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ファントムレイジ  作者: 高坂はしやん
深夜一時の奇奇怪怪
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深夜一時の奇奇怪怪⑪

「ただいま!」


 タクシーで家の前の雑木林手前まで入って貰い、そこから全速力で走った。玄関を開けて靴を脱ぎ捨て、和室の戸を開ける。


「お邪魔してます」


 来客用の座布団の上に座った真田先輩が、こちらを向いて言った。


「はあ、はあ……いらっしゃい……ませ」


 私は動転したまま言って、対面に座った。


「あの……一体どういうご用件で?」


「いや、東雲に会いに来たんだけど、居ないって言うから、それじゃあ、逆廻だ、と思って。お前等、同じ家に住んでるんだな。事情は弟から聞いたよ」


 桜ちゃんは人見知りだ。多分、真田先輩が家に来てからずっと部屋に籠っている筈だ。深くんはそう言う点大人びている。全ての対応は深くんがしてくれたのだろう。


「鎖子ちゃんにって……真田先輩、鎖子ちゃんと面識は?」


「あるよ。一度部室に来て話した」


「え!?」


 聞いていない。それは、真田先輩からも、鎖子ちゃんからも。

 以前に真田先輩が鎖子ちゃんの名前を出した時は、てっきり椎田先生経由かと勘違いした。


「なんで、鎖子ちゃんが?」


「逆廻と同じだったよ。深夜一時の化け物について知りたいって言うから、逆廻にした話と同じ話をした。俺が話した後も、ずっと本を読んでた。豪く熱心な奴だと思った。とても、オカルトなんかに興味がなさそうな眼をしていた癖に。まだ逆廻の方がその点は興味がありそうな顔してたな」


 鎖子ちゃんは、そういうものに興味がない。知っているから、興味がない。

 本物だけを、鎖子ちゃんと同じ様なモノだけを、信じている。


「それで、鎖子ちゃんは?」


「さあ。本を読んで丁寧に本棚に仕舞って帰ってったよ。それっきりだ」


「それで、どうして鎖子ちゃんに会いに?」


「人が来る訳がないオカルト研究部に東雲が来てすぐ、逆廻が来た。それで、同じ様な事を聞いて来て、同じ様な事を話した。二人共、やたら理解が早い。逆廻は兄さんからの受け売りだと言った。それで椎田に聞いてみたら、二人は同じ家に住んでるって言うじゃないか。俄然、興味が出た。《《俺達》》程オカルトに興味がなくとも、どうも俺達に近い考え方をしている。それで、今日はここに来た」


 私は、テーブルの下でスマートフォンを操作する。深くんに、連絡をする。


「お兄さんはもう家を出ているんだってな。先日まで仕事で滞在していたらしいが……もう少し早く出会いたかったよ」


「そうですか……真田先輩、本当にオカルトが好きなんですね」


「ああ、好きだよ。よく分かんないから。まあ、あれだな。境井さかいい先生の影響だな」


「その……顧問だったっていう?」


「そうそう。境井先生の話って面白くてさ——」


「雪村先輩の影響は、ないんですか?」


 スマートフォンで、深くんに、部屋の外に待機していて欲しいと連絡をした。

 私は、戦闘経験がない。なんの力も持たない。だから、こういう場合、どういう空気になるのか、なにも知らない。

 もしも今がそうだというのなら、意外にもそれはあっけないんだな、と思った。突然に、日常を侵食するものなんだな、と思った。

 私の言葉に真田先輩は一瞬目を見開いてから、口を開く。


「なんで……逆廻が雪村の事知ってんだ?」


「椎田先生から聞きました。それに、東城では部は二人以上居ないといけないきまりですから……真田先輩が使っていない椅子、その、境井先生のものだと思っていました。ただ、三月で居なくなったにしては、椅子は綺麗でした。最近まで、使われていたんですよね?」


「……境井先生、腰が曲がるとか言って、絶対椅子に座ろうとしねえの。不思議だったなあ。そこだけは、なんか頑固爺って感じだった」


「誤魔化さないで下さい。どうして雪村先輩の事を話してくれなかったんですか?」


「どうしてって、あいつ最近部活来てねえから。それに、話す必要ないだろ」


「話さない理由は、掃除ロッカーの中の物と関係がありますか?」


 私の言葉に、真田先輩の顔から表情が消えた。


 時間が、止まる。

 やけに、冷静だ。私らしくない、こんなに乱暴に言葉を吐いて。

 それなのに、やけに、鼓動が大人しい。


「中、見たのか?」


「すみません……今日、部室に行きました」


「どうして掃除ロッカーに?」


「本に躓いてしまって、カップを割ってしまいました。すみません……弁償します」


「それで、掃除しようとして、か」


「はい」


 真田先輩は渋い表情のまま頭を抱える。

 私の見立てが正しいのならば——


 背後、廊下に人の気配。多分、深くんだ。もし万が一があっても、桜ちゃんが居る。


 ああ、きっと、鎖子ちゃんには怒られるだろうな。こんな事をして、きっと、沢山怒られる。

 私がそう覚悟を決めて、真田先輩を見据える。顔を上げた真田先輩も、私と同じ様な表情をしていた。


「雪村は……純はオカルトを本気で信じてた。ツチノコは何処かの湖に居ると信じていたし、エリア51にUFOがあると信じてた。本気で楽しそうに話すもんだから、俺は純の話が好きだった……俺は《《楽しみを失ったから》》、楽しそうにする純を見てるのが好きだった」

 

 覚悟を決めている癖に、危うい。

 真田先輩の印象は、その見た目もあって精悍だ。決して弱い部分を一見では感じない、強かな雰囲気。

 だから、今のその危うい、淡い空気が余計に目立った。


「境井先生も同じタイプで、だから二人は意気投合したんだと思う。なあ、逆廻。お前や、東雲も同じじゃないか? お前等、俺の話聞く時に、馬鹿にしないだろ。東雲なんて、丸で信じてない様子で話す癖に、俺の事を好奇の目で見ねえんだよ。真剣に話を聞くんだよ。逆廻もそれは同じで、だから俺は今日ここに来た。《《オカルトの話をしに来た》》」


 多分、この人も、優しい人なんだと思う。

 だから、空振る。


「逆廻、もし……もしも信じてくれるなら。お前が、もしも……本当に、突拍子もない話だけれど……もしも信じてくれるのなら」




 私の思惑は、またも空振る。




「純を助けてやってくれ……」

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