――その崩壊を見ていてね」
静かに私へと顔を戻したシュリの表情は、仮面の裏側に隠されていて分からない。
ただ、ヒューノットの方は、感情を懸命に押し殺しているように見えた。
私の視線はふたりの間を彷徨って、結局は着地点を見失ったかのように足元へと落ちていく。
「穏やかさを失った斑な空は、地上のすべてを飲み込んだのさ。怒りに胸が燃え盛る事もあれば、悲しみに心が凍てつく事もあるだろう? 嘆く空の声は天より遠い。降り注ぐ星の死骸を、止める術などなかったんだ」
紡ぎ落とされる声は、ヒューノットほど低くもなければレーツェルさんほど高くもない。
静かで、穏やかで、安定している。それはまるで、感情を落とし込むまいとしているかのようで、どこか不自然だった。
「当然かもしれないね。あれこそが、世界の行き着く先。想定された未来の果てだったとも言える。星の循環が途切れた結果だ。地上の子は母なる星を求め、空は子である星を求めた。その終着点。どのように足掻いたところで改善のしようもない。せいぜい、崩落を先延ばしにする程度でしかない――その結末を、私は受け入れられなかった」
私が視線を持ち上げると、シュリは緩やかに首を振った。
「……本当はね。世界の終焉を、空の崩落を、秩序の崩壊を、全ての終幕を、見届けるつもりだったんだ。君もよく知る、あの平原でね」
あの、平原。
そう言われて思い浮かぶところは、ひとつしかない。
すべての場所と繋がっていると、シュリ自身が言ったあの場所だ。
シュリが、いつもひとりで待っている場所――そうだ。シュリはいつも、あそこで待っている。何かが起こるまで、誰かに呼ばれるまで。ずっと、あの場所にいる。
私の方はヒューノットとあっちこっちに行くから、今まで意識はしなかったけど。
あそこで、何を思って待っているのだろう。あそこで、何もかもが終わっていく様子を、何を思いながら見つめていたのだろう。
「その筈だったのに――どうしても、受け入れ難かった」
黒衣を揺らして腕を持ち上げたシュリは、まるで寒さを感じているかのように右手で左の二の腕を擦った。
細い指先が、布越しに腕へと指を突き立てている。
「滅亡なんてね。過ぎ去れば、それだけの話でしかない。空はやがて再生するかもしれなかった。私達が終わっても、星がまた生まれるかもしれなかった。私達の終着点であろうとも、それですべてが終わるのかどうかは証明のしようもない。空を思うのであれば、一度滅びる選択肢が正しかったのかもしれない。それは、まだ始まってもいない未来のことだ。誰にも分からない。本来であれば――」
――受け入れるべきだった。
囁くように言葉を紡ぎ落としたシュリは、喉の奥に引っ掛かっていたかのようにゆっくりと深い息を吐き出した。
どうしてなのかはわからない。
けれど、まるでシュリは自分を責めているかのような響きで声を落としている。
何が正しいのかを理解していたのに、わざと踏み外したのだと告白しているような。そんな印象だ。
確かにユーベルも、そしてレーツェルさんも、シュリを責めていた。特にレーツェルさんは、凄まじい怒りの振りかざし方ではあったけど。
でも、私には、シュリがあんなにも責め立てられるほどのことをしたようには、思えなかった。
「……俺が――」
不意にヒューノットが声を出した。
シュリがゆったりとした動作で顔を向ける。
すると、一瞬ばかり言葉を忘れてしまったかのように声が途切れた。
「――……俺が、約束を反故にした所為だろう」
何か、事情があったのかもしれない。
どこか後ろめいたことを告白するような、そんな感じにも聞こえた。
単純に約束を破った――と、告げた言葉の意味合い以上のものが秘められているかのようだ。
しかし、シュリは小さく笑って首を振る。
「いいや、私が決めた事だよ」
その言葉は、あまりにもあっさりとしている。
シュリは本当に、自分の決断にヒューノットの介在が僅かにも存在していないと言い切るかのようだ。
ふたりの関係性は掴み切れないけど、少なくとも互いに相手を大切にしているというのは何となくわかる。特にヒューノットは露骨だと思う。
それが、友人のそれなのか、恋人のそれなのか。ちょっと見ているだけでは、いまいち分からないけど。まあ、家族ではないよね。似てないし。
ヒューノットは物言いたげに唇を震わせただけで、それ以上に言葉を重ねることはしなかった。
「……それで、シュリが鍵そのもの、ってこと?」
「そうさ。空の崩落を食い止める為には、第三者の介入がなければならない――傍観者が、必要だったからね。君たちを招き入れる為に、本来は閉ざされている扉を開きたかった。その為には、鍵がなくてはならなかったのさ」
その結果、呼ばれた傍観者に選択を委ねて、崩落の未来を回避しようとしているということか。
