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彼処に咲く桜のように  作者: 足立韋護
行雲流水の如く
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五月二十五日(三)

「さくら?」


「あ、誠司君……」


 少し頬を赤らめたさくらは、下唇を噛んで顔を背けている。それが何か言いたげであることを、鈍い誠司もわかっていた。そして、その内容も今の誠司には手に取るようにわかっている。

 なかなか何も言えずにいるさくらに、誠司は廊下に誰もいないことを確認してからゆっくりと歩み寄った。居心地悪そうに後頭部に手を置き、少しだけ顔を伏せる。

 一拍置いてから、意を決したように顔を上げ、さくらを真正面から見つめた。


「俺は、お前と付き合ってる。俺も悪くはないと思ったから、今もこうして毎日顔を合わせてる」


「は、はい……」


 誠司と視線を交わらせるさくらの目は、緊張と『不安』のせいか薄っすらと潤んでいた。


「その間に俺が他の女と付き合うこともなければ、他の女のところに入り浸ることはない。お前のところにいる」


「どうして言い切れるの……?」


「どうして? それは、あ、あれだ……少しだけお前のことが……」


 言葉を濁している誠司に、さくらは首を傾げて返事を促した。


「そ、そうだ、ほっとけなくなったからだ!」


 目を見開き、顔をぐいと近寄せる誠司だったが、くすくすと笑っているさくらを見て、途端に顔が熱くなっていくのを感じた。


「ふ、ふふ」


「なんだ、何がおかしい」


「良い意味で、受け取っておくね! ありがとう!」


 さくらは踵を返して、手を振りながら廊下を走って行った。その顔に笑みが戻ったことに、誠司は安心しつつ、自分が放った言葉の意味を今更になって吟味し始めた。


 ほっとけなくなった、か。何も考えずに、心のどこかから出てきた言葉。これが、俺の本心なのかもしれない。だが、これで本当に良いのか……?


 誠司は自問しつつ、咲に呼び出された体育館裏付近まで足を運んだ。無造作に生えた雑草と、敷地外とを仕切るための緑色の鉄網が見えた。鉄網の向こうには鬱蒼と雑木林が立ち並び、その奥に薄っすらと車道が望める。

 丘の中腹に立つ戸井高校の周囲には、いまだに自然が残されており、それを特色ともしていた。その特色が入学後には、夏場の多種多様な虫と、冬場の枯葉掃除に変貌するとは誰も予想だにしていなかった。


 そんな、春にもかかわらずじめっとした体育館裏には、咲の仲間の藍田と青山はいない。辺りにも人の気配はなく、強張った表情の咲が一人で待っていた。

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