旦那な私と天然な彼女
短編小説『隠居な私と主人な旦那様』の続編で旦那様目線です。
相変わらず人界のテレビをよく見てるな。
婚約者のウルヒフェルシアがかぶりつきで液晶画面をのぞきながらえいえいおーとバンザイしている。
「いい加減にしろ」
ベッドの上からムスッとしてしっぽを伸ばした。
「運動しないと動けなくなっちゃうよ」
巻き込んだウルヒが困った顔をした。
その顔反則だ可愛すぎる。
「運動させてやる」
「それは困ったねぇ」
「何が困るんだ?」
私はウルヒを引き寄せた。
「当主様の奥様と今日一緒に楽しい盆栽鑑賞をする予定なんですよねぇ」
嬉しそうにウルヒが笑った。
「……母上と盆栽? 」
「その前にウェディングドレス決めないとだけどねぇ」
ウルヒががっくり首を落とした。
どっちかというとウェディングドレスがメインか。
さすが母上だな、抜け目ない。
ウルヒフェルシア・白・オーグは白武門分家イルの最も近い分家だ。
そして白本家に近いので小さい時からよく会ってた。
本当に可愛くて天然でもう昔から自分のものにすると決めていた。
『らいのえりしゃま〜みじゅでっぽーにゃの〜』
無邪気で可愛いウルヒ。
武門の分家だけあって今こそ身長が高くて……引きこもらせてるせいで華奢だけど昔も子供の割におっきかったな。
『ウルヒ〜』
思わず抱きついてみじゅでっぽーとやらに直撃してにまにましていたら兄上に君は被虐的性癖なのかいと言われたのはいい思い出だな。
そのウルヒが成長して魔界白地方軍にはいるといった時……確実にいつか大怪我すると思った。
ちなみにウルヒは武人の家系なのに戦闘センスがない……武門本家のダメ軍人丸龍エリカスーシャより体力は昔はあったはずだが、戦闘センスと戦略で負けまくっていた。
あいつの両親も幼なじみもいつか大怪我すると覚悟していたそうだ。
『ドジって皆に迷惑かけるなよ』
『ライノエリ様を守るために入ったのにひどいよぉ』
白地方軍の白い上級士官の軍服を着たウルヒが着任の挨拶に来た時思わず言ったらすねられた。
でもすらっとした身体にピッチリとした軍服がよく似合っていて形だけなら立派な女戦士だったな……
まあ、ウルヒの両親とは怪我がないあたりで退役させて嫁に取ると裏取引していたんだが。
ともかく……嫁は……正妻はウルヒフェルシア以外いらないと家族にも家臣にも宣言していて知らないのは本人ばかりだった。
それなのに……あの男……
「旦那様、そろそろ離してくれないかねぇ」
のんきなウルヒの声に意識が現実に戻った。
愛しい龍は困った顔でしっぽ巻き付かれていた。
「軽く運動するか? 」
「体力を温存しないと生きていけない気がするねぇ」
がっくりと顎をおとしてウルヒが私のしっぽにしがみついた。
「……食事にしよう」
起き上がってウルヒを抱きあげた。
確かに母上と衣装選びは体力消費がはげしいだろう。
食事でもさせておかないとな。
ウルヒを抱きあげたまま続きの間へ出た。
侍女長に命じて食事を準備させる。
「みゅーん、納豆下さい」
「ご飯をお代わり」
ウルヒはコメの時は食いがいいので3日に一度はコメにしている。
私はパンのほうが好きだが。
「うまいか?」
膝の上に乗せたウルヒの頬のご飯粒をなめ取って聞いた。
「美味しいです」
満面の笑みを浮かべてウルヒが答えた。
ああ、このままベッドに引きずり込みたい。
「旦那様、お迎えでございます」
「おはようございます」
.ミノラの奴が顔を出した。
白家文部分家のミノラは美女なフリしたワーカホリックだ。
「ライノエリ様、おはようございます」
「もう少し待て」
私は漬物をウルヒの口に放り込んだ。
丁寧にお辞儀したミノラの目キラリと光った。
「仕事が山ほど待っております」
「ま、待て」
ミノラのしっぽが私に巻き付きいつも通り引っ張られた。
「いってらっしゃい旦那様」
私の腕から転がり落ちたウルヒが腰をさすりながら手を振った。
「ウルヒさん、こんどお茶しましょうね」
