表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傍観者 < プレイヤー >  作者: YoShiKa
■ふたつめ 始動■

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/77

11.きゅうさいしょち

――シュリの素顔というのは少し気になる。











「――おめでとう、ヤヨイ。君の選択肢は、正しかったというわけだ。それが証明されたようで何よりだよ」





 元の草原へと戻った私たちを出迎えたのは、やっぱりシュリだった。

 相変わらずの仮面をつけた姿のままで、軽く両腕を広げて歓迎しているような調子でポーズを取っている。

 その胸に飛び込む勇気は、私には全くない。そして、ヒューノットにはそんなノリが存在しない。

 結果として、シュリは空回りになってしまったけれど、慣れているようだった。


「正しかったというか、何というか、だけどね……」

「いいや、正しかったのさ。彼が無事である事が何よりの証拠だ。違うかい?」


 そう言われて、何となくヒューノットを見た。

 彼は、もう既にこちらに興味などないらしく、シュリの隣に立っている。

 よく知らないけど、あそこが定位置というか。ポジションとして正しいのだろうか。

 チュートリアル後にロードした時も、そこにいた気がする。


「あー、あのさ、シュリ」

「セーブなら、もう完了しているよ。君は無事に彼らを救って、ここに戻って来たのだからね」


 あ、声を掛けなくてもいいんだ。

 というか、そんなオートセーブ式だなんて知らなかった。

 イベント戦闘後とかイベントムービー後とか、そういう扱いなのかもしれない。

 そんな大それたものではなかったような気がするけど、まあ、有り得ないことでもないかと思っておくことにした。

 名前を呼んだだけなのに、察しが良い。まあ、助かるんだけど。


「さあ、世界を閉じるかい? たくさん動いて疲れただろうから、ゆっくりと休んで戻っておいで」

「ロードすること前提なんだ……」

「勿論さ。君はきっと、前に進みたくなる。彼が終わってしまった時に、もう一度始めたがっていた時と同じさ。物事を中途半端に放り出す事を、君は心のどこかで嫌がっている筈だよ。手放す事の出来ない憂鬱は、解決させたい気持ちの表れさ。実のところ、解けない謎なら捨ててしまった方が早いのだからね。それでも傍らに佇む事をよしとしているのは、いつか紐解く日を待っているという事だろう?」


 相変わらず、何を言っているのかはわかりにくい。

 ただ、積みゲーがたっぷりあることがバレているような気がした。

 何もかも中途半端だ。私は飽き性だから。なのに、終わらせないといけない気になっている。それは、確かにある。

 どうしてなのか、理由なんてわからない。たぶん、気分の問題だ。

 シュリは口許に笑みを浮かべると、胸に手を当てて深い一礼をした。


「――――ゆっくりお休み、傍観者プレイヤー










 シュリの言葉が終わったあと、ひと瞬きの間に景色が変わっていた。

 目の前にあるのは、パソコンデスクとパソコンのモニター。

 後ろを振り返れば、カーテンを引いたままにしてある窓と何の変哲もない壁。

 戻って来たのだと思うには、あまり時間が経っていないように見えた。

 手元に視線を落としても、あの白い石はない。回収されたのだろうか。

 確かに現段階では、石があってもなくても、あまり変わらない気がする。

 汚れた靴は履いてなくて、素足だ。

 土ぼこりで汚れていた服は綺麗になっていて、砂っぽかった全身も元に戻っている。気がする。


 疲れただろうとシュリは言っていたけれど、感覚としては全然疲れていなかった。

 草原にいた時点では、確かにだいぶ疲労感があったんだけど。

 こちらに戻って来た、というかゲームが終わったらか。

 疲労感はなくなっている。


「…………」


 思うところは色々あったけど、ひとまずシャワーを浴びることにした。

 感覚的には汗をかいたし、汚れているような気がするし。どっちにしても、外出の予定はないけど。

 考えても結論が出ないのなら、考えるだけ無駄だ。

 習うより慣れろ、朱に交わっては赤くなれと言うし、ようするにそういうことなんだ。

 先人はいいことを言うなぁ、と適当に考えながら、ざっとシャワーを浴びた。

 髪を洗う間も身体を洗う間も、何となく気になって扉を見るけど、別にすりガラス越しに人が立っているとか、そういうホラーなことはなかった。

 浴室から出ると、外は夕方ではなくて夜になっていた。丸一日経ったわけじゃなかろうなと思って、スマホを覗き込んでみたけど、日付は変わっていない。

 同じ時間にゲームをして、終わっても同じ時間に戻って来ている。本当にわからない。

 わからないというのなら、最初から色々とわからないんだけど。

 髪を乾かしてお茶を飲んで、お湯を沸かしている間にカップラーメンを用意する。沸騰したお湯を注いで三分を数える間に、デスクの前に戻って来た。当然、ラーメンも連れて来た。


「ううぅん……」


 シュリの名前を呼べば、例えそれが正しく呼べていなかったとしてもロードになる。らしい。

 つまり、呼ぶというか考えていれば繋がるという感じなのだろうか。

 沈黙したままのモニターを眺めていたところで、確かにどうしようもない。

 椅子に腰掛けてスマホで検索してみた。

 攻略サイトは確かにある。バッドエンドの紹介コーナーを覗きに行けば、色んなパターンがあるようだった。

 その中にあった"フェルト街"の文字に、びくっとしてしまう。同じゲームをやっている訳だから、同じ場所に辿り着いたとしても不思議ではない。

 戦わない選択肢の果て、ヒューノットがあんなことになって、つまりあれがバッドエンドなのだろう。確かにヒューノットが主人公だとすれば、あれがバッドエンドで間違いない。思い出したくもなかった。


「……あれ?」


 待てよ。だとしたら、他の人の時には、シュリが声を掛けていないのか?

