第四話 決戦
ついに怪獣ケマケマがその猛威をふるいます。
戦場たるヴァタの大地の上で、二頭の大いなる獣はたがいの姿を認めるや、ともに相手へおどりかかっていった。
シャダルの獣は前足をふりあげ、太き爪を敵の頬へ食いこませるや容赦なく引き下ろす。掻かれたほうの灰色の肌からは鮮血がふきだし、敵国スラヴァーヤの獣の咆哮があたりにひびくと、両国の兵士たちは腹のそこからふるえをおぼえた。
眼前で繰りひろげられる四肢もつ巨山のぶつかりあいに、もはや戦も忘れ、ただ強大な畏敬の念にとらわれ立ちつくすばかりであった。
鼻先を喰い破らんとシャダルの獣がアゴをかまえたが、ここに突如白煙が立ちのぼる。敵スラヴァーヤの獣が、あのおそろしい毒液を吐きかけたのだ。
悲痛なさけび声をあげながら頭をふり、液をはらおうとした隙に喉笛へ喰らいつかれる。同じく毒をまきちらすもあらぬ方へ飛ぶばかりで、敵の牙はますます深くささっていく。
シャダルの獣は前足をあげ虚空にもがいていたが、次第にその動きは弱まり、ついには膝から大地にくずおれた。
かくもあっけなく同属の歯牙により一方が打ち倒され、動かなくなったさまを見ても、人々はただ茫然のままたたずんでいた。
やがて勝利した獣が頭を起こし、シャダルの軍勢を見すえると、スラヴァーヤの陣より銅鑼の音が高々と鳴らされる。
勝どきの怒号に押されるように巨体が歩みを開始するや、シャダルの軍勢は一転恐怖の色にそまった。
進撃を鼓舞するシャダル王の声にも兵士らはすくんで動かない。だが獣が次第に歩みを速めていき、地響きが五臓をゆらし始めると、兵士たちは武器をほうってきびすを返し、脱兎のごとく駆けだした。
王は座から投げ出され背中を地面へ強かに打ちつける。津波となって押しよせる自軍の兵士に蹴られ、そして仰向いた先に、天上の柱の降りおちる様を見た。巨足のひと踏みは、逃げまどうあまたの兵士と王の命を一瞬にして大地に刻印せしめた。
猛進より逃れたものも無事では済まない。巨獣の口内より流れでた液体は、外気にふれるやその毒素を風にまじらせ、死を巻いて一帯に吹き渡った。呼吸にこの風をとりこんだものはただちに体の自由をうばわれ、次々落命したおれていく。
恐大の影はついにシャダル国内へと踏み込み、猛威のままに城下をがれきとむくろの山へと変えていった。もはや銅鑼の指示もまたず、人々の悲鳴を暴風のうなりでかき消し、眼につくものすべてを破壊しつくさんとするそのさまは、自らの意思で憎悪をふるう暴神そのもののようであった。
お読みいただきありがとうございます。
四話で収めるつもりでしたが尺的に微妙なので五話にしました。
次で今度こそ最後です。