私をしっぽで巻き込んだままミノラが笑って手を振った。
楽しみにしてますねぇとウルヒが手を更に振った。
なんだかんだとミノラとウルヒは仲が良い。
その分、ミノラが私にきついのはウルヒを囲って自由を奪ってる私へのあてつけがあるのかもしれないな。
だが……ウルヒは本来の魔力も体力も失っている……綺麗だった龍珠もひび割れ濁り、生命力も私と隷属契約していなければ……
あの男……あの男のせいで……
大罪人オストロフィスのせいでウルヒフェルシアは……
たいして昔の話ではない。
魔界軍から白地方軍に協力要請が来た。
すなわち魔王陛下に逆らう反乱者の一団が白地方の断崖絶壁の山に逃げ込んだと、もちろん白地方軍の軍人だったウルヒは軍の編成に組み込まれた。
初陣だったな。
こんな地方に反乱や揉め事もないしな。
白家の龍や竜人たちは武人も多くて精鋭クラスは魔王都の魔界軍や魔王軍、護衛官として詰めていたからな、白地方軍はその絞りかす……でも普通の地方軍よりは強力な軍だった。
魔界軍や護衛官にはいったアウスレーゼとムーラシア兄妹やティインシスや弱いが頭の良い丸龍軍師のエリカスーシャが白地方に戻って戦っていれば……少しは被害が違ったかもしれない。
「少し検討せねばならん」
「そうですね」
ミノラが反応して書類をどんと置いた。
「なんだ? 」
「今年の予算編成です」
「……事務官を呼べ」
「そこからあがってきました検討して可否をお願い致します」
ミノラが容赦なく答えた。
この鬼畜め……早く仕事を終わらせてウルヒを腕に抱きたいのに……
「そうだ、旦那様がお探しの大罪人オストロフェスの情報を終わったら開示いたしますわ」
ミノラがにっこりわらった。
くっ私のことを影で操る悪女め。
あの地に潜ったか天に登ったかわからない雷獣男の情報をよく集めたな。
終わらなければ教えませんよとせせわらうミノラを睨みつけて書類の攻略を開始した。
ああ、はやくウルヒに癒やされたい。
帰ると母上がまだいた。
アルケニー族の仕立て屋もまだいて色とりどりの布見本があふれていた。
「こちらの色も合いそうね」
「お嬢様は白いウロコでございますのでこちらもよろしいかと」
「み、みゅーん」
グイグイ押し付ける母上にニコニコ商品をすすめる仕立屋を前にウルヒは困った声を出した。
すまん当代当主の母上に私は勝てん。
「ライノエリおかえりなさい、ねぇ夜着はこの紅い布なんてどうかしら? 」
母上がすけてる紅い生地をウルヒに当てた。
白いウロコが紅い生地にすけて扇情的だ。
「良いですね」
「みゅーん、恥ずかしいです」
私とウルヒは同時に答えた。
「ウルヒちゃん、このくらいたいしたことないわ」
「こちらの桃色のものもいかがでしょう? 」
「いいなそれももらおう」
薄桃色の布に透ける白いウロコ……なんて色っぽい。
みゅーんみゅーんとまるでセミみたいな鳴き声を上げてウルヒが真っ赤になった。
私はあまりの可愛さにウルヒを抱きあげた。
「ライノエリはヘルスチアとちがって本当に昔からウルヒちゃんね」
仕立屋にあとは頼みましたわと手を振ってかえらせて母上がお茶をのんだ。
ヘルスチアは淫魔の紅家の血せいでなかなかお嫁さん決まらないのかしらねとつづけてつぶやいて小首を傾げた。
正夫のヘーリセント父上は淫魔の紅家だったな、確かに色っぽいが母上以外とイチャイチャしてるところを見たことがないぞ。
下級人型魔族のライセ父上が私の父親だが一緒にヘーリセント父上に閨に引きずり込まれる姿とか母上含めて可愛がられてる姿しか見たことないから夫婦とはああいうものだとおもっているんだが……
もちろん私にも差別なく息子扱いだしな。
「ウルヒ以外に誰が必要だとでも? 」
ウルヒを膝に乗せて私はソファーに座った。
みゅーん一人で大丈夫なんだけどねぇとウルヒがぼやいた。
「ヘルスチアもそういう相手がいるといいのよね」
「エリカスーシャがいるではありませんか」
