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第三話


「君は持ち主でもないのに、ここに来たというのかね」

「は、はい……」


 叫び声を上げた謎の外人集団は、ややあって落ち着きを取り戻すと、烏羽さんが聞いてきた。私は何度目になるかわからない言葉を返す。


「だとすると、これはもしや……」

「出れるかもしれないってこと?」

「まさか」

「おお、神よ」


 口々に、思い思いの言葉を口にする面々。中には天を仰いだり、胸の前で十字を切ったりして、いやいや待って、私が全くついていけてない。


「ちょっと、いいですか」


 あまりにも置いてけぼりにされているので、口を挟んでしまう。その言葉に皆、動きを止めてこちらを見てくる。

 少しの間をおいて、烏羽さんが咳払い一つ、口を開いた。


「ああ、すまない。我々にとってはこれ以上ない朗報だったのだよ、君がやって来たというのは」

「朗報ですか」

「うむ。何せ我々は、ここに閉じ込められていたのだからね」

「はい?」


 どういうこと? ここに住み着いていたといっていたけど、この人たちこそ監禁されていたってこと?


「……経緯を話すとしようか。少し信じられない話かもしれないが、聞いてくれるかい」

「はい」

 こちらとしても、一応はここの土地の持ち主になった人間なのだ。未だ得体のしれない集団が今後も住みつかれてしまっては非常に困る。なにがしかの事情があったことは雰囲気でわかるけれど、それがわかれば一つ謎は解けるし、もしかしたらこの人たちも宇市家の関係者だということもあり得るのだから。


「私から話すが、皆、いいかい」


 烏羽さんが、興奮冷めやらぬ面々を見ながら確認をする。どうやら年長者であるこの人が集団をまとめている人物なのだろう。

 烏羽さんは「長くなるかもしれないから」と一言添えて、皆をそれぞれ椅子に座るよう促し、語りだした。


「我々は、見ての通り国籍も年齢もバラバラの集まりでね。私自身不思議な縁だとは思うが、共通することがある。それが楽器なのだよ」

「楽器、ですか」


 先程から出てくるキーワードに『楽器』がある。それが共通点とは一体。


「我々はそれぞれが楽器の演奏者で、それがきっかけでここに集まったといっていいだろうな」

「えっと、つまり皆さんはここで演奏をする為に、呼ばれてやって来たということでしょうか」

「いや、そういうわけではない」


 きっぱりと否定された。この人が何を言ってるのか私にはさっぱりわかりません。


「我々は皆違う楽器を担当していてね。まあそれは偶然そんなこともあるのかもしれないが、何より不思議なのは、皆、特殊な楽器を持っているのだよ。……その楽器のせいなのかはまだわからないのだが、我々はその楽器の持つ不思議な力によって、ここに跳ばされたのだと考えている」

「ええっと?」


 既に不思議度が過ぎて理解が追いつかない。烏羽さんが言うことをそのまま受け止めるとするならば、不思議楽器の持ち主がここに集められたということになるけれど、百歩譲って何やら力を持つ楽器があったとして、跳ばされたっていうのはどういうことなのだろう。


「先程から跳ばされた、とおっしゃっていますけど、それってどういう……」

「言葉通りの意味だよ。我々も理解が及んではいないのだが、気付いたらここにいたのだよ」

「ごめんなさい、わかりません」


 もう素直に自分の理解力のなさを口にするしかなかった。いや、これは私の理解力の問題なのか?


「まあ、そうだろうね。我々もそうだったのだから。跳ばされて、と言っているのは勝手にそう呼んでいるだけでね。実際はこう、ワープしたというか、そんな感覚だったのだよ」


