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傍観者 < プレイヤー >  作者: YoShiKa
■よっつめ 進行■

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22/77

20.再会――再開











 何がどうなったのか。なんて、全くわからなかった。

 落ちて来た星は何だったのか。あれが、ルーフさんの言っていた"外の危なさ"なのか。


 気が付けば、私は自分の部屋にいた。

 眼前には机。パソコンは沈黙していて、モニターは黒い画面を見せ付けている。そして、背後には壁と窓。カーテンは引かれたまま――部屋に戻されたことなんて、本当はどうでもよくて、瞼の裏に焼き付くシュリのことが気になってしまう。

 どうしようもなかった。何もできなかった。焼け焦げたニオイが、未だに鼻の奥にいる。ヒューノットの腕に抱かれた意識のないシュリは、仮面で隠れていても分かるくらいに顔色が悪かった。最後に見た光景に、肝が冷える心地だ。



 ――――戦わない。逃げるぞ。



 ヒューノットが、どうしてあんな風に言ったのかは分からない。

 あの後、ふたりとも逃げることが出来たのだろうか。扉が開いた気がして振り返って、それからのことは、記憶からすっぽりと抜け落ちている。

 歩いて帰って来た、というわけではなさそうだ。本当に、気がついたら部屋にいた。それこそ、まるで夢から覚めたかのようだ。

 あんなに夢が大長編で堪るか。夢なはずがない。

 無意識のうちにシュリの名前を口にして、反応がないと気が付いた後、馬鹿みたいに泣いてしまった。

 今までだったら、ちょっと呼んだだけで反応があったのに。ロードする気がなくても、あっちに引っ張られたのに。

 返るのは、ただの沈黙と静寂だ。

 もしかして、と、頭が痛い。あの後、ふたりはどうなってしまったのだろう。シュリに、もしものことがあったとしたら。

 もちろん、私には成す術なんてない。回避のしようもなかったと思う。

 でも、だからって、どうでもよくなるくらいなら、最初から放り出している。

 私のメンタルは中途半端だ。強い情熱で正義を成すことはできなくて、だけど、全くもって無関心で冷淡にもなれやしない。

 何度目だったことか。

 もう無理なんだろうと思いながら、名前を口にした時だ。一気に周囲の景色が変化して、一瞬だけ幻かと思ってしまった。いつもなら、先に待っている筈のシュリの姿はない。


 それがまた、変に不安な感覚を呼び起こしたけれど。





「――おかえり、傍観者プレイヤー


 声がして振り返ってみれば、何ともない様子でシュリが立っていた。

 その後ろには、ヒューノットもいる。

 あまりにもいつも通りすぎて、拍子抜けしてしまった。

 もしかして、リセットでも掛かったんじゃないだろうか。シュリの言うセーブが、どこまで有効なのかは分からないけど。そもそも、シュリに意識がない状態でセーブも何もあったものではないような気もするけれど。


 流れていく風がシュリの髪を揺らした。

 そこに、立っている。確かに、そこにいる。


「――……待っていたよ。戻って来てくれて、ありがとう」


 柔らかな声が届いて、思わず駆け寄ってしまった。

 中途半端に腕を広げたシュリの肩に触れようとして、やめた。

 その所為で、私も中途半端に両手を持ち上げた状態で固まってしまう。馬鹿みたいだ。


「待ってたのは私の方だよっ……あー、もう、……びっくりした。シュリ、ケガは? ひどいケガしてたのに……」


 直視は、出来なかったけれど。

 指先を切ってしまったような、軽い怪我ではなかったことくらいは分かる。

 背が震えてしまうほど、ぞっと恐ろしい感覚が全身に生じたくらいだ。

 だが、どこをどう見てもシュリに怪我などなかった。黙り込んでいるヒューノットは相変わらず何も言わないし、何というかフォローもない。お前が遅いからあんな事になったんだぞ、とか言ってやりたい。怖いから言わないけど。