従兄妹のエリカスーシャは魔界軍で軍師をしている丸々しい女龍ではっきりいって弱いがヘルスチア兄上と仲が良い。
「あの娘は恋人ができたのよ」
母上がため息をついた。
丸龍のエリカスーシャに恋人……物好きな。
やせれば麗しくも凛々しいイル家の容貌を受け継いているようだが……私はウルヒ一筋だしな。
「エリカスーシャちゃんに恋人……私も歳をとったねぇ」
何故かテレビを見ながらウルヒが遠い目をした。
なんでテレビ……おい夕方の淑女のお時間が見られないねぇって今呟いたな? このテレビ龍め。
「あら、人界好きなら今度人界の百貨店で結婚式の引き出物選びましょう? 」
「いいですねぇ……ハッピー高谷で盆栽もみたいです」
母上とウルヒがニッコリした。
お互い行きたいところが違ってるような気がするが……母上はASIKOSIみたいな高級百貨店、ウルヒは巨大ホームセンター……
ウルヒは一応白分家オーグの令嬢だったはずだがしかも一人娘……蝶と花はどこ行ったぁ〜。
「人界に行くなら私も参ります」
ウルヒを放し飼いは少し怖い。
いつ倒れるかわからないしな。
「あら、あなたは忙しいのではなくて? 」
母上がニッコリわらって小首を傾げた。
「予算編成は終わりました」
「違うわ、有益情報が入ったのでしょう? 」
どこか企んでるような笑みを浮かべて母上が答えた。
なるほど、大罪人オストロフィスの情報は母上もつかんだか……
「そうですね、でも人界に行く必要もあるのですよ」
「あらあらそうなの? 」
母上が楽しそうにウェディングドレスのカタログに目をやった。
大罪人オストロフィスの下僕が人界で翠家の血を引く姫君の周りをウロウロしている。
報告書にはそうに書いてあった。
つまり、手っ取り早く力を取り込むためには上級人型魔族と神樹の民の血を引くかの姫君が最適というわけか……
まあ、かの姫君には吸血鬼の黒家の当主がつばつけてるから手を出した瞬間に干からびるだろうが……
「旦那様と人界デート楽しみだねぇ、ロコモ予防わくわく体操を予約しておかないとだねぇ」
嬉しそうにウルヒがリモコンを手に持った。
最近の人界のテレビはどうかしてないだろうか?
健康体操いくつあるんだ?
まあ、ウルヒが喜んでいるからいいが……人族とはそんなに健康になりたいものなのだろうか?
あら、体操色々あるのねという母上とこれが一番おすすめですといつものえいえいおー体操(仮称)をかけてるウルヒをみて魔界も健康ブームなのかとガクッとなった。
ま、まあ良いとりあえず大罪人オストロフィスだ。
あやつは私の大事なウルヒフェルシアを傷つけたばかりか最後に逃げる時に言い放ったらしい。
その玩具気に入った滅してなければ迎えに来ると嘲笑ってカミナリであたりをなぎ倒して行ったそうだ。
ウルヒフェルシアの身体の噛み跡には所有権を主張するごとくだった。
すべて消したがな。
あやつは魔王さまを狙う実力の持ち主だからな。
慎重にいかねば……
人界は相変わらずごちゃごちゃしていた。
城でもないのに高い建物に人混みに魔界連絡会、略して魔連の建物を出た瞬間後悔した。
ここは地方都市だから少ないですよと犬獣人魔族の役人たちが言ってたが……よっぽど土地がないんだな。
魔力をつかってウルヒも私も鱗としっぽを消し人族の格好をしている。
ピンクのワンピースのウルヒは今日も可憐だった。
外見上は……
「健康プラザ・うまんちゃんの建物どこだろうねぇ」
ウキウキと観光ガイドを片手にキョロキョロしているウルヒを捕獲する。
「とりあえずベルフラワーサロンだ」
ウルヒの腰を抱いてデパートとやらに行くことにした。
ええーうまんちゃん所に行きたいよ〜。
ウルヒが街にかかげられた宣伝旗を指差した。
オレンジ色のにほん足走行のぼってりとした馬? のキャラクターがピンクのたてがみをなびかせてタカサキベルフラワー商店街とかかれた旗に一緒に描かれていた。
人界はどうかしてるんじゃないだろうか?