 さあて、いよいよもっておかしな話になり始めましたよ。ワープ? そんなことがもしできるなら私はその楽器の力とやらでハワイに行ってみたいもんですよ。

 私の心の声なんて関係なしに烏羽さんは続ける。


「今ここに七人いるわけだが、同時に跳んできたわけではない。私が一番最初で、次がボルトーレ君、次がヴァレーさんで……。おっと、そういえば」

「レディへの自己紹介がまだだったね、烏羽」


 鼻高ひげ外人が人数分のティーカップをテーブルに並べながら言った。先程とは違う茶葉の良い香りを漂わせて、私のカップにも注いでくれる。


「俺が今紹介にあったボルトーレ。イタリア生まれさ。ここに跳んできたのは烏羽の次で二番目。サックスを担当させてもらってるよ。得意なのはアルトサックスだけど、サックスの仲間なら一通り吹けるよ。あとは専らここの家事担当ってところかな」


 それぞれのカップに紅茶を注ぎながら、こちらにウィンクを投げてくる。私はそれに軽く笑って返す。

 ボルトーレ、と名乗った鼻高ひげ外人の男性は、私が印象を持ったその通り、鼻が高く、無精髭を蓄えている。背も大きく、少しパーマがかった黒髪は短髪に整っていて、青みがかった黒目がまたウィンクする度に輝いて見える。いかにも陽気なイタリア人というリアクション豊かな男性だ。


「じゃあ次は私ね。私はフランス出身のヴァレーよ。三番目にここへ来たわ。楽器はフルートで、これでも一応オーケストラの首席奏者だったのよ。ここでは、そうね、お姉さんってところかしら」

「自分で言っちゃうんだな、オネエサン」

「ちょ、ちょっと、茶化さないでよ」


 ボルトーレさんがニヤリとしながらヴァレーさんにツッコミを入れる。

 ヴァレーさんは綺麗な金髪にまず目がいく。腰ほどまで伸びた黄金のそれは、癖がなく艶やかなストレート。女性憧れの天然ストレート。それだけではなく、まるで宝石みたいな明るい青い瞳がより一層魅力的で、間違いなく男性だったら目で追っちゃうぐらいの美人。しかも交渉楽団の首席って、ちょっと神様、贔屓しすぎじゃないですか。

 私は憧れの目というより女性相手に恋に落ちそうなぐらい引き込まれながら、会釈する。


「……ああ、俺の番か。名はシュテープ。ドイツの軍の音楽隊に所属していた。階級は中尉でトロンボーン担当だ」


 以上、ですか、シュテープさん。ハッキリ言って、怖いです。威圧感が半端ないし、体格もいいし、いかにも軍人って感じ。けど何より距離感がすごい。ちょっと離れたところに座っているし、一匹狼って印象。あまり表情豊かな感じでもなそうだけど、でも顔立ちは整っていて、オールバックの黒髪も似合っている。寡黙でクールで軍人男性、しかも楽器できるとかこりゃモテモテ人生を送ってきたに違いない。

 なんて下世話なことを考えてしまう自身に心の中で嘲笑しつつ、会釈。


「さてさて、あたしの番だね。あたしはドラマーの猫尾。見た目通り日本人! ここには五番目の到着だったかな? だよね? ずっとバンドやってたんだ。ここでは、そうだなあ、盛り上げ担当?」


 さっき声をかけてくれた女の子だ。そんなに私と歳も変わらないように見える。金のメッシュをいれたショートボブを揺らしながら、表情がコロコロ変わる可愛らしい女の子。バンドやってたって言うだけあって、ファッションセンスはなかなかに独特だけど、彼女らしいといえば、らしいようにも見える。盛り上げ担当感バリバリのムードメーカーってところだろうか。

 そして次は、って、何この神が作り出した奇跡の賜物みたいな人……!


「初めまして。僕は、メディスと言います。見た目は完全に外人かもしれませんが、これでも日本とアメリカのハーフなんですよ。ヴァイオリンを担当していて、アメリカではソロで弾いていました。よろしくお願いします」

「よっ、貴公子!」

「ね、猫尾さん……」


 こんなにも美しい人間がいるのだろうか。言葉づかいも丁寧、物腰柔らか、長身、長めの金髪、容姿端麗。完璧超人イケメン過ぎる。猫尾さんじゃないけれどこれは紛れもない貴公子だ。こんなイケメン、芸能人なんて目じゃない。本当に、ヤバイ、かっこいい……。