「おや、待たせてしまっていたかな? それは悪かったね。どうやら、寝坊してしまったようだ」

「寝坊って……」


 そんな暢気な。

 不安と恐ろしさで子どもみたいに泣いてしまった私の時間を返して欲しい。

 呆気なく言い放つシュリは確かに普段通りだし、燃え上がった服も元に戻っている。突き刺さった破片もない。傷の痕跡もなくなっている。選択肢の前に戻った時のように、あの瞬間もなかったことになるのだろうか。必須イベントではないのなら、そういうものなのかもしれないけど。そのあたりが、ちょっとよく分からない。

 両手でシュリの両肩に触れる。恐々と、探るように触れたけど。痛がる様子も、多少の違和感もない。手にも何も感じない。細い肩だな、と思うくらいだ。いや、そりゃ、べっとり濡れたりしたら嫌だけど。何に、って。それはもう、言えないけど。


「まあ、それは些細な事さ」


 流された。

 めっちゃ流された。

 全く些細なことではないんだけど、いちいち食い下がるほど私も幼稚ではない。

 そーっと肩から手を離すと、シュリは口許を少しだけ緩めた。


「さて――そんな事よりも、君の功績を讃えなければならないね、ヤヨイ。あそこまで進んだのは、君が初めてだ。おかげで、プッペもルーフも無事さ。もしも不安なのなら、あとで確認してみるといい。私は、いつでも案内しよう。あのふたりが無事でいる事は、君の功績だよ。胸を張り、声高に誇って良い事さ。――さあ、君にはたくさん教えなければならない事が出来たね。ユーベル・フェアレーターについても、もう少しきちんと説明するとしよう。勿論、これからも君が我々に協力してくれるのならね。君が聞きたくないというのなら、私は口を閉ざそう。君が知りたいと言うのであれば、私は私の出来得る限りの説明をしよう。さあ、ヤヨイ。私達に手を貸してはくれないかい?」


 ユーベル・フェアレーター。あの女の人のことだ。

 何か説明を受けた気もするけど、正直ちっともそれどころではなくて頭に入らなかった。というか、あんな状況でよくも説明しようと思ったなっていう気さえする。

 シュリの斜め後ろに立っているヒューノットに視線を向けるけれど、喋らないどころかこっちを見ない。シュリばっかり眺めているような気がする。

 ヒューノットはシカトしよう。


「……ここまで来たら、手を貸すしかないよ」


 肩を竦めてしまった。

 諦めても良い気はするけど。そうやって背を向けて、これからずっと引っ掛かりを抱えたままで生きていける気がしない。

 こんなに関わって、ただのゲームでしたって終わらせられそうにない。まあ、それは、つまり、私の都合なんだけど。主にメンタルの。

 頷きを返すと、シュリは笑みを浮かべた。仮面の所為で見えているのは口許だけだ。でも、柔らかく笑っている気がした。


「ありがとう。それは助かるよ。我々は君の手助けがなければ、永遠を永久に繰り返す以外の手立てがないのだからね。――さて。話を整理する必要があるのかもしれないね。では、まずは君の疑問に答えるとしようか。私が答えられる質問なら、何でも答えよう。さあ、どうぞ」

「いや、どうぞって」


 そんな風に言われましても。なかなか困る。

 何せ、分からないことだらけだ。そもそも、ヒューノットはどこで何してたんだとか。ユーベルって何者なんだよとか。色々、聞きたいことはある。まとまらないけど。それに、ユーベルがシュリに言っていた言葉だって気になる。


「ええっと」


 でも、まあ。まずは。


「……ユーベルって女の人のこと、もっと知りたいんだけど、いいかな?」


 そこをつついてみることにした。

 振り返ると、ユーベルとシュリは浅からぬ関係にあったようにも思える。

 いや、別に確信とかはないんだけど、単なる勘だ。ふたりが妙に似ているように感じられたことも気になる。

 嫌がるかもしれないと思ったのに、シュリは予想外なほどにあっさりと小さく頷いた。


「勿論だよ。私が答えられる事なら、何でも答えよう。――ユーベル・フェアレーターは、この世界から見れば"害悪を背負う裏切り者"さ。終焉そのものであり、終わりを示す者でもある。空を飾る星たちが希望と願いの象徴だという事は話したね? そう。希望と願いを抱き締め、夢を叶えてくれる愛おしい光の子を空から奪い取り、あまつさえ大地に突き落としたのが彼女だよ。ユーベル・フェアレーターは、希望を世界から奪い去ってしまった。人々が願いを捧げ、祈りを向ける存在を隠してしまったのさ」