 そんな、対応が分かれるようなパターンがあるのだろうか。

 さすがにバッドエンドの中身を読むだけの度胸はなくて、すぐにメニューを開いて次のコーナーに移った。

 "主な登場人物"の欄には、ヒューノット、そしてシュリュッセルという名前が載っている。ただ、それ以外の名前はなかった。グラオさんやゲルブさんは、モブ扱いなのかもしれない。

 確かに、ボス戦という感じでもなかった。

 選択肢を選ぶだけなのだから、攻略も何もあったものではない。戦闘画面になられても、真剣に困ってしまうけれど。

 それにしても、シュリの名前って音だけ聞いても難しかったけど、文字にしても面倒臭い感じだ。

 これが正解なのかどうかも、ちょっと自信がない。ヒューノットの紹介は、『主人公。男。特に喋らない』としか書かれてなくて、ちょっと笑ってしまった。いやいや、割と喋るし口も悪いよ。と言いたい。

 そして、シュリの紹介には『案内人。スタート画面の人。一部プレイヤーの情報によると、仮面を外せる隠しイベントがあるらしい』と書かれている。

 雑。情報が雑。所詮はクソゲーだから情報提供者が少ないのか、面倒臭いのか。

 わざと隠しているのか。ただ、この情報が正しいなら、シュリの素顔というのは少し気になる。


「いや、いやいや」


 そうは言っても、そんな隠しイベントは薮蛇になる可能性もある気がした。

 溜息をついて、画面を上から下まで適当に眺めてみる。

 しかし、バッドエンドを経験したあと、救済処置のようなことが起きたという話は見られない。

 おかしいな。他のプレイヤーが選択したとき、シュリは何をしていたんだろう。

 いつの間にか真剣に読み込んでいたけれど、目が疲れてきて諦めた。

 カップラーメンを見ると、とっくに出来上がっていて汁っ気がなくなりつつある。うわ、最悪。

 慌てて箸を突き入れて食べてみたけれど、まあ、うん、ギリギリ許容範囲かな、という感じ。

 デスクの上にカップラーメンを置いて、片手で食べながら片手でスマホを弄る。

 行儀が悪いけれど、誰も見ていないのだからいいだろという気持ちと、皆も家ではこんなものだろという気がした。まあ、うん。言い訳だ。


 それからしばらく、攻略サイト内や掲示板を覗いてみたけれど、シュリの動きはさっぱりわからなかった。それとも、大抵の人はバッドエンドで諦めてしまったのだろうか。

 いやいや、中にはガチ勢みたいな、絶対にクリアしてやるみたいな、そんな人だっているはずだ。そう思って、色々と検索を掛けてみた。

 それでも、やっぱり特にこれといって、それらしい話は出て来ない。

 こうなったら、シュリ本人に聞いた方が早い。

 自分で書き込みする戦法は、結構メンタルに来るというのが前に判明したし。匿名掲示板じゃなかったら、あの白い石について書き込んでくれた人を追いかけるんだけど。

 まあ、うん。無理。ネットの海は、私には広すぎた。

 しっかりとスープまで飲み干して食べ終わったカップラーメンの容器をゴミ箱に落としてから、何ともなしにパソコンを立ち上げてみる。

 漂うラーメンの香りは、あとで換気するとして。モニターを眺めていると、まさかのブルースクリーン。


「…………」


 嘘だろおい、と言いたい気分のまま、電源ボタンを押して強制的に落としてやった。いや。いやいや。そんな馬鹿な。

 でも、確実におかしくなっていたっぽい。最悪だ。

 ひとまず立ち上がって、箸を片手にキッチンへと向かう。適当に洗って拭いて、箸立てに放り込んだ。

 一人分しかないのに、どうして箸立てなんか買ったんだっけ。

 ああ、たぶん、ノリだったと思う。たぶん。


 何か、色々と萎えた。

 お腹も満たされたし、シャワーも浴びたことだし、もう寝よう。そうしよう。


 水を飲んでベッドに向かったけれど、何となく気になってパソコンを見た。

 見たところで、私にはそういう技術はないし、バックアップとかそんな頻繁に取ってない。

 諦めてベッドに寝転がると、一気に疲労感が押し寄せた。

 握ったままのスマホを見る元気さえなくて、あっという間に夢の中へと引きずり込まれていく。






 デスク上に白い石が転がっているように見えたのは、気にしないことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