 胸を貫かれるような眩しすぎる笑顔に目が離せない。やばい、顔赤くない? 大丈夫かな、私。

 耳の奥で心臓の音が響いている。ドクンドクンとうるさいくらい鳴っている胸の動悸が収まらない中、心音の隙間を縫うようにして高めの声が届いた。


「で、俺が最後にやって来た、間条衛(まじょうまもる)。トランペット担当。楽器修行に海外を旅してたんだけど、気付いたらこんなとこにいたんだよな。まあここも楽しいけどな、好きなだけ吹けるし」


 この子は年下かな。中学生くらいだよね。ワンパク小僧って言葉がしっくりくる、可愛い弟って感じの男の子。ああ、だめだ。メディスさんの素敵笑顔の残像が消えなくて、どうでもよくなってる気がする。


「最後は私、烏羽だ。ここには最初にやって来て、担当はウッドベース……コントラバスをやっている。若い時からジャズばっかりでね、でもここに来てからはいろんな演奏ができて、良い肥やしになったよ。面子も国際色豊かだからな」


 ハスキーで低めの声が響く。本当に良い声のおじ様だ。渋い。シャツにベスト、スラックスに革靴という、おじさんをおじ様に格上げするための要素を全て併せ持つ、滅多にお目にかかれない本当のおじ様。真戸さんとは別ジャンルで良いおじ様だ。ってなんか、私おじ様フェチみたいだけど、そんなことないんだからね。


 それにしても、なるほど、確かに個性豊かな面子であることはわかった。それでえっと。


「あ、私は、多田野瑠夏です。高二です」


 特にこれと言って自己紹介することがなく、若干の恥ずかしさと虚しさを覚えた。

 一応ここに来た経緯と、鍵の所持理由をわかっている限りで話す。私の拙い話でちゃんと伝わったのかわからないけれど、皆真剣に耳を傾けてくれた。


「なるほど、瑠夏さんだね、よろしく。形は違えど、君もある意味跳ばされてきたのかもしれないなあ」

「そう、ですね。よろしくお願いします」

「さて、どこまで話したかな……ああ、そうだ。我々はそれぞれ楽器によってここに来たわけだ」


 自己紹介も終えて烏羽さんが再び話し始める。すっかり忘れかけていたけど、そう、私が知りたい謎はそこにあるのだった。


「楽器の力、と我々は予想してはいるが、正直なところそれが真実なのかはわかっていないんだ。ただ、これまで順々にやって来た皆の話を聞くと、共通点というのが、その一点でね」


 烏羽さんはそこまで言うと「ちょっと失礼」と一言、胸ポケットから煙草を取り出し、マッチで火をつけた。ゆっくりとした動作で深く煙草を吸い、天井に向けて煙を吐いた。それもまた絵になるおじ様。


「話をしていくにつれて、ここに跳んでくる人間が増えるにつれ、ますますもって何故ここに跳んできたのかわからなくなった。皆がこの場所を知らなかった。訪れる理由もなければ、ゆかりもないのだ。果して我々は集まったのか、集められたのか……それすらもわからなかった」

 

 烏羽さんは、何か思いを馳せるような、表情からは読み取れない不思議な感情を言葉に宿していた。静かに煙を吐いて、私の目を見て続ける。


「ただ、わかっていることも幾つかある」

「わかっていることですか」


 私の問いに軽く頷いて、短くなった煙草を灰皿に押し付けた。煙草が消える時の独特な濃い香りと共に、一筋煙が昇る。

 煙の向こうから低音が抜けてきて、遅れて鋭めの眼光がこちらを見ていた。しかしそれは私を見ているようで私を見ていないようだった。


「そう、まずはここが日本だということ。それはここにあった物から推測できた。まあ、国内のどこかまではわかっていないのだが、それは君が来たことで確信を持てた。もしやどこぞの知らぬ国なのでは、という可能性もなかったわけじゃないからね」

「そうでしたか……ここは確かに日本のT県F市です、少し駅からは遠いですけど」

「そうか……よかった」


 烏羽さんをはじめ、猫尾さんや衛君は日本人だからか、そこがどこだかわかったようである。

 