「星って、……星ってさ。ゲルブさんとか、ルーフさん、とか、……こう、おかしくしちゃうものだと思ってるんだけど」


 希望と願いの象徴が星だというのなら。

 元々が祈りの矛先だというのなら、あまりにも影響がひどい気がする。

 今のところ、私が見たのはふたりだけだし、違う影響の出方があるのかもしれないけど。

 ゲルブさんもルーフさんも、本来の性格を失って、いわばバケモノになっていたようなものだ。


「そうさ。空から引き離された星は既に元の姿を失って、今や恐ろしい形相を呈している。嘆きを抱えて悲しみに暮れる星達は、地上の子に助けを求めているとも言えるね。返して欲しいと叫ぶ空の声を、地上の子は聞き取る事が出来ない。悲しみに伏せる空へと戻りたがる星達は、自分達の存在を地上の子に巣食う事で主張しているのさ。彼らには、地上の子が聞き取れる声を出す事が出来ないからね。だが、無数に落ちてしまった星のすべてを回収する事など不可能だ。我々にとって最善の最短は、落ちる星をなくすこと――まあ、それは仮説さ。まだ、そこまで至ってはいないのだからね」

「……ううん。ええと、えっと、つまり、……?」


 つまり。

 ユーベルは悪者だ、という意味だろうか。何だか、それも違うような気がしている。

 単純にユーベルをどうにかすれば良い。とは、到底思えない。

 だけど、ユーベルがシュリを傷つけたことは確かだ。あの時のことを思えば、少なくとも私達とは敵対しているように思える。ああ、いや、どうなんだろう。私をそこに含めて良いのかは、分からないけど。


「ユーベル・フェアレーターはあらゆる終焉を呼び込み、この世界に別れを告げる存在だ。彼女は星の子を全て落として、この世界から希望も夢も、自由すらも失くそうとしている。もしそうなってしまったら、全てが崩壊してしまう。星の嘆きを、我々は思い知らされる事となる。そうなる前に――」

