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プロローグ 一

 初投稿になります。

 嶋屋 樹。と申します。


 小説という形のものを書くのはまだまだ初心者です。稚拙、至らない部分も多く見受けられると思います。


 継続して書き続けられること、完結させることを前提にしていきます。

 小まめな手直しが多かったり、投稿ペースなどが遅くなることもあると思いますが、どうぞ温かい目でよろしくお願い致します。


 今回書き始めたのは、自身の楽器経験を活かせる表現を何かできないか、ということからはじめたものです。

 設定だけをひたすら考えるのが好きなもので、文章力自体は皆無ですが、チャレンジということでご理解いただけると幸いです。


 楽しんで書けること、楽しんで読んでいただけることも目標として掲げていこうと思います。

 改めまして、どうぞよろしくお願い致します!

 炎天下。

 朝の天気予報によれば今日は32度の真夏日だと言っていたけれど、駅前の時計台下の温度計は35度の表示。猛暑じゃない。


 一度も訪れたことのない駅、見知らぬ街に来ることに、期待をしていなかったと言えば嘘になる。いや、むしろどこか胸が高鳴っていたことに否定はできない。

 けれども私のそんな高揚感は、熱くなったアスファルトへの打ち水のようにあっという間に蒸発して消えた。


バシャッ……ジュッ……


 代わりに降り注ぐは後悔と容姿ない太陽の照射。


バシャッ……ジュッ……


 ほら、今日はこんな暑いと言わんばかりに、駅出口横の商店の店員であろうおばさまがバケツから水を撒いている。

 こんな暑くては、アスファルトに跡すら残せない水も可哀想だ。もっと可哀想なのは否応なく熱くなるアスファルトで、もっともっと可哀想なのはこんなところに足を運んだ私だ。


7月31日。真な……猛暑日。


「あぁ、多田野瑠夏(ただのるか)。貴女は選択を誤ったのよ」


 私は自身に言い聞かせる。

 今朝まで抱いていた期待感から、少しお洒落しようかしらなんて思ったばかりに、こないだ買ったばかりの真新しい白いワンピースも既に汗を吸っている。失敗失敗。てへ。

 日除けの帽子ですらただの蒸し器と化してしまって入る気がする。これも失敗。てへへ。

 花の高校二年生の夏休み。大人っぽくなる為にと、春から伸ばし始めた髪すらも、この暑さの中ではうざったい以外の何ものでもない。やっと肩を越したくらいの髪を、左手でパッと払う。う……少しベタつく……?

 どんなにかわい子ぶっても太陽は容赦がない。これも全部夏のせいだ。なんて、どこかで聞いたセリフで季節のせいにしたって意味がないことはわかっている。


「行くしかないよね、帰るわけにもいかないし」


 そう、行くしかない。指定された建物まで行くしかない。

 夏のせいでもなんでもない。全ては夏休みの始まりの、海の日の出来事だ。

 私は、あの日のことを思い返しながら、覚悟を決めて日差しの中を行く。指定された、お店跡地に向かってーー




7月21日。海の日。


プルルルル……プルルルル……


 電話のコール音で私は目を覚ました。

いけない、こんな時間。

 冷房をつけたリビングでテレビを見ながらソファでウトウトしていたみたいだ。


「瑠夏ー、電話でてくれー」


 キッチンの方から声が聞こえてきた。


「えーめんどくさいー」


 心底嫌そうな声を出して拒否する。涼しいくらいまで下げた室温設定の中、ブランケットに身を包んでいた私は、それを頭まで覆って完全拒否の態度を取った。

 仕方ないな……うわ、寒っ、と心で呟きながら主夫である父さんがエプロン姿のまま小走りにきて電話を取った。

 私のブランケット饅頭になった姿を流し見て、「コラ、ダラけてるんじゃない」と視線で送ってくる。

 それを目だけ覗かせて確認し、父さんが電話を取ったのを見てから視線をテレビにうつす。お昼のバラエティー番組では夏のレジャースポット特集をしていた。あぁ、海行きたいな。


「もしもし、多田野です……はい……ええ、はい。夏実は家内ですが……」


 ブランケット饅頭から手だけを出してリモコンをとり、ワイワイと騒がしいテレビの音量を少し下げてやる。


「……はい。……えっ、ですが……突然そんな話をされましても、にわかには信じられませんが……はい。はい。……そうですか……では、家内に話を聞いてみますので折り返しお電話を……はい……電話番号はこちらの……はい」