「……それと他にわかっていること、それは、我々はここから出られないということだ」

「出られない?」

「何を馬鹿な、と思うだろうね。私も思ったよ。だがね、ここに跳んできた時、我々の誰一人としてそこのドアから来たものはいなかった。そして皆が皆、ドアから出ようと試みた」

「けど……だめだった?」


 烏羽さんだけでなく、皆が暗い表情をしていた。


「何の力が働いているのか、どんなことをしてもドアが開くことはなかった。壁や天井を壊しして脱出を試みたこともあった。だが、それも無駄に終わった。連絡手段もない、完全に閉じ込められてしまったんだ、我々は……。だけど、そこに君が来た。その開くことのなかったドアからね」


 にわかに信じがたい話だ。でも、ここには少なくとも大人の男性が四人もいる。力ずくでも開けることができないドアがあるとすれば、よっぽど頑丈な金庫か何かだ。それがこんな古ぼけた鍵一つで開けられたのだ。

ここにいる理由がないということに関しては、嘘をついているようには思えない。少なくとも、皆の表情からここに住みつく理由は見受けられなかった。

 少し頭を捻りつつも、私は当然のように湧いた疑問をぶつけてみる。


「話の途中にすみません。それがもし本当に楽器の持つ不思議な力によって跳んで来たのだとしたら、その力を使って戻ることはできないんですか?」

「うむ、それも試してみたのだが……実際は試し方すらわからないと言った方が正しいか。楽器は楽器としてしか、使えなかったのだよ」


 烏羽さんの言葉を聞いて、心の中で静かに頷く。まあ、そうだよね、まず試すのはそこからかもしれない。


「とにもかくにも、だ。ドアが開かれたからには、我々もこれで解放されるわけだ。本当に良かった」


 皆もその言葉に安堵の表情を浮かべる。ヴァレーさんに至っては、涙さえ流して小さく「ありがとう」と呟くほどだった。


「何が起こったかわかんないままだけど、こっから出れるんならそれに越したことないよねっ! あたし早く外の空気吸いたい!」

「そうだな、まずは皆で久々の外の空気を吸おうじゃあないか」


 烏羽さんが言うや否や、猫尾さんは立ち上がるとドアに駆け寄る。それに続いて皆も席から立ち、後に続く。私もそれを追う形で椅子から降りた。


「ま、こっから出たら、とりあえずみんなで飯食おうぜ」

「そうね、いい加減ボルトーレの味も飽きてたし」

「おっとそりゃないよ……」

「俺は即座に国に帰って、隊に報告せねば」


 皆が皆、嬉しさを抑えきれないようだった。つられて私も笑顔になる。なんだかよくわかんないけど、これで万事解決ってやつかな。良かった良かった。


「……開かない」

「俺は寿司喰いたいなあ」

「いいわね、スシ。食べて見たかったのよ」

「確かに後学の為にも本場のスシを食べてみたいな」

「私は何度かありますが、ナットウマキがお勧めですよ」

「……開かない」

「俺は生魚が苦手なんでな、早く母国のエールを飲みたい」

「いいねえ、イタリアのワインも最高だよ」

「ワインならフランスよ」

「……開かないの!」


 言葉がやんだ。猫尾さんの叫びに皆が止まる。


「ドアが、開かない」


 猫尾さんが今にも泣きそうな表情をして振り向く。言葉を失って皆立ち尽くす。


「どけ」


 シュテープさんが猫尾さんをドアの前からどかすと、力いっぱいドアを引く。

 だがドアは音一つ立てず、動かない。


「おい、シュテープ、嘘だろ、冗談はよせよ」

「……!」


 ボルトーレさんもドアに手をかけ、シュテープさんと共に引く。それでもドアは不動の構えだ。


「なんてことだ……」


 シュテープさんがドアを思い切り叩く。ドイツ語で何かを一言叫んだ。私にはわからなかったけれど、多分、罵倒の言葉を。

 それをきっかけに皆俯いてしまう。烏羽さんだけを除いて。


「待ちたまえ、もしかしたら……」


 烏羽さんは私を引っ張る。え、ちょっ。


「瑠夏さん、君が開けてくれないか」

「え?」

「もし、君が開けられないなら、君もここに閉じ込められたということになる。だが、君は我々とは違う。ここから入ってきたんだ」


 確かに。このドアが開かないなら、私もここに閉じ込められることになる。それはまずい、非常にまずい。何がダメかって、何もかもがダメだ!

