閑話
『十グループのビル群を狙った無差別テロ事件ですが、崩落当時の——』
「くだらないもん見てんなよ」
そう言って、戸破さんはテレビの電源を消した。
その日は、家に僕と戸破さんしか居なかった。
「これ……僕がやったんですよね?」
画面は消えているが、流されている映像は、この数日散々見たお蔭ではっきりと目に焼き付いている。
都心に連なる、十グループのビル。特に密集した駅近くの十棟が、崩れ去った。
大勢の死者を出した事件は、世間では無差別テロだと騒がれているが、その実、原因は僕一人だ。
「ああ、お前がやった。たかが十三のガキが、これをやってのけた」
僕の記憶にない、僕の凶行。僕は、家族を含めた多くの命を奪った。
大好きだった祖父の遺した一切合財を、消し去った。
「僕は……僕はただ……やめて欲しかっただけなんです」
祖父が亡くなると、祖父を囲って楽しそうにしていた親族達は豹変した。祖父の一切合財を取り合って、いがみ合って、ばらばらにして、奪って、騙して。
それは僕の父と母も例外ではなく、僕はそれを見ているのが辛かった。大好きな祖父と笑い合っていた頃に戻りたかった。
「はは、そりゃ無理な話だ。ガキのお前には分からんだろうが、十グループったあ戦後の財閥解体を経て尚強くこの国に在り続けた剛腕だ。その跡目争いとなりゃあ、人の命も路傍の石ころに並ぶ。まあ、その家に生まれた恩恵も散々受けたろ?」
「そんなもの受けた覚えがない」
「覚えがないだけだ。お前が小便漏らしてる頃に貰った誕生日プレゼントの代金で内蔵を売る奴だって居る。お前はこの国で考え得る最高の暮らしを知らずにしていたんだ。その揺り戻しだと思えばいい。まあ、最悪中の最悪だけどな」
僕は争いを止めて欲しかった。祖父の前で、祖父の事を忘れて欲しくなかった。でも、僕は弱くて、子供で、だからなにも出来なかった。
そんな僕が嫌だった。弱い僕が、堪らなく嫌だった。
「十一片、お前がなにを願ってなにが叶ったかは分からねえ。だが、《《願いは叶った》》。形はどうあれ、叶った。お前の様な血統を持たない人間が能力を発現させたのは、果たしてお前の願いが世界を呑み込む程だったか、はたまたなにかの奇跡か。兎に角だ、奇跡中の奇跡が最悪中の最悪に顕現したのがお前だ。お前は《《なにもかもを壊す》》力を持っている」
戸破さんは、悲しそうな顔で、そう言った。
「お前の全てを壊した結果が先か、過程が先か。どうあれ、お前の願いが叶ったのだからそういう力がある。そう成ってしまった。お前は成り果ててしまった。お前は、なにもかもを壊す。俺を含めた《《日本屈指》》を六人も借り出して、やっと止まるレベル。最早神域だ。お前は、多分神様だって壊せるぜ」
ただ、その話に興味はなかった。もう、僕には、関係のない事だ。
「そうですか……」
「そうですかってお前……自分がやってるの異質さを分かってねえなあ……はあ……なんだってうちには《《そういうレベル》》が集まるんだ? ったく、これだからガキは嫌なんだ。おら、行くぞ!」
そんな僕の腕を掴んで、戸破さんは立ち上がった。
「ちょ……何処行くんですか!?」
「何処って、覚えさせんだよ。お前のその力、コントロール出来れば間違いなく最強だ。最大解放がダントツで凶悪だが、自失しちまうのはどうしようもねえ。それなら、力の小出しを覚えるしかねえ」
「ちょっと待って下さい!」
僕は戸破さんの手を振り払う。
「僕は、別に力を使いたい訳じゃありません! もう要らない。こんな力、どうだっていい! もう——」
「でも、お前は救われたろ?」
振り払って喚く僕に、戸破さんは言った。
「え……? 救われたって」
「結果はどうあれ、お前は救われたんだ。最悪の形だが、お前は救われた。つまり、お前の力は、誰かを救えるって事だ。最悪のお前を救う事が出来たんだから、誰かの最悪だって救ってやれる」
「救われたって……救われただなんて、どの口で言うんだ!? 皆死んだんだぞ!?」
「じゃあお前はあの頃の方が幸せか?」
戸破さんの言葉に、息詰まる。
あの頃とは、この能力を発現する前。家族が争っていた、あの頃。あの光景。
確かに、あの頃胸にあった痛みは、消えている。けれど、僕の周りには、誰も居なくなった。祖父は帰って来ないし、祖父の大事にしていたものは消え失せた。
「この世界は《《そういうモン》》だ。最悪だからこそ奇跡は顕現する。大体はそういうくそったれな悲劇なんだよ。その中で、お前は最悪な不幸で最悪に願いが叶った。けれど、それはムカつく事に自分を救っちまってる。そういうモンなんだ。この世界は」
振り払った僕の手を再度引いて、戸破さん行く。
「全てを壊した結果から逆行して、お前は《《全てを壊す》》力を手に入れた。信じられない程凶悪な力で、最大解放するとお前は自我を失う。このままじゃ神話の災害と相違がねえ。幸い、お前は凶悪じゃない。なら、自我を保ってそれを行使する。そうすりゃ、お前は敵なしだ」
「なんですかそれ! 訳が分かりません!」
「いいかー? 神様と闘う時、誰かを守る時に仕方なく、後、お前がもうどうしようもなくムカついた時以外は、能力使うなよ? 力尽きるまで止まらねえんだから。お前に敵う奴はこの世に居ねえが、使っちまったら神話の大災害。だから、使うなよ?」
「だから、使わないって言ってるでしょ!!」
「能力名は……そうだなあ……全壊衝動……それにしよう!! いやー、いいセンスだ俺」
「絶望的なセンスですよ! なんですかそのダサい名前!」
「昔のプロレスラーだ。かっけえだろ?」
「ダサいって言ってるでしょ!!」
戸破さんは、僕の言い分なんて一つも聞かずに、そのまま手を引いて行った。