ベルフラワーサロンはすいていた。
どうも郊外型のショッピングモールとやらに人が集まって高級店はあんまり人が集まらないらしい。
「うーん、お高いね」
オーグ家のお嬢様のはずのウルヒがグラスセットを手に持ってつぶやいた。
「お客様、カタログギフトが最近流行りでございます」
上品ぶった人族の女が微笑んだ。
「カタログギフトってどういうのですか? 」
「こちらでございます」
人族の女は紫の花の描かれた表紙の本を出した。
ウルヒがこの健康診断セットいいねぇと本を開いてつぶやいた。
それは人族用だから魔族したら大騒ぎになるだろうと思ってふとみるとさっきの人族の女が私を見ている。
人化に失敗はないと思うが……
「おまたせ〜ごめんなさいね」
上品な人族の中年美淑女といった風情で母上がポンっと私の肩を叩いた。
人化は完璧らしい。
「ライ、ウルヒちゃんごめんね」
隣の小動物みたいなクリクリした目の可愛い中年男性風のライセ父上が手を振った。
こっちは下級人型魔族なので全く変化はいらない……いらないが……年齢だけは中年に変えてるらしい……魔族は人族より老化が遅いからな、力が強いと特に……普段は美少年風なライセ父上に少し複雑だ。
どんだけ童顔なんだぁ〜。
「ライ、ウルヒ君」
普通に笑っただけなのに色気たっぷりのヘーリセント父上がなんで人化して色気美中年でライセ父上の肩を抱いてるんだ。
「奥様こんにちは、おじ様方〜お久しぶりです」
ウルヒがひらひらと本を開いたままふった。
人間ドッグ体験一泊コースなんぞ選んでどうする?
人族に混乱させるだけだろう。
いや……混乱させてるのは母上たちの方か……なんでヘーリセント父上はライセ父上があのぬいぐるみもいいですねと言ってる頭を愛しそうにくちづけてるんだ。
あそこは出産祝いの方だ。
我が実父ながら小柄でぬいぐるみが似合いすぎだ。
従業員人族の女はスルー出来てるが買い物客の年配の人族の女が顔をしかめているぞ。
「あなた達、今日は結婚式の引き出物を選ぶのよ、ぬいぐるみはあとにしなさい」
「チズレイアちゃん、オーガニックだって二人の子にどうかな」
ライセ父上がぬいぐるみを抱きしめて小首をかしげた。
母上は真っ赤になりヘーリセント父上はライセ父上をぬいぐるみごと抱きしめて耳をアマガミした。
「大旦那様方仲がいいねぇ」
ウルヒが血圧計のページを開いたままつぶやいた。
その健康カタログギフト、絶対に敬老会とかの御用達だろう。
「もう少し華やかなのがいいわね」
「そうだね」
「ピンクのリボンのお皿セット可愛い〜」
立ち直った母上とヘーリセント父上と二人にはさまれたライセ父上が陳列棚を見ながら話してる。
「そちらはリノアのティーセットでございます」
ニコニコと従業員の女が三人に対応している。
「それと二人の名前入りのチョコレートセットとか……ダメ? 」
ライセ父上の上目遣いにヘーリセント父上と母上は二つ返事だ。
「おかしいねぇ〜私と旦那様の結婚式の引き出物のはずなのにねぇ」
「そうだな」
ウルヒの可愛い困り顔に抱き寄せた。
「あら、そうよね、ごめんなさい」
「そうだよね、ごめんね」
「ごめんよ、で何がいいんだい?」
三人にあやまられてウルヒはニッコリと差し出したのは……
有名病院で脳ドックと人間ドックフルコース2泊3日セットのカタログギフトだった。
おい、本当に魔族の自覚あるかウルヒ。
もちろん却下だ。
なんだかんだと引き出物も決まり両親たちと食事をしたあと両親たちと別れてウルヒと街を歩いた。
両親たちはテディベア博物館に行くらしい。