でも、バッドエンドを繰り返しているのだから、確かに現時点では失敗だ。
レーツェルさんは、終わらせるべきだったと主張していた。あの時は意味が分からなかったけど、つまりはシュリが崩落を黙って見届けるべきだったということだったのだろう。
バッドエンドを繰り返すことで、みんなが苦しんでいる。レーツェルさんには一理はある。あるとは、思うけど。
だからって、シュリだけが責められるような話なのかどうか。現時点だと、私としては否だ。
「ええと、それで、その、どうしてこうなっちゃったのかな?」
我ながら頭の悪い質問の仕方だった。
でも、こうやって私の――いわば現実の世界と、彼らのゲームの世界がくっついていることの説明がない。
というか。
「あと、レーツェルさんって何がしたいのかな、って思うというか……」
あっちの狙いも、よくわからない。
傍観者が入り込むことが嫌だというのなら、世界を閉じてしまえば済む話だ。
むしろ、こうやってこっちとくっつけてしまう理由の方がわからない。
まあ、わからないことだらけで、今はノートにでも書き出して整理したい気分ですらあるんだけど。
シュリは少しだけ考え込むような仕草を見せた。
しかし、すぐに首を緩やかに振る。
「正直なところ、彼女の行動については推測する事くらいしか出来ない。確定した未来ではないからね」
まあ、それはそうだ。
イレギュラーというか、今までに至ったことのないルートのはずだもの。
ゆっくりとブランコを揺らしながら、全くひとけのない公園の中を見回してみる。
夕方とは違って、何か異変がありそうな気配はない。というか、本当にひとけがない。こんなに静かだったっけか。
「推測でしかないが――そうだね」
シュリがゆっくりと支柱から背を離した。
そして、柵を背にして寄りかかっているヒューノットの隣へと向かっていく。
彼の隣に立ったとき、砂を踏む音が止まった。
「彼女は、恐らくユーベル・フェアレーターと同じ事をする為に準備をしているのではないかな。ただ、ユーベルがあくまで世界の終焉に重点を置く点とは異なって、彼女の場合は目的の為に手段を探り出そうとしている段階ではあると思うけれどね」
公園の外を車が通り掛った。
ライトに数秒だけ照らし出された仮面が、僅かに色を変えて光を反射させる。
遠くへと離れていくエンジン音を聞きながら、揺らしていたブランコを止めた。
「どうして、ユーベルとレーツェルさんが似たようなことをするの……?」
また、こんがらがってきた。
本当に誰かノートを、何ならペラ紙でもいいから用意して欲しい。
「ユーベルのせいで、レーツェルさんとツェーレくんの歯車が狂ったって――」
――そう、言っていたはずだ。
言いかけて、中途半端に口を開いたままで止まる。
続けざまにシュリの言葉を思い出した所為だ。
てっきり、ずっとユーベルのせいであの双子は役割が果たせなくなったと思っていたけど。
シュリは何だと言っていたか。"あの姉弟を祈りの丘に閉じ込めたのは、この世界の判断だ"と言っていた気がする。
「……レーツェルさんが、理想の王様を作ろうとしたのって……ユーベルのせいじゃないの?」
ユーベルが星を落とすようになって、それを裁く為に理想の王様が必要だった。はず、では、なかったのか。
狂わせたのはユーベルだと、そう言っていたはずだ。
「――"レーツェルは、この世界に"統率者"を生み出そうとしている"」
困惑して頭が働かなくなっていく私を前にして、シュリは歌うように言葉を紡いだ。
「"星を落とす大罪人を裁く為でもあり、自分達の世界を元に戻す為でもあり、祈りを捧げて繋ぎ止めていた全てを守る為でもある"」
決められた文句を口にするような、使い古された台詞を繰り返すかのような。
澱みも詰まりもなく、すらすらと流れるように言葉が続く。それは、普段のシュリだ。
普段の、"案内人"としてのシュリだった。
「……彼女を狂わせたのは、ユーベル・フェアレーターだった。しかし、ユーベル・フェアレーターは確かに災厄だが、レーツェルは罪人だ。本来であれば、決して許されていない禁忌に手を染めたのだからね」
理想の王様を作るには、祈りの声を聞き届けて降りてきた星――「いのりぼし」が必要だって、グラオさんが読んでくれた本には書いてあった。
空から星を奪うようなことは、とても恐ろしいことで、あってはならないとも言っていた。
星は必ず返さなければならないのだから、祈りの星を溶かし入れて作る"理想の王様"を作るなんてとんでもない、と。
"理想の王様"について、グラオさんたちは「ちじょうでうまれたかみさま」だとも言っていた。
レーツェルさんは、ツェーレくんを"理想の王様"として作り変えようとした。
「でも、それは……それは、ユーベルが星を落としたから……」
