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王様のしごと

作者: 古井理える

あるところに小国がありました。

かつてその小国は、『戦神』と呼ばれた男と、その仲間たちによって作られた、独立と自由の国でした。

しかし二代目に代わるころには既にその国の勢いは途絶え、三代目、つまり今代の国王に至っては武力に頼ることもなく、宰相の手腕でどうにか国を存続させていました。


あるところに小国と、臆病な王様がいました。

かつての王家の面影は消え、今代の王様には力がなく、気弱で、ついでにメタボリック症候群でした。

王は自室で童話を読むのが好きでした。

王は衰退の一途をたどる自国の現状をふしぎに感じていました。

なぜ、童話のように人々は優しく、支えあって生きていくことができないのだろうかと思いました。


あるところに小国と、苦労性の宰相がいました。

かつての王を支えた類稀なる知恵は、無能な王様を支える為、もはや人知を超えていました。

宰相はこの国が好きでした。

宰相はこの国の行方に絶望しながらも、ひたむきに働き続けましたが、どうにもならず、過労で倒れました。

倒れた要因は胃潰瘍でしたが、そのまま脳梗塞でかえらぬ人となりました。


あるところに小国と、それを囲む3つの隣国がありました。

かつての小国に蹂躙されていた隣国たちは、宰相の没落を喜びました。

隣国たちは小国をいじめました。

隣国たちは今までのうっぷんを晴らす以上に、際限なく小国の資金と資源を奪い取りました。


あるところに小国と、愛情深いお妃さまがいました。

かつて王様がこなしていた微々たる仕事は、既にお妃さまが担っていました。

お妃さまは、自室から出てこない王様に悩んでいました。

お妃さまは、王様が誰よりも優しく、そして王様自身にも優しいことを知っていました。

その優しさの行き先を考えて、お妃さまは文官や武官と話し合いました。


あるところに小国と、とても物覚えの良い文官がいました。

かつて宰相がこなしていた仕事はすべて文官が覚えていました。

文官は、この国はどうなってしまうのか心配でした。

文官は、お妃さまと話をしましたが、小国を救う手立ては思いつきませんでした。

とりあえずお妃さまのお達しの通り、資金を流出させ時間を稼ぎました。


あるところに小国と、とても力の強い武官がいました。

かつての戦略を思いつく者はおらず、敗戦を重ねていました。

武官は、この国がどうなってしまうのか心配でした。

武官は、お妃さまと話をしましたが、内容がよくわかりませんでした。

とりあえずお妃さまのお達しの通り、部屋の扉を開けて王様を連れ出しました。


あるところに小国と、ただの国民がいました。

かつての栄光は見る影もない小国に、鬱屈とした感情が溜まっていました。

国民は隣国の犠牲になりました。

国民は虐げられ、戦火で土地を奪われ、悪夢のような日々が続きました。

過去の栄光を信じた年配者を尻目に、若者は小国を捨てて隣国へ亡命していきました。



ある部屋に、王様と、お妃さまと、文官と、武官がいました。

王様は玉座で童話を読んでいました。

お妃さまは聞きました。「童話は、面白いですか」

「うむ。現実よりよほど面白い」

文官は気になって、つい口に出してしまいました。「陛下、その童話は実話です」

「そんな馬鹿なことがあるか。王は裸になどならない」

武官は気になって、つい口に出してしまいました。「陛下、筋肉は鎧に勝ります」

「それはおまえだけだろう」

お妃さまは嘘をつきました。

「いえ、王の血筋は皆そうです。その童話は、初代様のお話です」



王様はひどく衝撃を受け、絵本を落としてしまいました。

ついに王様は、童話をその手から離したのです。



文官は、ここぞとばかりに国の窮状を三日三晩にわたって丁寧に説明しました。

王様は隈の浮いた目で、泣き言をこぼしました。

「我は何もできない。童話のような勇気はない。文官のような知識も武官のような力もない」


お妃さまは笑っていいました。

「それらは全て、王のものです」


王様はきょとんとして、笑いました。

最近、童話しか読んでいなかったから、自分が王様であったことを、忘れていたのです。




あるところに小国があります。

小国は宰相の没後、隣国たちに蹂躙され、滅亡の一途をたどっていました。


しかし小国は、隣国の油断した後背を付き、息を吹き返しました。

その手腕を見て隣国たちはかつての宰相が蘇ったのだと震え、攻めの手を控えるようになりました。


王様は文官から噂を聞き、笑いました。

かつての宰相は、どうやら王国を乗っ取った重罪人であったらしいと、笑いました。


その手に童話はありません。

ちゃんと、部屋にしまってあるのです。




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