「待って待って」

「どうかしたのかな?」


 シュリの説明を軽く遮ると、その後ろに立つヒューノットが私を見て来た。

 ちょっとビビったけど、何とか言葉を放つ。


「えっとね、質問していい?」

「勿論さ。どうぞ」


 ヒューノットの眼光は鋭いけど、シュリは穏やかな調子で先を促してくれた。

 ていうか、後ろのお前は本当に怖いんだよ。何なんだよ。視線で射殺す気か。


「どうして、ユーベルはそんなことをするの?」


 ユーベルの目的が分からなかった。

 ただ単に世界を壊したいのだろうか。

 それなら、どうしてあの時、私にお礼なんて言ったのだろう。

 何もかも壊してしまいたいのなら、それが目的だというのなら、ルーフさんがおかしくなることなんて好都合ではないのか。

 私の質問にシュリはゆっくりと口を閉じた。それから、静かに細い息を吐き出していく。


「彼女の大切なものを、この世界が奪ってしまったからさ」


 返された言葉は短い。

 まるで、最低限の説明だけで済ませようとしているかのようだった。

 眉を寄せてしまうと、シュリは静かに肩を竦めた。


「……いずれ分かる事だよ。その時が来れば、きちんと説明しよう。すまないね」


 いつもは饒舌過ぎるほどのシュリが、そこまで言葉少なになってしまうと、こっちが不安になって来る。

 もしかして、答えられない質問の類だったのだろうか。それを、ギリギリのラインで答えてくれているのかもしれない。

 って。なんで私がそんなことをいちいち推測しないといけないのか、って話ではあるけど。

 謝って来るシュリがあまりにも申し訳なさそうで、こっちが謝りたい気分になって来た。


「……」


 それより、とにかくヒューノットが怖い。

 何であんなに睨みつけて来るのか。黙っているのに存在感が半端ではない。というか、威圧感がひどい。

 ぐいっと視線を逸らしたいけど、シュリから顔を背ける形になるのは忍びない。

 せめてヒューノットが、シュリからもっと離れてくれたらいいのに。


「ユーベルがシュリに言ってた、ナニモノにもなれないあなたって……どういう意味?」


 それにユーベルは、シュリについて外側だとも言っていた。

 何に対しての外側なのかが分からない以上は、その言葉の意図については判断がつかないけど。

 問い掛けた瞬間、ヒューノットがシュリの隣に出て来た。何かを言いたげに口を開いた彼を制したのは、他でもないシュリだ。腕で軽く制されて口を閉ざして後ろに引っ込むヒューノットは、まるで主人に忠実な犬のようにも見える。いや、私にとっては狂犬なんだけど。


「そのままの意味だよ。私は、シュリュッセル・フリューゲル。君の――傍観者の案内役で、サポート役。知る限りを答える事が出来るが、答えられない内容は口にする事も出来ない。私の中に秘めているものもある。暴くか否かは、傍観者の自由だ。私は君のような存在と、こちら側を繋ぎ合わせる為にいる。つまり立ち位置は、君と彼の間なんだよ」


 彼――と、示されたヒューノットはシュリの後ろに立っている。

 いつも、そうだ。覚えている限り、彼はシュリの斜め後ろが定位置のようになっている気がする。

 私とヒューノット、その間にシュリ。なるほど、この構図には意味があったのか。

 別に意図されたものだとは限らないけど、シュリが私達を繋ぐ存在であることは理解できた。


「わかるかい? 私は"君の"、案内役でサポート役だ。この世界における役割では、ない。君がいてこそ、初めて成立する。この世界を導く為の傍観者が来なければ、私は私の役割ひとつ全うする事すら出来ないのさ。私は誰かがこの世界に触れるまで、この場所で待ち続けるしかない。君が私の名を呼ぶまで、君がこの世界を開き始めるまで、私は君に触れる事すら出来ない。例えばエラーの訂正も、この世界の誰かが動かなければ、そもそもとしてエラーが発生する事すらない――この世界に、私の居場所はないのさ」


 淡々と。朗々と。

 いつもはそう。

 朗読でもするかのように、決まりきった台詞を繰り返すように、ありきたりな言葉をなぞるように、シュリは説明する。

 でも、今は違う。どこか、違うように感じられた。


 シュリは世界の外側。

 私の世界でもなければ、ヒューノットの世界にも入っていない。

 だから外側だ――と、ユーベルが言い放ったのだとすれば、何者にもなれはしないという言葉もそこに掛かっているのだろう。どうして、ユーベルがわざわざそんなことを言ったのか。それは、やっぱり謎のままだ。


「――しかし、ヤヨイ。君は逆なんだ」


 考え込みそうになったところで、シュリの声が意識に入って来た。

 落としていた視線を持ち上げる。

 そうすれば、仮面越しにじっと見つめられていた。


「君が落ちそうになったのは、引き裂かれた世界の一部だ。もしも落ちてしまったら、もう戻る事が出来ないかもしれない。私の手から離れてしまった後では、もう私の力は及ばないのだからね。だから、――気をつけて。君はもう、選択肢の向こう側に立ちつつあるのだから」


 さらりと怖いことを言われた気がする。

 つまり、何だ。あの時、もしあのまま落ちていたら、私は閉じ込められたとか、そういう感じなのだろうか。それとも、物理的なものではなくて、もっと違う意味なのか。どちらにしたって、怖い事には変わりがない。感謝した上で落とし穴攻撃だなんて、ユーベルもなかなかひどい。