ライセ父上がウルヒちゃんにも大っきいテディベア買ってくるねとブンブン手を振っていた。
抱きまくらにでもしようかねぇとボソリとため息ついてたの聞いたぞウルヒ。
まあ、こいつはうまんちゃんとやらのほうがいいんだろうがな。
「健康プラザにも行きたいねぇ」
ブツブツ言いながらウルヒが歩いてるのを見ながら
気配を探る。
奴の下僕が案の定引っかかったようだ。
さり気なさを装ってウルヒにポケットティッシュを配った。
なるほどな、あの男の執着は本物で下僕は貢物としてウルヒを選んだわけか……
よっぽど黒家の当主が翠家の令嬢を守ってるらしいな。
私も今回の情報がなければ囲い込んで出さないのだが……
ウルヒの姿が次の瞬間人混みに消えた。
なるほどな……だが甘いな。
ウルヒの気配に合わせて転移する。
たくさんの岩が立ち並ぶ荒野で金の髪をした緑の鋭い目の一人の男がくるくると水晶のような割れたガラスのような欠片を透かす。
光を受けて欠片無数色の輝きを放った。
大罪人オストロフェス……
「ご主人様がお望みのものをとらえてまいりました」
黒いウサギのような耳の魔族があたりをキョロキョロするウルヒの腕をつかんで前に出した。
「ソーニャよくやった」
オストロフェスが笑った。
「だれなのさ」
「おや、忘れたのかあんなにあえいだのに」
ウルヒの不安そうな顔に奴が近づいて顎をもった。
「あんなにかわいがってあげたじゃないか」
奴がウルヒの首筋に噛みついた。
ガチッと硬い音がして奴の口から血があふれた。
「凶暴だな」
ニッコリとウルヒ(仮)が笑った。
「お前、あのヘボ龍人じゃないな」
「ヘボ龍人とは私の愛しい妻のことか? 」
下僕に転移させられる直前で入れ替わり結界に保護した愛しい妻ウルヒの映像を見せる。
のんきにガイドブックを見ていたウルヒがオストロフェスを見て恐怖に自分自身を抱きしめて後ずさったのを見てみせたのを後悔した。
「お前を倒せばあの女が手に入るんだな」
オストロフェスが力を練りはじめたので後ろににげて本性に戻った。
いや……ウルヒと私の命はつながっている。
隷属させねばウルヒフェルシアは死んでいた。
私を倒してもウルヒは私とともに滅するだけだ。
だが……
「お前などにわたしはしない」
「いい度胸だ、白の蛇神!」
オストロフェスが雷撃を落とした。
私は結界をはったそれとともに水流をオストロフェスにぶつける。
「逃げたか」
「クソ蛇やりやがったな! 」
オストロフェスが虎耳を出して怒鳴った。
水に濡れてる。
水流に閉じ込めてやろうと思ったのにさすがということか。
「くらいやがれ! 」
雷撃の嵐が岩を砕く。
「ご主人様〜」
黒ウサギがあたふたとウルヒの入ってる球体の結界にしがみついた。
くっやるな……岩にぶつかって気が遠くなる。
「良家の旦那はいいよな」
痛む頭を抱えて見上げるとオストロフェスが嘲笑をうかべて腕組みして宙に浮いていた。
「お前がおもうほど良くない」
「ふん、まあ、あんたの大事な女が俺のものになるのでもみながら逝きな」
オストロフィスが横に目をやった。
ウルヒを取り巻く水の結界が破れて黒ウサギが捕まえようと駆け寄ったのが見える。
まずい、ウルヒは無力だ。
よそ見するなよと嗤ってオストロフィスが指を立てた。
雷が落ちる。
「旦那様〜」
白い龍が私をぐるり取り巻いた。
雷が龍に直撃する。
龍は……ウルヒはくたりとなりながらも私をかばうのをやめない。
「ウルヒ、やめろ! 」
「旦那様死なないで」
「ちっ滅したいのか」
オストロフィスがウルヒに近づくウルヒが動かない身体で威嚇した。
えいえいおーってなんだ?