そうではなかったのだろうか。
一瞬の沈黙がその場に落ちる。
たった数秒ではあるけど、僅かに緊張感が落ちるような重たい沈黙。
意外にも、その静けさを破ったのは、ヒューノットの「違う」という短い否定だった。
「そう。そもそもの発端は違った。ヤヨイ、君も知っての通りさ。始まりは何だったのか」
ヒューノットの否定を、シュリが肯定する。
どういうことなのか。無意識のうちに、眉間に皺が寄ってしまう。
「始まりって言われても……」
星を返さなくなって、空が怒った。空が怒ったから、世界が滅亡した。
簡単に言うと、まあ、そういうことなんだろうけど。
でも、そもそも星が空に帰れなくなったのは、地上で星としての姿を失ったせいだ。
それでツェーレくんでも、空に帰らせることができなくなった。むしろ、迎えに来なかった空の方が悪いような気がするけど。
空が怒って地上を荒らすというところまで、話が繋がらないような気がする。
あれ。でも、さっきシュリは、ツェーレくんは星を「自分の中に受け入れる事が可能だった」と言った。
もしかして。ツェーレくんが受け入れられる星っていうのが、分かれちゃった星だけじゃないとすれば。
元々はひとつだった星が割れて、ひとつがレーツェルさんとツェーレくんになった。
そして、もう半分はツェーレくんが受け継いだ。それだけの話ではないとすれば。
「……レーツェルさんが、祈って星を落としたせい?」
"理想の王様"を作るために、レーツェルさんは"いのりぼし"を落とした。
そして、それをツェーレくんに食べさせていたとしたら。
あとは、"いのりぼし"を溶かしたツェーレくんを人形の器に入れること。
ぞっとするけれど、つまりは、そういうことのはず。
帰れなくなった星ではなくて、隠された星について、空が怒ったのだとすれば。
「そうさ。だから世界は彼女たちを、祈りの丘に閉じ込めた。彼女の望みが決して世界の望みではないと知らしめるためにね。本来であれば、戻れるはずの星を、隠してしまった。星を返す役割はツェーレだけが持つものだ。その役割を阻んだのは、レーツェルだったわけでね」
仮面をつけた顔が僅かに傾いた。
それはまるで、隣にいるヒューノットを示すかのようにも見えたけれど、実際はどうかわからない。
「世界からの離反を経て強行させた計画は、しかしながら程無くして失敗に終わり、彼女は弟を失う事となる――それこそが、空にとっての決定打さ。彼女は、星を受け継ぐ唯一の存在を殺してしまったのだから」
シュリの声は淡々としている。
そして、ヒューノットは違うと否定したきり、沈黙したままだ。
「ツェーレくんが……」
やっぱり、そうなのかと。
何だか、とても虚しい気持ちになってしまう。
無意識のうちに視線を下げていたけれど、数秒して気が付いた。
「――待って。だったら、どうしてレーツェルさんがシュリを責めるの? やり直したから、ツェーレくんは生きてるんじゃないの?」
「いずれにしても、結果は変わらない所為だろうね。彼女が求めているのは、"理想の王様"となるべくして定められた弟だ。星の嘆きを聞き、或いは傍観者に感化され、もしくは世界に制されて、思い留まるような彼は彼女にとって"素敵な弟"ではないということさ」
シュリは緩やかに首を振る。
あのとき――レーツェルさんがツェーレくんの頭を床に叩きつけたあとの、彼女の声が頭を過ぎった。
――さようなら。ツェーレ。私の愛しい子
――次に会うときは、素敵な弟にしてあげますわ
レーツェルさんにとって、思い通りにならない弟は失敗作だとでもいうのだろうか。
もしもそうだとしたら、そんなの、まるで人形遊びだ。思った通りにならないのなら、いらないだなんて。
どちらにしても、ツェーレくんには救いがないようにしか思えない。
レーツェルさんの求めた通りに"理想の王様"になる為に、彼は生身のままでは生きていられない。
でも、それを拒絶したって、レーツェルさんはツェーレくんを。
「……」
レーツェルさんのことを、知れば知るほど嫌悪するに違いないって。シュリはそう言っていた。
あのときは、どうしてだろうと不思議に思ったけど、今、こうして話が見えてくると本当にそうだ。
だって、あんまりすぎる。
理想の為に弟を手に掛けるなんて、私としては許容できるものではなかった。
「……シュリ、言ったよね。ユーベルを止めて欲しいって。でも、レーツェルさんは? 止められないの?」
あの時は、ユーベルだけが悪いことをしているように思ったから、理解することができた。
でも、今はもう事情が変わってしまっている。
少なくとも、ツェーレくんにひどいことをするレーツェルさんを放置なんて、できそうにない。
「正直なところ、今までにないルートからの枝分かれが生じている現状では、私でも未来の決定事項は未知でしかないのさ。可能性としては存在するとしか言いようがないんだ。すまないね」