「選択肢の向こう側っていうのは、どういう……」


 ユーベルは大概謎だけど、シュリの説明も割りとストレートに入って来ない。


「ユーベル・フェアレーターが言っていただろう? 君は選択肢を放棄した――とね。あれはあながち、的外れな不正解を口にしている訳ではなかったという事だよ。君は"提示された選択肢から選ばない"という選択肢を持っている。そこに気付いたのさ。そして、そうする事で変えようとするだけの明確な意志がある。君は、ヒューノットを選択肢から解放しようとしているのさ」


 してないです。

 とは言えないけど、そんな大層なことをしたつもりはなかった。

 そもそも、別の選択肢が出来るかもしれないというヒント自体が、シュリからもらったものだ。


 ――君は、君の思った通りに何でも出来る。


 シュリがそう言ったから、試そうと思いついた。

 そうでなければ、あの時――戦うか戦わないかの二択だったら、ヒューノットかゲルブさんのどちらかを失う結果しか出ていなかったように思える。それは、ルーフさんの時も同じだ。ひとりか、ふたりか。犠牲にする人数を選べだなんて、そんな残酷で無意味な選択肢なんて、あんまりだ。ヒューノットが怒ったのも無理はない。


「……ヒューノットを、選択肢から解放?」


 あれ。それってどういう意味なんだろうか。

 ヒューノットを見てみるけど、完全にシカトされた。何だこいつ。


「そうだよ。彼は、君の手足だ。そして、盾でもあり剣でもある。君を守る為の鎧にも成り得て、君の望みを叶える為の手段にも成り得る。そして同時に君は、彼にとって定めそのものだ。ヒューノットは、君に選択肢を委ねる存在であり、君に運命を託している存在でもある。――だが、そう。ここが変わって来たのさ。ヒューノットは、君に行動の選択肢すべてを譲らなくてもよくなって来ている。どうしてか。それは、君が一番よく分かっている筈さ。君は彼に、彼自身の気持ちで動くように求めているのではないかな?」


 どう、だろうか。それは。

 ルーフさんの件で怒っていたヒューノットを見た時は、確かに色々と考えた。

 ヒューノットは私が"選ばなかった"としても実行してくれる――そう思い出したのも、あの時だ。

 選択しないという選択をすることが出来ると、わざわざそんな言い方をしたのはシュリだった。


「……それじゃあ、別にヒューノットは私に従わなくてもいいってこと?」


 やばい。それはそれで怖い。

 何されるか分からないし、されないにしても、またどこかに行ってしまうなら放置も同然だ。

 放置される場所によっては、もはや死の宣告に等しい。


「それほどの自由を手に入れてはいないさ。言っただろう? 君は、ヒューノットを選択肢から解放しようとしている――そう、まだ途中なのさ。自由を手にする為には、代償が必要だ。その代償が何であるのかは、我々の知るところではないがね。君は確かにこの世界を変えつつある。だから、――正直なところ、君には期待しているよ。だが、辛くなったら、いつでも手を引いても良いんだ。私達が勝手に君へ期待を向けているように、君もまた自分の為に判断しても良いのさ」


 さらっとプレッシャーを掛けられた。

 でも、まだ強いられている感が薄いことは救いだった。

 これでガンガン無理強いして来るなら、ちょっともう無理ですってなるところだ。

 いや、強いられている気はするんだけどね。確かにプレッシャーでもあるんだけど。

 それでも、シュリは私が怖がって手を引いても責めて来ないような気がした。

 どうしてそう思うのか。全然根拠もないし、分からないけど。


「君は君が成し遂げた事の証明を目にするといい。そうすれば、君は結末の異変を知る事が出来るだろう。知る事は重要だよ。それも、自ら見聞きしたものは真偽が曖昧になりにくいからね。無知を知る事も重要だ。知らないという事を自覚すれば、やがて知る為の道を開く鍵になってくれるのだから」


 口許で微笑ったシュリは、ゆっくりと腕を持ち上げて私の向こう側を指で示した。

 肩越しに振り返ってみる。



 そこには、黄色に染まった大きな扉があった。

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