 何だろう。父さんの声が強張っている。電話の内容まではわからないが、真面目な話のようだ。いつものほほんとした父からは想像できない声色だ。


「はい、失礼致します」


 静かに受話器を置くと、父さんは暫くじっと動かない。


「ねえ、父さ……」

「瑠夏、ご飯にしようか」


 ニッコリといつもの笑顔で制された。うん、お腹すいた。


 少し遅めのお昼を二人でとる。

 夏野菜のサラダに、ツナとチーズのベーグルサンド、あと種類までわからないけど父さんが挽いたアイスコーヒー。

 夏休みは海に行きたい、友達と花火に行く約束をした、なんて他愛ない会話をいくつかして食事を進める。

 その間、父さんは時々私の話を聞いてるようで聞いてないような感じになるのだった。気にはなるけれど、何か聞き辛い。原因は間違いなくさっきの電話だ。しかし話を聞いてる父さんの笑顔には、聞くなという意味が感じられるようで、結局何も聞けないまま食事を終えてしまった。

 ただ、一言「夏実が帰ってきたら、少し話そうか」と、父さんは言った。

 気がかりではあったけれも、私はそのままグダグダとテレビを見て過ごした。


 クラスの友達は夏休みも部活で忙しいという。一方私はというと部活には入っていない。

 入学当初こそ、ピアノ同好会なる、猫ふんじゃったとかきらきら星とかを放課後になんとなく弾いてくだらない話をして良き頃に帰るというものに入っていた。

 中学卒業までは本当にピアノしかやっていなかったのでそこを選んだけれども、それもいつの間にかどんどん人が減り、真面目にピアノを弾きたい人だけが残った。私もなんとなく半年経つ頃には辞めてしまった。

 というわけでフリー(部活の所属以外にもお付き合いの相手がいないという意味でも)な私は、ある意味夏休みというものをどうとでもできるのだ。

 夏休みの課題なんてものは、最後の一週間で仕上げるというのが学生の正しい過ごし方なのだ。言い聞かせているわけじゃなくて、私はそれができる自信がある。根拠なんてないけれど。


 ブランケット饅頭のままソファでお供え物のように鎮座していると、母さんが帰ってきた。もうそんな時間か。

 夏は日が暮れるのが遅いので時間の感覚がずれる。夕方でもまだまだ明るい。

 モゾモゾと芋虫のようにソファの上で蠢いていると、ブランケットを勢いよく剥ぎ取られた。最早寒いと言ってもいい室温が体を身震いさせる。


「寒いっ!」

「瑠夏! あんたねぇ、言いたいことはたくさんあるけど、体に良くないわよ!」

「ごもっともで……」


 母さんが剥ぎ取ったブランケットを私目掛けて丸めて投げると、エアコンの温度を調節する。

 私はブランケットに包まり直して、母さんに反省してるという表情を作りながら少し遅れて「おかえり」を言う。

 母さんは溜息ひとつ「ただいま」と返して、手で、ちょっとつめてというジェスチャーをする。私はまたモゾモゾと動いてソファにスペースを作ると倒れこむように母さんが座った。というか倒れた。


「今日も大変だったの?」

「大変も大変だったわよ、浮気調査に楽なものはないわ。蓋を開けてみれば本当にくだらない理由だったりするんだから。あんたは間違っても興信所なんかに勤めちゃダメよ。あと変な男にもひっかからないこと」


 足を投げ出して大の字になりながら母さんは言う。

 母さんは愚痴をよくこぼすけれど、それでも興信所で働いていることにプライドをもっているのを、私はよく知っている。人の悩みをなるべく身近な存在で解決してやるんだ、といつも口にしている。そんな母さんが私は大好きだし、主夫兼在宅で仕事している父さんを支えて頑張っていることも尊敬している。


「夏実、おかえり」


 父さんが冷えた麦茶に氷を入れたグラスをカランと鳴らし、大の字になっている母さんに差し出して言った。母さんは笑顔でそれを受け取ると一気に飲み干した。

 父さんはその姿を見ながら言った。


「夏実、今日宇市(ういち)家の人から電話があったんだ」

「……宇市家……?」


 母さんは氷だけになったグラスをテーブルに置きながら頭を捻っていた。

 宇市家……どこかで……宇市、宇市……。 ん? 宇市?


「宇市、って、あの宇市? 元豪族だか元武家だか大地主で大金持ちの!?」


 流石の私も思い当たった。というか、知る人ぞ知る超高級旅館で天然温泉で偉い人御用達で有名な宇市旅館の宇市!?

 何だろう、温泉旅行でも当たったの!?


「旅行でも当たったの!?」


 私の頭の中そっくりコピーしたかのように母さんが口にした。いや、この場合母さんの思考を私が見事に受け継いでいるということか。

 目を輝かせて私も母さんも父さんを見やったが、父さんは静かに首を振った。


「いや、宇市家の当主、宇市健造(ういちけんぞう)が亡くなった」


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