 私はドアの前に仁王立ちになる。皆の視線を背中に感じるけれど、そんなの構ってるどころではない。こんなところで強制共同生活を送るなんてまっぴらごめんだ!

 手をかけ、ぐっと力を込める。いくぞ。


「でやっ」


 何故そんな掛け声をしたのか自分でもわからないけれど、出てしまったものは仕方ない。要は開けばいいのだ、開けば。

 そしてドアはすんなりと動いた。


「ありゃ?」


 とんだ拍子抜けである。完全にこれはシュテープさんたちに担がされていたのではないかと、疑う余地があるぐらい簡単に開いた。

 確かめるように、私はドアを開けたり閉めたりする。ギイギイ音を立てはするものの、ドアが壊れている様子はない。

 ついでに外にも出てみる。外はすっかり暗くなっていた。一体何時なんだろう、早く帰らなきゃ。


「あ、開きましたね」


 私は振り向いて、中にいる皆に言う。

 皆の表情はもう、なんというかぐちゃぐちゃだった。泣いたり、笑ったり、驚いていたり、大変だな、この人たち。


「ああ、良かった。ありがとう、瑠夏さん。これで出れるというわけだな」


 烏羽さんの声を皮切りに、猫尾さんが突っ込んでくる。


「わあああ! 外だあああ! フギャッ」


思いっきり走りこんできた猫尾さんは、どこから出したのか変な声を出して転ぶ。

 ん? 今……猫尾さん、変な転び方……。


「おいおい、慌てるなよ! 外は逃げたりしなびぶべっ」


 今度は、倒れこむ猫尾さんを見ながら外に出ようとした衛君が変な声を出す。

 ん、もしかして。


「これは、まさか」


 倒れる猫尾さんと衛君をヴァレーさんとボルトーレさんが起き上がらせ、その横から烏羽さんがすっと近づくと、手を伸ばす。

 その光景はまるでパントマイムの達人の如し。見えない壁をペタペタと確認するように触る。

 烏羽さんは長く息を吐いて、顔には出さないけれど悲壮感を言葉にのせた。


「マダ、何がしかの力が我々を閉じ込めているようだ」


 私一人が外に立ち、皆がこちらを何とも言えない表情で見ている。

こんな時なんて言ったら……。


「どうやら、我々はまだ出られないらしい。だが、希望が無くなったわけではない」


 烏羽さんはじっとこちらを見て口を動かす。逆光のせいもあってか、どんな顔をしているかは読み取れない。七人の影が一つの大きな影となって私を隠す。


「きっと何かのヒントがあるはずだ。瑠夏さんが来たのはその何かの兆候……そんな気がするのだ。瑠夏さん、もしよかったら、これからもここに来てくれないか」


 烏羽さんはじめ、皆が私に希望とか羨望とか……人生で味わったことのない視線をぶつけてくる。

 なんにせよ、ここに人がいて、しかも出られないとあっては解決にはならない。一応はここの土地主になったのだから、出て行ってもらうまでが筋なのかもしれない。


「わかりました。私にできることがあれば協力します。一応ここの建物を譲り受けた者として」

「ハハ……。では、よろしく頼むよ、オーナー」

「オーナーだなんて! そんな!」


 笑い合ってってはいるけれど、私は外の自由の身。皆は囚われの中の人。皮肉にも中の住人の方が明るい場所に立ち、私一人が暗闇に立つ。

 

 とにもかくにも、私はこの場所に住む住人達と出会いを果たしたわけだ。私の夏休みは、一体どうなってしまうのだろう。

 少なくともわかっていることが一つ。もう面倒に巻き込まれているということだ。


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