ウルヒの威嚇は……変だ……なんか力がぬける。
お前やっぱり最高に面白い。
いつまでも俺の物にしておいてやるよ。
そう笑ってオストロフィスがウルヒの胸に無数の光を放つ水晶? を突っ込んだ。
ウルヒが身悶えて小さく龍人体に戻って倒たので慌てて抱き寄せた。
胸元で龍珠が鼓動のように光ってるのが見えた。
ウルヒの龍珠は確か割れてくもって光らないはずだ。
目の前の男のせいで……
隷属の呪を今なら解いても生きられるかもしれない。
「これで面倒なのは滅してもいいよな」
舌なめずりしてオストロフィスが笑った。
面倒なのとは私のことか?
気絶して動かないウルヒを抱えてオストロフィスをにらみつけた。
「そいつは俺が最後まで遊び尽くしてやる」
オストロフィスが雷の玉を頭上に浮かべた。
そのまま私たちに……正確に私だけに雷をぶつける。
絶体絶命か……
私はウルヒを抱きしめた。
滅するとき一緒だ。
「僕の息子をいじめるな」
パフっとおとがして大っきいクマのぬいぐるみがオストロフィスにぶつけられた。
雷撃が空中分解した。
「嫁にもよ」
氷の柱が岩場に立った。
「そっちのうさぎちゃん含めてお仕置きだよ」
ピンクの縄が黒うさぎとオストロフィスに絡みついた。
「なんだ? お前ら」
オストロフィスが氷柱に左うでをつらぬかれながらも避けた。
「僕達はこの子たちの保護者だよ!! 」
胸を張ってライセ父上がオストロフィスをにらんだ。
保、保護者……
うちの両親たちがなぜかそろっていた。
しかも母上とヘーリセント父上はライセ父上を微笑ましくみまもってる。
「保護者付きとは本当に箱入りだ」
左腕を雷で焼いて止血しながらオストロフィスは笑った。
「ご主人さま〜助けてくださーい」
下僕の黒ウサギが縄にまかれてジタバタしている。
「保護者ともども散りな」
雷の渦が空に渦巻いた。
このまま全滅か?
「だ、ダメ……」
ウルヒがつぶやいて目を開けた。
「まってろおもちゃ」
オストロフェスが雷渦を保ったまま舌なめずりした。
「旦那様も、義両親も今度こそ傷つけさせないの」
ウルヒが私にだかれたまま雷渦をにらみつけた。
おもちゃ何するつもりだとオストロフェスが嘲笑した。
「必殺、みなさんの体操……えいえいおー!! えいえいおー!! 」
勢い良くウルヒが腕をつきあげた。
力がぬける光景なんだが……
ウルヒの龍珠が光を放った。
「えいえいおー!! えいえいおー!! もひとつおまけにえいえいおーだねぇ!! 」
ウルヒの龍珠の光と水流が雷渦にものすごい勢いで直撃した。
ついでにオストロフィスもとばして岩山にめりこました。
「私の大事な人たちをいじめるな〜えいえいおー!! 」
ウルヒがもう一度腕を振り上げると黒ウサギも飛ばされた。
えいえいおーは必殺技だったのか……
力が抜けすぎる……
「おもちゃごときが生意気な……」
岩から血をダラダラたらしてオストロフィスが立ち上がって本性の雷獣に戻った。
「壊れやがれ〜!!! 」
オストロフィスが大きく口を開いて特大の雷撃を放った。
ウルヒが龍体を取ろうとしてるので抱え込んだ。
かばわせない滅するなら一緒だ。
光りがあたりにみちた。
すざまじい音とともに雷撃が落ちた。
「避雷針って効きますね」
「さすが天才軍師だな」
とつじょ現れた高いアンテナ状の物体と魔界軍の血赤色の軍服を着たのんきな連中によって雷撃は流された。
「エリカスーシャ! 」
短い黒髪に銀の瞳の太った血赤の軍服の龍人の女が私を見て笑った。
「ライノエリ様、お久しぶりです」
エリカスーシャは隣のヨルムンガンド族らしい透けた水色の髪のガタイの良い男に次代ご当主様ですとのんきに言っている。
「よくも」
怒り心頭の様子のオストロフィスに上から網がかけられた。
気にせずオストロフィスが雷撃を放つ。
みごとに網に吸収されている。
絶縁体網成功ですと部下らしいネコミミ軍人と鳥人がハイタッチした。
そういえばエリカスーシャは雷龍だったな……
「丸龍何をしやがった!! 」
「ぜ、絶縁……」
「丸ちゃんを威嚇するな、大罪人!! 」
オストロフィスの威嚇にエリカスーシャは怯えてグリシス少将ーとヨルムンガンド族の男の影に隠れた。
ヘルスチア兄上がみたらまずい光景だ。
「おとなしくお縄につくが良いねぇ」
ウルヒがカッカッカッとよくわからない笑い声をだしてオストロフィスを見すえたあと……意識を失った。
「ウルヒ? ウルヒフェルシア? 」
私は慌てて抱き上げた。
龍珠が穏やかな光を放ち……寝てる……こんな状況で寝落ちか? ウルヒフェルシア……
「面白いやつだなぁ……とりあえずつかまってやるぜ」
楽しそうにオストロフィスが笑った。
捕まれば滅せられるのは確実なのになぜ余裕なんだオストロフィス?