「……そっか」
確かに色々と不満は残る。
でも、シュリの言っていることが理解できないわけじゃない。
今までとは違うことが起きているのなら、前のようにネタバレを求めたところで意味がない。
シュリでさえも、ここから先のことはわからないのだから。
「……セーブって、できるの?」
ふと、そんなことを思ってしまった。
選択肢というものが提示されていないから、そのままうっかりしていたけど。
今更になって、シュリさえも知らない未来を選択することに怖気づきそうだ。
シュリとヒューノットが顔を見合わせた。
「できるはずがないだろ」
ヒューノットの一蹴に、ちょっと心が折れそうになる。
「いいや、全く出来ないというわけではないけれどね」
落として持ち上げられた。
いや、持ち上げて落とされるよりはいいけど。
ヒューノットは何か言いたげだが、シュリが話を始めるとそれを遮ろうとはしない。
「しかし、なんというべきか……こちら側と繋がってしまった事で不都合が生じているという現実がある。そこは理解してもらいたいところでね。今までと同様にサポートする事は、まず間違いなく難しいと思われるんだ。特にセーブは、そうだね。タイミングによってオートセーブされていたところが、今度はセーブポイントを探さなければならないという感じかな」
唐突にゲームっぽい単語で説明された。
例え話なのか、本当の話なのか。声のトーン的には、きっと本当の話なのだろう。
「ただ、気をつけて欲しい。こちら側では、君は生身だ。あちらよりも無防備である事だけは自覚して欲しい。勿論――私や、彼が守るけれどね」
彼――と、示されたのは、もちろんヒューノットだ。
ヒューノットが強いことは知っているけど、守ってくれるかどうかは微妙に信用ならない。
何かこう、何というか、こう、急にいなくなるし。
今もちょっと視線を外しているから、本当にすごく不安なんだけど。
何かあったら、ということにしておこう。シュリも、自分の傍よりヒューノットの近くが安全だと言っていたし。
いや、でも、どうだろう。ヒューノット的にはシュリを守りそうだから、結果的にはシュリの近くにいた方が安全なような、そんな気もして来る。
「うん、わかった、けど、その……みんながこっちに来ちゃったのは、レーツェルさんのせい? あと、他の人達には、見えてないみたいだけど」
みたい、というか。
部屋から見ていて、そう思っただけだ。
空があんな状態になっているのに、道を歩く人達は誰も見上げる素振りすら見せていなかった。
「そうさ。レーツェルの目的は不明ではあるけどね。そして、私達――あちら側の存在や現象を認識できる者は、現時点においては傍観者に限られていると考えて構わない筈だよ」
「それなら、まあ、まだいいのかな……」
いや、全然ちっとも全くこれっぽっちも、安心というわけではないけど。
今、この瞬間から、現実世界が大パニック状態なんてことにならないのなら、まだマシという感じだ。
シュリが鍵そのもので、こっちとあっちの世界の境界線がおかしくなっているのなら、やっぱりレーツェルさんの仕業だろう。シュリの言う通り、目的はわからないけど。
あなたはあなたの居場所へどうぞ――レーツェルさんはそう言っていた。
傍観者は必要ないと思っているみたいだったから、自分たちの世界から出て行けという話なのだろうとは思うけれど。
それとも、私も含めて、レーツェルさん側にとって不要な存在を、こちらに放り出したのだろうか。ええ、それはちょっと。
「シュリが大丈夫なら、あっちには帰れる?」
「問題ない筈だよ。少し時間は掛かるだろうけど、境界自体が破壊された訳ではないからね」
「そっか、よかった」
これで誰もあっちに帰れなくなったら、どうしようかと思った。
プッペお嬢様やルーフさんあたりは、早く帰らせた方がいいような気もする。ああ、でも、あっちの方が危ないのかな。
「私の失態だからね。修復は行なうとも。皆の安全確保が最優先だがね――ひとまず」
シュリがゆっくりと近付いて来た。
そして、ブランコに座っている私の前に膝を付く。
「こちらに戻った以上、君には休息が必要な筈だよ。あちらとは違うのだからね。だから、ヤヨイ。君も少しは眠った方がいい」
膝の上にそっと手を置かれて、何だか諭されるような調子で言われた。
確かに、あっちでは感じていなかった空腹はあった。こっちが現実なんだから、当然といえば当然だ。
そうなると、今は眠気なんて全くないけど、そのうち眠くなるには違いない。
シュリに、今度はゆっくりと手を取られた。
促されるがままに立ち上がって、ヒューノットを見る。
このメンツでマンションに戻るというのも、なかなかシュールなものがあった。