わたちは逃げるのです〜と猫獣人に捕まえられた下僕がジタバタしオストロフィスが魔界軍の連中に魔封じの檻に入れられて連行されているのを見ながら思った。
「こ、ここはどこなんだ? 」
むふふと寝たまま笑うウルヒを抱きかかえて私はつぶやいた。
「あ~ライノエリ方向感覚壊滅的だからね」
「雄大なる渓谷だろう? 」
「あら、そうなの? 」
チズレイアちゃんも雄大なる方向音痴だからねと嬉しそうに母上に抱きつくライセ父上と二人を抱き込むヘーリセント父上の惚気を無視して思った。
おのれ〜オストロフィスめ〜。
なぜ米国なんぞで格好つけるのだ。
ニホンのオニ押し出し園で充分ではないか〜。
雄大なる渓谷で私は夕日に向かって吠えたのはウルヒに内緒だ。
えいえいおーえいえいおー。
今日も元気に愛しい女がテレビを見ながら体操している。
私は向きを変えてベッドの上からウルヒを眺めた。
オストロフィスに戻された龍珠のかけらのおかげでウルヒフェルシアの龍珠の力はある程度戻った。
ただしまだ、ひび割れてるしあの雄大なる渓谷で力を使いすぎていてまだまだ私から離れられない状況だ。
もっと力をつけて必ず旦那様から独立して嫁ぎます。
キラキラした目でウルヒが宣言した。
しかし……体操して龍珠とは復活するもんではないと思うぞ。
それに……オストロフィスがみごとにあの黒ウサギと共に脱獄した。
そうに聞いた、だから当分……おそらく生涯、私はお前をこの屋敷……私の腕の中から出すつもりはない。
「ウルヒ……ウルヒフェルシア」
「おはようございます、旦那様」
呼びかけるとウルヒは手を広げたまま挨拶をした。
なんて可愛いんだ。
「そんなに運動したいなら運動させてやる」
「ええ? 別に良いですよ」
「遠慮するな」
私は容赦なく愛しい女の身体を巻き込んでしっぽでベッドに押し込んだ。
ぼ、盆栽〜。とつぶやいてる柔らかい身体を抱きしめて満足しながらつぶやいた。
私はお前を生涯この腕の中から離すつもりはない。
ビクッと何か感じたウルヒの反応に笑って首筋にキスした。
ああ、やっと手に入れた。
私の大事な愛しいウルヒフェルシア……
いつまでも一緒にいよう……
この身が滅するその日……いやその果てまでも……
私はウルヒフェルシアのトリコだ。
私の至福の時間はいつも通り側近の来訪で邪魔されるまで続いた。
早くウルヒを嫁にして後継者を作って隠居していつまでもウルヒを抱いていたい。
そう思いながらミノラのしっぽに巻き込まれて引きづられながら旦那様、いってらっしゃーいえいえいおー。と言って手を振ってるウルヒにガクっとなった。
ウルヒ……やっぱりお前といると力がぬける……いい意味でだが。
ともかく帰るまで大人しくしていてくれ。
今度、欲しがってた人界の体操百科のでーぶいでーとやらを買ってやるから……
ウルヒ愛してる……。
だから変な空回りしないで待っててくれ。
囲い込んで囲い込んで囲い込んで大事にする。
私の大事なおとぼけ白龍、私は狂おしいほどお前を愛している。
読んでいただきありがとうございます♥